読書メモ
・「アップル、グーグル、マイクロソフト 〜クラウド、携帯端末戦争のゆくえ」
(岡嶋裕史 :著、光文社新書 \740) : 2010.08.08
内容と感想:
タイトルだけを見れば米国大手IT企業だけを並べただけだが、クラウドと携帯端末を巡る各社の熾烈な戦いを描いている。
クラウドという新たなルールの下での競争が激化しているが、日本企業は既に出遅れ感がある。
著者が本書で3社を選んだのは、業界をリードしていることもあったであろうが、
クラウドサービスの内でも「PaaS」(Platform as a Service)にこだわったからだと言う
(アマゾンもIaaSを提供しているが、PaaSへ移行中として、ここでは外している)。
クラウドは大雑把に言えば、IaaS、PaaS、SaaSの三層構造になっている。
その中でPaaSは「汎用的、かつ最大の利用者を集め、クラウドの喉元を押さえる」サービスということらしい(第2章)。
また、「プラットフォームを握った者がその分野の覇権を握ることが多い」という捉え方もしている(第4章)。
いずれにせよ、PaaSの領域は既に上記の大手らが握っており、規模からして日本企業が入り込む隙もない。
本書はこの3社を中心に分析しながら、今後のコンピュータやネットサービスの行方と、その中で日本の立ち位置をどうすべきかを
考えようとしている。
クラウドはそれだけでは「ただの雲」だが、そこに接続しサービスを提供してもらうための端末も、もう一つの戦場である。
iPhoneやiPadしかり、Android搭載ケータイしかり。
クラウドと携帯端末の連携がポイントになる。
クラウドでは日本企業の勝ち目がないとすれば、出番はやはり(国内向けの)SaaSと端末製造だろうか。
著者も日本は「クラウド上で動く一分野でトップを取る戦略」(第6章)だろうと考えている。
国内市場もそれなりの規模があるからよいかも知れないが、あまりに内向き過ぎでは少ないパイの奪い合いに終始することになる。
また、携帯端末製造もお家芸かも知れないが、台湾や韓国メーカーなど海外勢も頑張っているから、うかうかしていられない。
モノづくり国家・日本だが、それだけでは苦しい状況である。サービスと組み合わせて、新たな価値を創造していかないと稼いではいけない。
自分らで新しいルールを作り出すくらいの気迫、構想力が必要だ。
○印象的な言葉
・蛇口を支配していれば、水源への影響力をもつ
・クラウドの戦場において既に日本企業は負けつつある
・組み合わせが問われる。標準化の流れ。あらゆるサービスを結合して新たな価値を創造。標準化された手順や技術に自社業務を適合・再構築。
・課金のハードルを越えたアップル
・ソフト開発者を惹き付けたアップストア。大量の潜在顧客と決済手段を用意。
・グーグル、マイクロソフト、アマゾンなどは元々極めて多くのコンピュータを運用していた。業務閑散期にはかなりの処理能力を使わずに眠らせていた
・多国籍展開企業、各国にデータセンターを分散。(←優位性)
・位置透過性:どこで処理しても同じ
・(運営側としてはクラウドで、顧客のものも含め)各種統計情報をダイレクトに取得
・高コスト体質の日本のデータセンター:小規模。豪奢な設備、立地条件のよさ
・Googleのデータセンターは野ざらしのコンテナ。メンテナンスに訪れるのは月に数回。壊れたものは破棄。HWは汎用品・消耗品。HWを資産として計上する必要性も希薄に。
所有する意味が失われた。僻地や寒冷地に設置。
・クラウドの本質:非常識なほどの安さ、相互接続性、技術進化の速度。規模の経済が働く。
・CPUやHDDの能力の伸びに比べるとNWの速度向上はこの10年間で100倍程度と、技術進歩が遅く感じる
・私たちが真に必要としているものはサービス。サービスの供給を高度に効率化しようとした結果がクラウド
・コンピュータサービスを100%自給(自前で賄う)するのはコストや技術のキャッチアップにおいてリスクがある。クラウドとの組み合わせでリスク軽減。
