読書メモ

・「強欲資本主義 ウォール街の自爆
(神谷 秀樹 :著、文春新書 \710) : 2009.01.03

内容と感想:
 
著者はそのウォール街で小さな投資銀行を経営している。 ウォール街にはここ最近、「経営の透明性や規制の強化」(SOX法などの成立)とはまったく別の次元でタイトルにある「強欲資本主義」が蔓延していたという。 「一攫千金を夢見るギャンブラー」たちの街と化し、 経済、政治を巨大な富を形成した一部の人たちが支配するようになった。 それがサブプライム問題で一気に崩壊。世界中を経済危機に陥れた。 本書はその経緯の一部始終を見てきた著者の観察記録であり、これからの資本主義のあり方を見つめ直すための本。
 著者の信条は「金融マンは実業を営む方たちの脇役に徹するべき」だという。 しかし実際にはウォール街の中心には「経営者の相談に乗るバンカー」ではなく、「トレーダー」たちが座っていた。 サブプライムに資金が集まったのも世界のカネ余りが原因だったが、 第六章では世界中に過剰流動性をばら撒いたのはアメリカ政府と日本政府だと指摘。 日本は「ゼロ金利」、「円安麻薬」(輸出産業だけが歓迎)がそれを後押しした。
 第七章では自身がかつての日本のバブル時代の反省をしている。 「バブルを煽った張本人の一人」だったと。 そのバブル崩壊後、失ったお金の問題より「心の問題」の大きさを重視している。 「社会の中で人と人、人と会社との間の「信用の輪」が切れてしまった」と感じている。 同様にアメリカでも建国以来の倫理観や価値観が大きく傷つき、社会が分裂していると言う。
 「あとがき」では今回の問題で「ウォール街は徹底して追い詰められており、これまでの形では存続できない」、 資本主義が「これまでとは異なる価値観で再建される必要がある」と書いているが、 彼らは反省するだろうか?懲りない面々はまた同じ過ちを繰り返すのではないか? きっと一部の経済支配者たちは既に生活に困らないほどの金を持ち、次のバブルを起こさんと策を練っているに違いない。

○印象的な言葉
・「モノ作り」で生きていくべき
・外資の手先になる日本人
・尻拭いさせられるのは納税者。納税者を人質にするのが上手なウォール街。
・歪んだ株主中心主義
・更に怖い商業用不動産ローンの破綻。更に数百兆円規模の不良債権が発生する可能性。 ★
・巨大地雷のモノライン保険。CDSの抱える問題。 ★
・超一流のビジネススクールで学んだ人たち。人間として大事なこと、職業人として肝心な倫理など何一つ教えられていないよう。 お金に取り付かれ人格も変わる。
・勤労を重んじ、信用を旨とする日本
・「真、善、美を追求する」建国時のアメリカ。キリスト教精神の真髄
・投資銀行は手間隙のかかる中小企業の小さな取引には無関心。小さな会社を一所懸命に大きく育てるというかつての精神はない。
・コストカットだけなら誰がやっても財務は改善する。あたかも改革が行なわれているかのような幻想を振りまくが、数年後には行き詰る。
・戦後の日本の産業を見事に復興させるのに重要な役割を果たした邦銀
・企業を食い物にする、品位のかけらもないマネーゲーム
・受け入れがたい価値観を拒否する権利
・あらゆる証券を自分たちが扱いやすいように「定型化された商品」にしようとしている。市場支配力。 薄いマージンで統一化した商品を大規模に扱いボリュームを追う。僅かな価格差で巨額の収益。
・ゲームに参加した以上、ババを掴んだ人が負け
・雇い主に大損させた投資銀行家も大金持ちになって、ぬくぬくと暮らしている
・新薬の誕生には長い年月と多くの資金を必要とする。売り上げが10億ドルを超えるような薬が誕生するのは「千に三つ」
・公開株の公募を入札方式にする。透明性の追求。グーグルも採用。
・欲深い連中を監視するには、その中でも一番欲の深い男を政府高官にして監視されるのが最も有効
・ブルームバーグNY市長:公約どおり「無給」。残りの人生を社会へ還元
・新しいホテルは3年は赤字覚悟。5年、10年かけて固定客リストが出来、地位を築く。価値が向上。
・政治権力と金融権力の結託
・(先進国の)製造業は新技術の研究開発を進め、その知財で稼ぐ
・アメリカは「借金依存」の経済。「砂上の楼閣」。
・日本が不動産バブルの清算に要したのは約100兆円 
・国際金融市場では「信用の輪がズタズタに切れている」
・裏保証・再保険市場の規模は推定63兆ドルと極めて巨大。アメリカ国債市場の10倍、米株式市場の2倍。規制の行き届かない市場。
・ドル安:ユーロの台頭、産油国のドル・ペッグの見直し、外貨準備の多様化
・何のための「成長」なのか。「成功」の定義を考え直す
・上位1%の人に富の30%が集中するとき、大きな崩壊が起こる
・小泉政権は銀行が潰れそうになると税金を投入。大量の利益を納税者から銀行に所得移転した。損を納税者に押し付けた。
・オバマ:メインストリートに耳を傾ける
・資源と環境の制約、保守的な価値観の尊重、ボランティア、政治を国民の手に取り戻す
・消費者の変化は有権者の変化と同一
・宗教家や芸術家は感性で将来を予見する

-目次-
序章 アメリカ経済はなぜ衰退したのか
第1章 ゴールドマン・サックスの変質
第2章 モノ作りができなくなったアメリカ
第3章 今日の儲けは僕のもの、明日の損は君のもの
第4章 強欲資本主義のメカニズム
第5章 資産運用ゲーム
第6章 サブプライム危機から世界同時不況へ
第7章 バブル崩壊にいかに立ち向かうか