読書メモ
・「第三次世界大戦 <左巻> 新・帝国主義でこうなる!」
(佐藤 優、田原 総一朗:著、アスコム \1,700) : 2010.10.26
内容と感想:
刺激的なタイトルだが、「第三次世界大戦はもう始まっている」と佐藤氏はいう。その「第三次世界大戦」をキーワードに両者が対談したのが本書。
上下二巻構成の一冊目(「左巻」と呼んでいるが、ツムジじゃないんだから)である。
その第三次世界大戦はテロとの戦いとして、非対称の戦争として始まっているのだという。まあ、そういう捉え方もできなくはないだろうが、少し色気を出しすぎではないだろうか。
本書ではそれを背景とした現状の世界を分析し、世界と日本の未来を読み解こうとしている。
米国、中国、ロシア、欧州諸国などのそれぞれが抱える問題を知ることができる。
ところで本のテーマからはずれるが、第2章で田原氏は「テレビを観る視聴者はレベルが落ちている。(略)低レベルの連中に合わせないと視聴率がこない」と
「劣化するテレビ」について語っている。何とも人を馬鹿にした話だが、メディアの側の人間が言うことかとも思う。
「テレビの再生」の方策についても語ってもらいたいものだ(あるかどうか分からないが)。
第3章で佐藤氏は「ロシアはファシズム体制の入り口に立った」と述べているが、不気味なロシアには引き続き注意が必要そうだ。
対談が進むにつれ、興が乗るのは理解できるが、よその国のこととはいえ、言いたい放題に聞こえる発言も多いので要注意(面白くは読めた)。
本の最後は田原氏が今後の日本の外交戦略についてこう述べて締めくくっている。
「米中間には軽業外交で食い込む。敵はつくらない。」
米国・中国で「G2」時代などと言われたりするが、そこで日本は埋没することなく、したたかに生き延びていかねばならない。
○印象的な言葉
・アメリカが大戦争をやったのはほとんど民主党のとき。話せば分かるという棲み分けの発想がない
・アメリカ人とはアメリカ人になろうとする集団。国そのものが「運動」。アメリカ社会の何となくいつもせわしい、忙しい感じを生んでいる。
米国が持っていた夢は普遍主義の夢。それはかつてカトリック教会が持った夢。
・沖縄独立は夢物語ではない。沖縄の排他的経済水域(EEZ)は日本のEEZの1/3を占める。世界の国の1/5は沖縄以下の小国。
・民主主義の弱点に付け込んでいくのがテロ戦術。テロを行なうことで世論の大きな流れを作り、自分たちに有利な状況を作る
・ヒトラーは弱者のための政治を主張した
・米国では米国国籍をもたない人間が軍隊に入る。永住権が取れるから前線に行きたがる
・激しい抵抗運動は末端の最下層ではなく、社会的に余裕のある層から出る
・米国の自然観は征服していく自然観(砂漠の民族の発想)。欧州の自然観は自然の中に還っていくという見方。
米国は恐ろしいものという感覚が希薄。
・ロシアには欧州、特にドイツに対する強い警戒感がある
・オバマの当選が貧困層の怒りの爆発を防いだ
・ロシアは大きくブレる。現在のロシアは愚民政策。
・戦前、日本は天皇を中心とした秩序体系を教育勅語で作った。それが国家イデオロギーとなった
・チェチェン問題はマフィア利権と絡む。軍が関与できない地域はマフィアが仕切って、石油輸出などやりたい放題
・中国では「均質な中国人」という意識はまだ生まれていない。皆、ある民族や一族、どこどこの出身ということで自己規定している
・チベット情勢に関して生の情報を一番もっているのはモンゴル。モンゴルはチベット仏教。中国を最大の脅威と認識。日本は巨額のODAをモンゴルに出している
・中国・福建省は琉球王朝の王族の一部が亡命した地。琉球とは中国人が命名した。台湾のことは「小琉球」と呼んだ
・永世中立国かどうかは国境を接する周辺国が認めればいい
・イスラエルには成文憲法がない。内部で合意形成ができていない
・天照大神は平和の神様。昭和天皇は戦時中、伊勢に行って戦勝祈願をしてしまった
・宮中行事は新嘗祭以外は明治時代になってから作られた(→本当?)
・「我々は集団的自衛権を持っており、行使することもある」と憲法解釈を変えるだけでいい。改正には及ばない
・日本はNPT加盟国だから核武装はできない。日本を警戒する国々に説明すれば信用してくれるはず
・日米安保と国連は二項対立させるべきものではない。
・外務省の仕事は快・不快が原則
・日中戦争がなかったら、太平洋戦争も大東亜戦争もなかった。リットン調査団は満州国の現状を認める立場だった。日本の権益をかなり認めていた
・国のために命を捧げるという気構えがあり、語学ができて国際感覚がある教養人、ユーモアのセンスもあるエリートが50人いれば日本は変わる
<その他>
・ヒトラーの第三帝国って、何に対する「第三」なのか?
・「私の将来の夢」という作文を書けない皇族⇒夢を持てないわけではない
-目次-
第1章 新しい戦争の時代 第三次世界大戦が始まった!!
「非対称の戦争」の時代
民主主義の弱さにつけ込むテロリズム
新・戦争の時代の日米の関係
第2章 アメリカ・ヨーロッパ 帝国主義化する世界
世界帝国アメリカの没落
今も開拓者精神で動いているアメリカ
敗戦から六十年後のドイツの勝利
新自由主義がもたらしたもの
第3章 ロシア・中国 資本主義化する2大国の行方
二人の王様が支配するロシア
「新封じ込め政策」の要所で起きる紛争
近代化の過程にある中国
台湾と沖縄に生まれつつある変化
第4章 日本 天皇と憲法、これでいいのか
「押しつけ憲法」論の大きな間違い
天皇とは権威の世界の存在
天皇が還るべき原点
パッケージで考える憲法論
第5章 世界と日本 これが日本の生きる道!
日本が目指すべき戦略
対立の図式を薄めていく方法
インテリジェンスを強化するには
日本が掲げるべき夢
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