読書メモ
・「バブルは別の顔をしてやってくる」
(熊野英生 :著、日経プレミアシリーズ \850) : 2010.03.20
内容と感想:
サブプライム問題で欧米のバブルがはじけた後に取られた各国の金融政策や財政政策が再び、世界に過剰流動性を招いている。
余ったお金は次のバブルの芽を探して貪欲にうごめく。
金融システムに「不健全さを抱えた」ままで。
特に新興国へは「高成長を再開しようとするところへ、過剰流動性が集まりやすい」という。
先進国との景況差があるから、そこで局地的バブルになる可能性があるのだ。
つまりタイトルにあるように次のバブルが「別の顔」をしてやってくるのは確実ということだ。
著者は「世界的な金融バブルの物語はまだ続きがあるかもしれない」と感じている。裏表紙には「世界金融危機の記憶もさめやらぬうちに、人類はまた過ちを繰り返すのか?」と
書かれているが人類の欲望が続く限りは、別の形でバブルを繰り返すのだろう。
本書は主に次なるバブルの萌芽となりそうな要因を分析している。
著者は「バブルが中途半端にしか潰れなかったせい」と「まえがき」に書いているが果たしてどこまで潰れればよかったというのか、
その場合の被害がいかほどになったのか想像するのも恐ろしい。
第8章でバブルを再来させるリスクとして、危機対応、格差、基軸通貨ドル、資金還流の4つのパラドックスを挙げていて興味深い。
1.「金融面での危機対応の技術が進歩するほど、金融市場はバブル崩壊のダメージから復活しやすくなる」、それは「バブルが再燃しやすい素地を残すことになる」
2.「先進国の金融緩和効果が振興国に流れて、それが資源インフレなどを誘発」し、先進国の景気の足を引っ張る
3.ドルが弱くなると、「景気が相対的に良い国々では、ドルなどの資金流入が活発化する」、流入した国ではバブル阻止のために利上げで対抗するが、それが更に流入を誘発する」
4.新興国経済が成長し、外貨準備が増えても、「米国などの国債投資に回って、先進国の金融緩和」を増幅させ、再び過剰流動性を生む
このように何か対策を打つと、それが回り回って戻ってきてしまう。イタチごっこである。
世界各国政府が財政出動した結果、景気は回復しつつあるが一方で、欧州では財政が悪化し、財政危機という新たな問題に連鎖してきた。
これに対し財政赤字を減らすために緊縮財政をとると景気が悪化する。税収が減り、更に緊縮せざるを得なくなる。ジレンマである。
欧米はバブルに懲りて、新たな規制強化策を導入しようとしている。しかしバブルは本当に防げるのだろうか?バブルを望む者たちが存在する限り、
懲りない面々がいる限り、バブルはなくならないだろう。
○印象的な言葉
・マクロ・プルーデンス政策:金融システムの信用秩序維持。バブルが膨らまないよう、歯止めをかける政策
・排出権取引が投機対象になる。投機資金で排出権価格が嵩上げされると、買い手になる日本は国民負担が膨らむ
・排出権価格と資源価格、商品市況との間に相関がある。企業が排出権に支払ったコストが、CO2排出抑制の設備投資・研究開発に回らず、
トレーダーの利益に回ってしまう。日本は排出権の買い手になる公算が高い。
・排出権の売り手に技術支援し、それを通じて削減できた排出量を自国の削減分に充当する仕組み。売却益を途上国の環境投資に振り向ける。
・環境税は有効か?
