読書メモ
・「第三次世界大戦 <右巻> 世界恐慌でこうなる!」
(佐藤 優、田原 総一朗:著、アスコム \1,700) : 2010.10.27
内容と感想:
現在の世界情勢を政治、経済、軍事、宗教という切り口から総合的に捉えようとした対談本の下巻。
ここでは世界金融危機後の世界を見通そうとしている。
今回の危機で各国の保護主義的な動きが問題視されているが、その内向きな姿勢は、かつての第二次大戦前の
光景を思わせると聞く。アメリカが大恐慌後の不景気から復活したのは戦争がきっかけだった。
景気回復のために手っ取り早く戦争をしようなんて国は今はないと思うが、日本国内には閉塞感を破るために戦争を求める過激な声もあるらしい。
本書では今後、戦争があるとしたら、イランで起きるだろうとしている。野望を秘めながら着々と核兵器製造を進めている国だ。
また、新自由主義が招いた今回の金融危機を振り返り、今後の資本主義のあり方や、日本の格差・貧困問題について考えている。
最終章は衰亡の危機にある日本の再生の方法を語り合っている。
読者の期待は日本再生の処方箋だろうが、この二人に期待するのは厳しい。本書からは的を射た具体的な提言は残念ながらない。
共同体の再生が重要だと言うのは分かるし、沖縄・久米島の低収入でも豊かな生活を送る島民の話も素晴らしい事例だ。
それを全ての企業の経営者や資本家に、ノブレスオブリージュ的に自主的にやること(再配分)を期待するのは全く現実的ではない。
結局、残念ながら、このお二人もこうした本で言いたいことを言うだけで、資本主義の論理に取り込まれているのではないのか。
○印象的な言葉
・国家機能の強化:選択を誤るとファシズムになる。帝国主義的傾向を強める。王朝化、中世化
・外交に従事する政治家、官僚の交渉力を高める。教養、人間的魅力、胆力
・権力党:政党への帰属にかかわりなく現実の政治に影響を与える人たち。ジャーナリスト、学者、作家など
・レバレッジが横行したギャンブル資本主義
・経済学に哲学がないのが問題
・無責任なメディア:批判だけの反体制派、(第4の権力という)強力な権力を持ちながら責任なし。安全地帯にいて批判
・国家が福祉をやるのは労働者のためではなく、体制転覆が恐いから
・アメリカの民主党は「話せば分かる」、共和党は「話しても分からないことがある」
・メディアの発達した大衆社会では「要求のインフレ」が避けられない。大きな政府になっていく
・19世紀後半の英国、ビクトリア女王時代は英国の黄金時代。勤勉で自主独立の精神に溢れた中流階級がそれを支えた
・ニートたちの親が死ぬと、相続税も払えず、家は差し押さえられる。そのとき本当の貧困問題が来る
・資本主義の本質的な問題、格差が広がり、人間がカネに支配されるようになる
・資本論は空理空論
・「経済」という語は「経世済民」(世を治めて民を助ける)から来ている
・日本の現在の貧困世帯は世帯総数の25%前後、勤労世帯の2割前後。同胞意識の喪失、分断。
・友愛運動的な再配分の方法。世直しの原点
・金にとらわれるとつまらない人生になる
・日本で一番強い宗教はカネ儲け教、経済成長教
・歴史における真実などは法廷で判断できる問題ではない。訴えの利益がないと却下すべき
・物書きも気をつけないと資本主義の論理に取り込まれる
-目次-
第6章 資本主義の行方 金融大崩壊がもたらすもの
人間の欲望がもたらした暴走
オバマ政権でも戦争は止められない!
資本主義をどう見直すべきか
第7章 小さな政府 新自由主義を超えて
大きな政府から小さな政府への流れ
改革なしにはどこも生き残れなかった
セーフティネットを失った日本
強者が弱者を引っ張る社会をつくるには
第8章 マルクスと『資本論』 今、なぜマルクスなのか
私がマルクスに惹かれる理由
マルクスの“二つの魂”
帝国主義の時代の視点が必要だ
第9章 格差から貧困へ 日本を襲う貧困の広がり
体制維持を危うくする貧困の問題
エリートの価値観が社会の顔を決める
生産者の論理に立ち返れ!
商品経済という宗教が蔓延していた
第10章 国家再生 日本にこそチェンジが必要だ
追い詰められる日本
無責任なメディアは無用である
共同体を再生せよ!
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