・IaaS(HaaS)にはハズレは少ない。汎用的。
・SaaSで提供されるサービスは画一的。それを受け入れることで自社業務をグローバルスタンダードに準拠させ、他社と連携が容易になる。業務改革を伴う。
・iTunes:マーケットプレイスとしての機能。情報の流通と決済を行なう重要な基盤。これを核とする収益構造を再発明した。iTunes中心の生態系。
・アップルはマイペース。最小の努力で最大の利益を狙う
・新たなルールのもと、国境や地理的条件、物理的距離といった壁はなくなった。既得権も無効化された
・Windows関連技術は難度が低く、技術者の層が厚い。それ以外のOSとソフトを自社で運用しようとしても技術者がいなかったり、技術教育費用がOS費用より大きくなる。
・主戦場を相手の主張と一路ずらす戦い方(羽生名人)
・Microsoftの戦略:クラウド(あちら側)とオンプレミス(こちら側、構内)の連携を武器にする。今までのソフトも使える安心感、操作性も同じ、教育コストがかからない。
枯れた技術。既存ソフトの移行も。調整も最低限。問題なく動作しているソフトは多少時代遅れでも使い続けたいもの。
技術的な新しい波が来るたびに、以前と同じ体験を提供することでいなしてきた。圧倒的な既存ソフトの蓄積、対応技術者の物量が他社の追随を許さない資産。
「3スクリーン(PC、ケータイ、TV)+クラウド」。
・電池の需要が残っているように、供給が絶たれたときにも単独で動き続けられる製品への依存と需要は根強い
・NWの信頼性は電力供給並の稼働率には至っていない
・クラウドへの移行:それに伴う煩雑な作業、技術者の技能転換、利用者の初期習熟費用などがかさむ
・Microsoftの短所:機能の絞込みが苦手。潔さがない。何でもできるけど、スマートでない。
・屑を集めて玉に変えてきたGoogle。PC上のソフトやデータをネットに移行することに心血を注ぐ。
・情報を集約すれば、検索と整理がやりやすい
・Googleはある部分ではMicrosoft以上に秘密主義
・PCはかつては家だった。GoogleはPCを単なる窓にしようとしている。家には何も置かない。家すら不要。
・ブラウザは情報管理能力が低い。一時的にしか情報を保持できない。決済に向かない
・利用者を課金システムに組込み、徐々に支払いへの抵抗感をなくしていく戦略
・紙の書籍:貸し借りのしやすさ、古本市場の存在
・電子書籍:ハイパーリンク、持ち運べる情報の絶対量が大きい、音声読み上げ機能、著者が直販する可能性も
・E Ink:画面表示方式。消費電力が小さい。紙の書籍に匹敵。モノクロ。ページをめくるのに時間がかかる。ウェブとの親和性も高くない
・規模の経済を活かすべき分野が苦手な日本。民間はGoogleに乗っかることを考えている
・国内企業はルールを作るのが苦手。ルールという縛りがないと思考がスタートしない。ルールブレイカーには勝てない。
モノや規範を大事にしすぎる。HWを過剰に保護し、既存ルールを尊重しすぎる。⇒サービスの硬直化、低下
・ハングリーで、バカな企業や個人だけが新しい次代を担う(スティーブ・ジョブズ)
<感想>
・著者はSaaSには関心がないらしい。エンドユーザが求めているのはサービスなのに
・Googleはユーザの情報を勝手に読み取ったり使ったりしているのに、誰も文句を言わないのは?平気な情報だから?
・電子書籍の盗用、盗作監視サービス。テキスト以外でも画像、楽曲、楽譜なども
-目次-
1章 クラウドとは
2章 クラウドの古さと新しさと主要企業
3章 マイクロソフトの戦略 ─ウィンドウズアズール
4章 グーグルの戦略 ─グーグルアップエンジン
5章 アップルの戦略 ─iTunes
6章 クラウドでも出遅れた日本
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