読書メモ

・「幕末志士の「政治力」 〜国家救済のヒントを探る
(瀧澤中 :著、祥伝社新書 \800) : 2010.05.23

内容と感想:
 
坂本龍馬や西郷隆盛など幕末の志士たちの足跡を辿りながら、現代の政治指導者像を考えてみる、という本。 本書で取り上げている篤姫や新撰組が「幕末志士」なのか、政治にどれほど関わったのかは疑問である。 まして、「政治力」があったのかどうかも・・・?
 また、龍馬が政治家だったかというと違和感を感じる。 現代の政治家と比べるのが間違いか。現代の政治家を見すぎて、目が濁ってしまっているからか? では、そもそも「政治」とは何ぞや、ということに思い至る。 自分の国を良くしたいと思い、行動に移すことなんだろう。 そういう意味で龍馬は政治家であった。
 政治家の必須条件として、次のような潮田江次の言葉が引用されている。 「実務家、実行者としての能力ではなく国家的見識に於いて優れていること」。 つまり、これからの国のあるべき姿をはっきり持っている、ということ。 近年、ビジョンも覚悟も足りない国のリーダーを続けざまに見せられてきた。
 終章の「国をよくしたいのなら、国民自身がよくならないかぎり不可能」と言うのには共感する。 感情的に政治家や官僚をバッシングしているだけでは駄目だ。 政治家に期待するだけでなく、自分が変わらねば。志士に変われるだろうか。

○印象的な言葉
・坂本龍馬:桁外れの人間的魅力、政治家としての甘さ。スケールの大きさ、破天荒。人生は能力より性格で決まる。 開けっぴろげ、明朗快活、大雑把だが肝心なことは理解、私利に走らない。無私。脇が甘く、人なつこい。着物にも頓着しない。憎めない。素直。恨まれない。 時流を読む力、権力に入り込む力、未来を見据えた政策立案能力。地位や名誉には興味がない。自己犠牲、死んでも悔いはない。
・薩長同盟は野党連合ではなく「地方連合」(→現代でも再現可能)
・篤姫:忍耐力、怒らない、不平不満を言わない、肝が据わっている、器が大きい。軽々しくなく、温和、人を応対する能力。 将軍・家定との婚礼の目的、一橋慶喜を次期将軍候補に擁立するのが使命。
・幕府老中・阿部正弘は有能な大名を幕政に参加させ、挙国一致で難局を乗り切ろうとした。雄藩連合。阿部は島津斉彬の盟友。
・鳥羽伏見の戦いで幕府軍が敗れ、慶喜は江戸に逃げ帰った。薩長ら東征軍は江戸総攻撃に向かう。しかし江戸城無血開城、大政奉還を決めたのは金がなかったから。
・西郷、大久保、高杉、木戸らに共通するのは、政治目標の実現のために組織を強化し、藩内外で政治力を高めたこと
・勝海舟が龍馬を引き上げた。わらしべ長者的幸運。学問的未熟だった龍馬は大久保一翁や、横井小楠ら当代一の知識人、政治家からエキスを吸収した。
・自民党結党、「保守合同」は、社会主義政権の樹立と労働運動激化を恐れた経済界が後押ししたもの
・日米修好通商条約で開港を求められた幕府は、勅許を得ることに成功。雄藩連合政権樹立を目指していた薩摩は、一旦、動きを止める。
・小さな政治組織は思想的に純化していく。小さな支持だがブレない固い支持が得られる。
・明治政府になってから土佐藩は冷遇された。多くが野党的な立場に立つ
・土佐藩が海援隊を支援したのは、土佐勤皇党の弾圧のせいで薩長ら諸藩から信用を失ってしまい、失地回復を狙っていた。龍馬の人脈と海運力を手に入れたかった。
・西郷隆盛:地位が上がっても威張らず、身分の低い者にも丁寧に対応。要点を見逃さない。
・偉大なるイエスマン:上司の示す方針が正しく、筋が通っていて、国民のためになる。その方針に信念をかけられ、どんな困難があろうと実現する。(武部勤)
・理想の指導者:思慮深く、世界から日本を見ることができ、的確な将来像をもち、人格者
・政策無視・数合わせ優先の連立政権
・幕末の幕府には人材は豊富だった。諸藩より海外情報もいち早くつかむ立場にあった、金銭的優位もあった
・政治家に必要なもの:エネルギー、感受性、自己表現力、組織化力
・西南戦争で「あの西郷ですら負けた」ことで、巨大な反政府武力蜂起はなくなった
・リーダー:問題解決や職務遂行に最適で、その状況における客観的要件を見抜き、利他的な人(マズロー)
・権威とは理屈ぬきで人が信用し、尊重してくれるための装置。権威を支える社会の安定が前提。社会が不安になっているときに権威を振りかざすと、その組織は衰退する。
・教養:世の中を知り、物事の究極の姿、理想を探求し、そのために広く目を世界に向ける
・品格:人間としての中身を磨いている、物事を考え抜いている
・選挙を棄権することは「出てきた結果に反対しない」ことの意思表示
・福祉や治安にいくら予算を割いても、お金でできることには限界がある。お金がなくとも自立した個人が互いに助け合う社会は、それだけで福祉をカバーできる。
・民主党・小沢一郎は「リーダーとして正しいと思ったころを貫徹するのではなく、その場その場で」

<感想>
・西郷は僧・月照と入水自殺を図るが、自分だけは助かった。怪しい。死ぬつもりなら腹を切ればいい。脱藩もしていない。復権の時期を窺っていた。 藩の主導権を握りたかった。

-目次-
第1章 篤姫の政治力
第2章 坂本龍馬の政治力
第3章 西郷隆盛の政治力
第4章 新選組の政治力
第5章 幕府の政治力
終章 国家救済の政治力とは