読書メモ

・「勝つまで戦う 〜渡邉美樹の超常思考
(渡邉美樹 :著、講談社BIZ \1,000) : 2010.04.29

内容と感想:
 
著者はご存知、ワタミの会長。 外食事業で成功し、現在は介護、農業などにも事業進出し、新たな雇用も生み出してきた。 それを受けて、自身「この国がこれから行なうべき仕事のモデルをつくりつつあると自負して」いると述べている。
 本書ではこの時代を生き抜くためには、自らの中に「不変の「思考の軸」を確立すること」が必要だとし、 著者が作り上げてきた思考法や、いかにしてその思考を行動に結び付けてきたか語っている。 本書で取り上げているテーマは政治、経営、教育・福祉、お金との付き合い方や、仕事への取り組み方など多岐に渡る。 彼の真剣なこの国を思う気持ちが詰まっている。彼の政策集としても読める。
 日本国民には危機感が乏しすぎる、政治に無関心で任せっきり、当事者意識がないと嘆く。 そして政治は国民全体の幸せにつながっていないと指摘する。 このように政治にも関心の高い彼だが、第1章では政治家にはならない、と言っている。 「一議員になったとしても、影響力が限られ」、 それよりも「企業活動を通じて、社会に対して、あるべきモデルを提示していったほうがずっといい」からだと言う。 「政治屋」には興味がないのだ。
 著者は既に「ワタミ」の社長の座は降りているが、 それを「経営者という立場よりも大きな役割を果たすため」、「存在対効果」を高めたいからだとし、 従来の政治家や官僚の発想ではなく、彼なりの「世直し」の道を探っているようである。 政府も彼のように志のある、企業経営の経験もある人材をどんどん活用すべきだろう。
 また、グローバル化に関しては「国や地域、人種や民族の垣根を越えた、人々の心のつながりを生み出すに足る、価値観の転換」までは起こっていないと認識し、 「スタンダードとなるべきモラルや自由や平等、そういった心の側面がついてこないまま、物や情報の行き交う量とスピードだけ」が増大してきたと分析する。 いまが世界は欲望が先行して動いている。それは人類がまだ未熟だということを意味する。世界にはまだまだ貧しい人が多く、豊かな生活を求めて活発に動くのは仕方がない。
 第7章で「皆、幸せに暮らすことのできる社会を実現できたら、死んでもいい」と書いている。 これは筋金入りである。TV等での発言や、本書のような著作も通じてどんどん、その志を広く感化させていっていただきたい。

○印象的な言葉
・世襲議員は相続税逃れ
・思考の三原則「長期的、多面的、根本的」(安岡正篤)
・人の心は人の心によってしか充たされない。感謝の心。人に喜んでもらう、認めてもらう、愛してもらう。
・人生の価値:どれだけ人を愛したか、愛されたか、感謝されたか
・福祉ではなく徹底したサービス
・ベルギーでは投票を棄権すると罰金、投票資格が停止することも
・我々は国の運営費を税金というかたちで出資している
・間接的にほとんどの人が国債の保有者
・最大多数の人の幸せを考えるのが政治、行政
・補助金を出すなら、どういう事業計画で、採算性はどうかを見るべき
・日本も公選による大統領制にせよ (→天皇はどうなる?)
・国家経営には体力や知力を要する。根気、情熱
・日本の経営資源は豊富。人と技術。足りないのはミッション
・社員のクビ切りは家族を切り離すようなもの。単なる流動資産ではない
・不景気という時代は本物が勝つ。お客様はちゃんと見ている
・経営は想像力。痛い思いをして身に付ける
・お金は道具。距離をおき、執着しない。お金で夢は買えない。買えるものは欲望の範囲を出ない。欲望のためにお金を使うのは格好悪い。
・再配分による貧困率の修正(→それを許容する国民の成熟、利他思想)
・働くのが当たり前、怠け者は白い目で見られるのがデンマーク。ニートを許す日本社会の甘さ
・デンマークは高負担・高福祉。当然の義務と教育される。国を信頼し自らの役割をまっとうし、役割を終えれば国が世話をしてくれる安心感。
・必要なのは「Know How」ではなく「know why」。なぜ、そうなのかを知る。マニュアルのその先にあることに気付く
・自分が置かれた環境は前提、変えられないもの。それを変えようと悩んでも仕方が無い
・(人事)評価ははっきりさせて、ズレは修正していく
・人の好き嫌いは仕事とは無関係。他人の反応は努力してもコントロールしきれない
・経営者に求められるのは問題解決力ではなく、一歩も二歩も先を行き、起こるであろう問題を事前に発見すること
・「私」を超える
・孔子だったら、キリストだったらどうするか?論語や聖書にある普遍的な真理、人類の叡智
・人脈づくりより、己を磨け。必要なタイミングで自然と必要な人と出会う。自ら成長し、人を引き付ける魅力を持てば、人脈はできる
・人材の質が競争力を決める
・人は育てようと思って育てられるものではない。環境を整え、チャンスを与えるだけ。
・大人が楽しんでいる姿、学んだり、働いている姿を子供に見せる
・努力しない学校や先生を延命させるのは公費を負担する国民にも有害無益。
・年寄りにとって「楽な道」は「死への近道」。自立を支援
・夢はかなわなくとも、夢を追って努力し続けた日々は無駄ではない。高められてきた人間性が次の新たな夢に向かわせる

-目次-
序章 どんな時代でも絶対にぶれない「思考の軸」
第1章 政治を変革する思考法 −この国の「株主」として参加する
第2章 経営を成功させる思考法 −方程式を見つける
第3章 お金とつきあう思考法 −全体の幸せのために使う
第4章 仕事で成長する思考法 −「虫の目」と「鳥の目」を持つ
第5章 価値観を転換する思考法 −「私」と「無私」をピタリと重ねる
第6章 教育・福祉と取り組む思考法 −国の仕事のモデルをつくる
第7章 夢をかなえる思考法 −人の力を合わせる