読書メモ
・「2012年、世界恐慌 〜ソブリン・リスクの先を読む」
(相沢幸悦、中沢浩志 :著、朝日新書 \700) : 2010.07.31
内容と感想:
いま世界は金融危機を克服し、世界不況からも徐々に回復を進めている。
とりあえず今回の危機が「沈静化した大きな要因はエマージング(新興国)諸国の経済成長と株式市場の好調」のおかげ。
しかし、本書はこの先に更なる危機が待ちうけていると訴えている。
ギリシャの財政危機をきっかけに、「ソブリン・リスク=国家破産のリスク」が叫ばれるようになった。
その危機はギリシャに留まらず、他のユーロ加盟国にも広がっていることが分かり、
新たな世界経済危機に発展するかと恐れられた。
金融危機、経済危機が必然的に財政危機を招来する、というのが本書のテーマである。
それが深刻化するとソブリン・リスクが顕在化し、世界恐慌になる可能性があるというのだ。
それが早ければ2012年に起こる、というのが著者らの予測である。
経済情報などを見ていると、確かにそれを予兆させるような情勢を感じることができる。
今回の世界金融危機は世界中が住宅バブルに沸き、崩壊した結果だが、
世界中が危機対策のために財政出動を迫られ財政赤字を拡大させてしまい、逃げ場がない状況にある。
金融危機は回避できても、投入された財政資金が実体経済に回らず、経済危機が深刻化する。
それを抑えようとすれば財政危機が更に深刻化し、国家破綻に至る可能性がある。
第2章から4章まではソブリン・リスクが発生しそうな国や地域の実情を探る。
第5章は経済危機に対して各国「政府が対策を実施し、それが地球規模で起きることがかえって恐慌を呼び込むという構図を明らかに」している。
日本も民主党に政権交代してから、国債発行額が税収を上回るという異常事態であり、財政赤字は膨らむ一方である。
同様に世界中で「国債の激増というすさまじいマグマ」が蓄積しつつある。それが破裂したときが新たな恐慌となる。
2012年に起こるという恐慌のトリガーとして以下の3つを挙げている。
「投機筋の暗躍、正常化を急ぐあまり当局が起こす政策ミス、エマージング市場バブルの崩壊」
これらのトリガーを引かずに済むような対策が求められる。残された時間はあまりない。
「おわりに」では「世界恐慌というステップを踏んだのちに初めて、人類は地球環境と人間を尊重する態勢に移行するのではないだろうか」と言っている。
世界恐慌は人類が誤り続けた結果であり、必然なのであろうか。それを経験しないと悔い改めることができないという神の意思なのだろうか。
○印象的な言葉
・金融危機、経済危機が財政危機に転化(←非伝統的政策の結果)
・国債バブルの発生、エマージング市場バブルの崩壊へ
・国破れて投機資本あり(→限りない欲望により国が滅ぶ可能性)
・金融危機は市場がびっくりするような巨額の見せ金を「出す用意」がある宣言するだけで終息する
・中央銀行に不良債権や損失が堆積しすぎると発行する通貨の信認が失われ、経済が崩壊する。その損失を政府が肩代わりする
・日本で膨大な財政赤字が堆積してもソブリン・リスクが現実化しなかったのは、それをまかなう国債が国内でいくらでも売れたから
・サブプライムローン関連の商品が危ないことは関係者はみな知っていた。いつまでも売れ続けるはずがないと思っていた。売り抜ける時期を虎視眈々と狙っていた
・政府系ファンドが投資していたベアスターンズを潰すことができなかったのは外交問題にしないため
・10年前の日本の金融危機が教科書(→ある意味、日本は世界の先端を走っていた。先行き不透明なのは当然)
・危機が沈静化し、プラス成長に戻ってセンチメントは好転
・住宅市場の落ち込みは個人消費の減少に即つながる
・アメリカの商業用不動産融資の多い地方銀行の経営破綻が2009年末から急増
・ファニーメイ、フレディマックは公的資金投入後も損失計上が止まらず、再建のメドが立たない。よい処理方法が見つからない。
完全民営化すると多額の損失がバランスシートに現れる。国有化すると政府債務が5兆ドル以上も増える。国債の格付けの格下げも現実味を帯びる。