・バブルに乗っかる者たちはそれは「バブルにあらず」という論調を作り上げる。当人たちはバブルの利害から足抜けできなくなる。
・バブルは新型インフルエンザに似ている。突然変異を繰り返し、感染経路も変化
・皆が悲観にくれているときは率先してリスクを取ろうという者がいなくなり、未開拓のチャンスが数多く放置される。売られすぎの歪。
・2000年のITバブル崩壊は、IT産業が行き過ぎた設備投資により収益率を落としたから
・世界の中央銀行が金融緩和解除をするときは同時でなければならない。同調しない低金利国の通貨が資金調達に使われてしまう。
・日本の株価は海外投資家のポートフォリオ組み替えの影響で動くことが多い。円高で日本株の外貨換算額が増価すると、そのウエイトが大きくなるため、
大きくなりすぎた分が売却される。
・新興国は貿易で稼いだ黒字を運用に有利なアメリカの金融市場へ投資。自国に還流させると自国通貨高を招き、輸出に不利になる。
そのため米国は巨大貿易赤字を抱えても、対米投資による資本収支は黒字になる。
・オルタナティブ投資:代替的、非伝統的運用
・昨晩の米国株の上下で日本株を予想するほうがずっと正確。ただし、これでは世界の株価の連動することでより大きな振幅を生み、分散投資効果が薄れる。
・β志向運用:ベンチマークに対する相対リターンを志向
・α志向運用:絶対リターン志向
・ロングショート戦略や裁定取引は価格変動が理論値に収斂することを利用しているため、暴落の影響は免れない。理論値から乖離して損失を広げる可能性。
・米国経常赤字の持続可能性に不安を感じるとリスクを加味し始め、米国長期金利が上昇
・アジア金融市場のポジショニングは欧米の市場が閉まっている時間に開いていること
・米SOX法の適用によりNYで新規株式公開することが嫌われ、ロンドンにシフト
・国家の経済発展を金融業だけが引っ張っていくのは無理。十分な雇用吸収力をもっていない。金融業は優勝劣敗が明確に分かれ、みんなが幸せになれない。日本文化には馴染まない。
組織に嫉妬が蔓延すれば、協調や相互扶助が働かない。
・従来、商業銀行には国際ルールの枠がはめられていたが、投資銀行には規制・監督が足りなかった
・バランスシート上の資産のオフバランス化:金融資産を証券化して転売することで、バランスシートから切り離され、リスクフリーになる
・影の銀行(shadow banking):バランスシート外でレバレッジをかけて信用拡張
・複雑な証券化商品への不信感の蔓延は、証券化商品の価値を適正に評価できる人材の乏しさを意味する
・ナイトの不確実性:確率分布すら描けない特別なリスクにぶつかって身動きがとれない状況。フランク・ナイトは人間の知性が万能ということには懐疑的な立場、保守主義。
・カンターパーティ・リスク:相手先の資産内容が分からず、投資資金を出せなくなるリスク
・傷んだバランスシートを抱える金融機関や企業、個人が正常化するには長い期間を要する。数年間は後詰として低金利政策を余儀なくされる。
・中央銀行が短期間だけ信用リスクのある資産を買い取ることで自律的な価格決定機能の回復を支援する。市場がパニックを起こしているケース。
・バブルが存在するときには必ず高レバレッジが存在する。レバレッジ倍率を規制する
・金融危機責任税
・環境政策の問題:補助金依存になっていること。代替エネルギーによる発電コストの低減が短期間で実現できるか何の保証もない。
希望的観測が足元の巨額政府支出の推進力に変換されている。
・太陽光発電は周辺素材などでボトルネックが生じて、採算性が悪化する恐れがある(←投機マネーにより素材価格が上がったりすると)。発電設備の過剰供給を作るリスク。
・リチウムイオン電池:稀少金属リチウムがボトルネック。埋蔵が南米に偏在。
・日本のCO2排出量はその3割が上位10社に集中、5割が上位38社が占める
・人民元が切り上がると、海外から元建てで投資した資金は外貨換算した価値が増価し、儲かる
・中国政府は実需依頼の資金流入を制限しているが、非公式な形で資金が流入
・補助金による自動車や家電製品の需要先食い
・増え続ける世界人口を背景に労働力過剰になり、賃金は相対的に上がらない。ヒトの能力=知恵に対する価値は稀少。企業内教育や科学技術振興を含めた教育の強化。
・ブラジルの金融取引税:流入資金の額に応じて課税。海外からの投機資金流入阻止が目的。為替平衡税。巨額な資金移動を把握し徴税するのは困難
・欧州全体は寒冷化するという将来予測がある
・人口減少国スペインは積極的な移民政策をとり、住宅需要を支えた。移民の所得は低いが、身の丈に合わない住宅取得を後押しした。雇用を吸収していた建設セクターは頭打ち。
<感想>
・商品取引市場では商品価格に一日の上限はもうけているか?
-目次-
第1章 不況はバブルの母である
第2章 バブルは海の向こうからやってくる
第3章 苦悩する金融当局
第4章 海外マネーに翻弄される日本の不動産
第5章 株式からFX取引に向かう個人マネー
第6章 環境分野にみるバブルの萌芽
第7章 先行し進む中国バブル
第8章 新興国バブルと資源インフレ
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