読書メモ

・「長期投資で日本は蘇える!
(澤上篤人 :著、PHP研究所 \1,500) : 2010.04.14

内容と感想:
 
本書のテーマは「国に頼るのはもう止めよう。国民ひとりひとりが自助意識を高めれば、なんとでもなる」、 そのためには長期投資が必要、ということ。
 「あとがき」で「政治が変わってくれれば良いが、指をくわえて待つのも時間が惜しい」、 「どんな世の中にしていきたいのかを、自分たちで一歩一歩実現していけばよい」と国民主導の改革を求めている。 「政治は後からついてきてくれてもいい」とまで言っている。
 その考えをベースに本書ではいろいろな方法論を提案している。 基本は個人マネーを動かし、日本経済の活性化を図る、というもの。 「草の根的かつ生活者ベースの経済活性化」と著者は呼んでいる。
 日本には「GDPの2倍の資金が眠っている」のだから、そのたった2%が動いて、株式市場に流れ込めば「日本経済をパッと明るくする」、 「国債の増発なしで景気浮揚効果」が得られると言う。 ちょっと無邪気な気がするが、問題はどこに投資するか、その投資先が投資に値するかということだ。 それが難しいから簡単に個人マネーは動かないと思うのだが。
 日本は「運用立国」を目指そう、というスローガンも掲げる。 「7年以上保有した分に関して」投資減税を行い、長期投資を促進させるとしている。 しばりを付けると投資家は敬遠するのでは、と思う。
 最近では長期投資が見直され、本格的な長期保有型の直販型の投信会社が登場しているようだ。 第7章では「小欲知足」という言葉が出てくる。 長期投資に慣れると人は小欲になる、人生も財産づくりも楽になるという。 「よく頑張って応援したね」と「お天道様がごほうびを下される」感じ、「稼いだという意識はあまりない」そうだ。 短期の株価の上下に振り回されるよりは、精神的にも良さそうである。
 長期投資主体で「日本株市場が大活況となってくれば、世界各国の企業が長期資本を求めて東京株式市場へ次々と上場してくる」だろう、 というのは一聴に値する。東京市場はそこを目指し、個性を出してもよいのではないか。

○印象的な言葉
・GDPの2倍の資金が眠っている、こんな国はどこにもない。宝の持ち腐れ(→海外からケチと思われないか)
・貯蓄率は世界最低水準(←上記と矛盾しないか?資産が偏在している)
・成熟経済の運営は民営化と減税が柱
・株式市場の暴落時に買い出動。(→撤退する外国人投資家から日本へ取り戻せる)個人が主役の座を奪う(→その後は外国人が寄り付かなくなる? 海外からの投資は減る?上がると思えば寄って来るはず)。
・暴落時の買いのために、わざわざ情報収集する必要もない。大暴落は新聞の見出しですぐ分かる。(→暴落が恐慌につながるかどうかで判断は違うはず。簡単には買えない。 そのまま潰れる会社も出てくるかも知れない)
・予算ばら撒きでいずれ景気は回復しても、質は悪い。淘汰されるべき企業や第三セクターを残したまま。生産性が上がらない、ムダが多いから値上げに走りがち。
・ストックを取り崩していくのは成熟経済の宿命(→所得は増えず、社会保障費は増えるばかり)。生活水準の切り下げも迫られる
・賃上げ要求より仕事確保優先
・日本のバブル崩壊で地価と株価下落で失われた富は1,058〜1,600兆円
・日本の金融機関は独自の時代先読みと洞察力で新規ビジネスを創意工夫する力が弱い
・銀行は本来の与信ビジネス(事業資金や信用供与)から、資金運用業務(国債購入、証券化商品投資)にシフト(→銀行の看板を下ろすべき。見限りたくとも次に預金を託す先がない)。 投資銀行的な業務など直接金融分野へビジネスを拡大。
・銀行は超低金利によりコストゼロで預金を集められるのだから、リスクを取った貸し出しをしてよいはず。
・銀行版商工ローンで中小企業の資金ニーズに応える。小口の融資を小刻みに実施
・従順で扱いやすい国民。「仕方ない」で、お上についていく。豊かさに満足しているが故の大人しさ
・マスコミにも迫力がない。情で訴える。企業トップの謝罪で一件落着と世論をリード
・戦後復興時の経済官僚の構想は雄大だった
・金融立国:世界ベースの情報収集力、迅速な判断、行動力、分厚い自己資本で敢然とリスクを取れる体制
・早めの利益確定で現金をプール、次の買い出動に備える
・先行投資期の苦しい段階は利益水準が低く、株価が割高と見られがち
・2007年夏までのバブルはすさまじかった。片田舎の銀行までマネーゲームの渦に巻き込まれた
・暴落相場ではロングショート戦略もふっとぶ
・資金運用の短期指向の弊害
・80年代、年金運用会社や年金コンサルタント会社が急増。巨額の運用報酬、運用会社の紹介料。手数料稼ぎ産業に傾斜。コストを払っているのは年金加入者や企業、国。 ムダがないか見直すべき。
・日欧で景気回復を実感できるのは3〜4年後。新興国の立ち直りはもっと早い。米国は中間くらい。
・先進国の年金中心に債権買い越し基調はそろろそピークを打ち、売り越し、または中立に向かう
・日本人投資家は誰かが相場のきっかけを作ってくれないと買いも売りもできない。外国人投資家頼み
・大らかで軽やかな運用
・長期投資化には難しい経済理論も統計数字も不要。ひたすら人間観察
・良い世の中づくりに私財の一部を投資、カッコ好いお金の遣い方

<感想>
・国債の利子払いのために新たに借金をするなんて馬鹿げている
・本当に日本人に将来不安はあるのか?ある程度生活できているから大きく踏み出せないのでは?
・横並び、無責任の日和見運用の機関投資家。それでも報酬を手にしている。なぜ出資者はそれを許しているのか?

-目次-
序章 世界最大の眠れる資源 ―宝の持ち腐れにするのか、日本経済再生の切り札とするか
第1章 これまでは、国が「お金を働かせて」くれた
第2章 これからは、「どう、お金に働いてもらうか」だ
第3章 投資とは、お金に働いてもらうこと
第4章 景気を良くし、経済を活性化させるのが、長期投資家の役割
第5章 世界は長期投資を必要としている
第6章 本格的な長期投資は簡単で楽
第7章 長期投資の先に広がる世界
終章 日本は新たなる成長で、21世紀の世界をリードする