金融市場を破壊する爆弾。住宅市場を下支えするための住宅差し押さえの抑制策、FRBによるMBSの購入が不可欠。
・アフガン問題は泥沼化し、更に莫大な戦費がかさむ見込み
・欧州では東欧の金融機関への西欧金融機関の膨大な貸付の焦げ付きが発生(→アメリカ的拝金主義が欧州にも拡大)
・東欧に向かった資金はインフラ整備などの経済基盤の強化にはあまり使われず、不動産投機などに流入。
・東欧の危機がオーストリアやスウェーデンの金融危機を誘発、それがスペインや独仏の危機を勃発させる
・ギリシャでは1981年の社会主義政権誕生以来、左派政権が続いた。福祉水準引き上げや公務員の厚遇などバラマキ政策を続けた。公務員が就労者の4割。財政赤字が膨らんだ。
・スペインの政府債務はギリシャの4倍
・アイルランドは1990年代に低い法人税率を武器に積極的に外資を導入
・英国も経済の中心だった金融セクターが急激に縮小。銀行救済が行なわれ、景気浮揚のために膨大な財政出動
・ギリシャがEU加盟、ユーロ導入ができたのは経済の論理ではなく、政治と軍事の要請による。イスラム世界への前線基地として。
財政赤字削減のために付加価値税引き上げ、公務員ボーナス削減。独仏が金融支援。IMFも協調融資。
・ユーロの信認を維持するにはEUが資金支援するしかない。資金をつぎ込んでいけば、ユーロの信認が消滅していく
・日本は大規模な財政出動はできない。新しい経済・産業構造構築を模索。賃金引き上げや福祉充実などによる内需拡大型の経済システムの構築。
・日本は銀行システムを創造的に破壊できなかった。銀行は200兆円の不良債権を抱えることで、日本経済を人質にとった。それを破壊しようとしたら日本経済も崩壊していた。
・日本の経済構造改革はマネーゲーム型のM&Aを横行させた。ついには検察も登場、司法も奮闘し、敵対的買収防衛策の合法化で押さえ込んだ。
・2010年2月現在、家計の純資産額と政府債務残高との差額は約200兆円。あと200兆円しか国債を発行できないことになる。
財政赤字は限界を超え、日本国債を外国に買ってもらえる可能性はなくなりつつある。債務残高を減らすために財政法を改正して、日銀に国債を直接引き受けさせ、インフレを誘導する。
ハイパーインフレが高進すれば国内資金は海外に流出し、日本経済は崩壊する。
・1929年に始まった世界大恐慌は資本主義が自由競争の時代から独占資本主義に転化して、しばらく経って勃発
・体系化されたケインズ経済学。公共事業、減税、利下げの3点セット。ケインズ政策が徹底されると、中央銀行の経営危機と財政危機に行き着く。
←→新自由主義経済学。ミルトン・フリードマン。規制緩和・撤廃。
・米英にやさしい格付け会社ムーディーズ
・国債バブルは茹でガエルと同じ
・投機筋は国債などのCDS契約にも投資。デフォルトすればそれで儲けられる。国家破綻を仕掛ける可能性。国債の空売りを仕掛ける。
潰せば儲かるなどという金融商品が存在すること自体がおかしい。
・CDSは他人の命を対象に生命保険に入り、その生殺与奪権をにぎるようなもの。それを許さないのが規制当局のつとめ(ソロス)
・アメリカ連邦預金保険公社(FDIC)は今後、金融機関が破綻したら破産処理せざるをえない。今回の危機で基金は使ってしまった。
・エマージング諸国の規模の小さい株式・債権市場に海外マネーが押し寄せるとバブル化
・中央のいうことを聞かない中国の地方政府。隠れ債務
・日本への移民。日本に住むことに喜びを感じ責任を果たしてくれる人
-目次-
プロローグ 未体験ゾーンへ
第1章 なぜリーマン・ショックは克服できたのか
第2章 世界のマネー爆弾その1 ―アメリカの闇
第3章 世界のマネー爆弾その2 ―ヨーロッパの憂鬱
第4章 世界のマネー爆弾その3 ―日本の能天気
第5章 大恐慌との奇妙な類似
第6章 蓄積されたマグマは破裂する
エピローグ 2012年××月××日 ―恐慌勃発
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