読書メモ

・「世界を動かす人脈
(中田 安彦 :著、講談社現代新書 \760) : 2009.01.22

内容と感想:
 
<世界最高の人脈術を極めた人々のカタログ>
 本書は「世界の政治・経済・金融に大きな影響を与えている」人々の最近の動向について解説した本である。 そうした「世界を動かす」人々(キーパーソン)が世界的につながり、人脈ネットワークを築いている。 彼らは「多国籍資本の企業活動をリード」し、「時には政治家や国家指導者とも連絡を取り合うことができ」、意思決定に影響を与える。 本書では「グローバルエリート」とも呼んでいる。
 そんなネットワークの一つの頂点にあるのが「ビルダーバーグ会議」という、欧米財界人や政治家たちが私的に集う会合である。 序章にもあるように著者は、その会議の参加者が世界の動きに大きな影響を与えているという仮説に行き着き、 彼らが「どのように世界情勢に関わっているのか」を本書であぶり出そうと試みている。 彼らが「世界の支配者」と言えるかどうかは分からないが、彼らの経歴やつながりを概観することができる。 世の中には「人脈術」を説く本も多くあるが、本書に書かれている人脈はスケールが大きい。
 タイトルのにあるような「世界を動かす人脈」と聞くと、どうしてもロックフェラー、ロスチャイルドのような 神秘的で、我々には近づくことも出来ないところで怪しげな動きをしている人たちという想像をしてしまう。 本書でも上記の一族も登場するが、彼らだけで世界を動かせるほど単純ではなくなってきているようだ。
 同じ序章にもあるように近年注目されているネットワーク理論に「スモール・ワールド」という概念がある。 ハブ(中核)になる人物(キーマン)がいてこそ、この世界は「スモール・ワールド」となりえる。 本書に登場する人物たちはハブとなる人であり、彼らは大きな資産やステータスを持っている。 グローバリゼーションが進む現在であるから、登場人物たちとそのネットワークは欧米、ロシア、中国、中東など広範である。 新聞・雑誌などでもお馴染みの人物もいれば、表立って存在感を示すことのない人たちもいる。
 現在は情報をオープンにすることを良しとする時代ではあるが、一方では秘密主義で、一部の集団だけで情報を占有することで 利益も占有している人々が存在することは容易に想像できる。 情報公開することで価値を認められる企業の株価や業績が上がれば、 そうした人々や企業は淘汰されていくことが期待できる。そうすれば真のオープンな社会が実現できるだろう。 そのためにも投資家や消費者は厳しい眼でそうした人物や企業を見ていく必要がある。
 また、「世界を動かす」人々は自分たちの利益のためだけでなく、その人脈を世界をよくするために活用してもらいたいものだ。 それが「ノーブレス・オブリージュ(高貴な義務)」であろう。

○印象的な言葉
・ユダヤ人の才能、戦争、恋愛と贅沢が資本主義を発達させた
・カナダに埋蔵されている膨大なオイル・サンドと、世界最大のウラン鉱床
・ナチス政権をウォール街やロンドンのシティ、ロックフェラーなどアメリカ支配層が支援していた
・20世紀前半、英米はロシア革命を支援していたが、レーニンやスターリンをコントロールできなくなり、ドイツを使って共産主義をけん制し始めた
・第二次大戦後の欧州統合運動は不戦共同体と対ソ対策。
・マーシャル・プランはアメリカによる戦後の欧州復興支援計画。主に軍事的支援が目的、NATO発展につながった。
・現在、欧州の命運を握るのがロシア。欧州はロシアの天然ガスに大きく依存
・ロシアの資源外交が抱える最大のネックは、エネルギー開発の際に外資の技術協力が必要なこと
・ロックフェラー家の当主がビルダーバーグ・ネットワークの中心人物。現在もアメリカ財界の最長老。 ロックフェラー一族はスペイン・ポルトガル系ユダヤ人の最高貴族の出身。スタンダード石油帝国を築いた。
・JPモルガン商会はFRBが誕生するまでは、「最終の貸し手」としての中央銀行の役割を果たした
・ロスチャイルドはファミリーの秘密と結束を守るために上場会社になることを拒んでいる
・サウジアラビア:1932年に欧米の支援で建国。サウド家が率いる王国。石油の安定供給をもとにアメリカが安全保障している
・イスラム金融:欧州の金融機関がイスラム法学者を囲い込んで、イスラム法に適う金融商品を開発。法学者には手数料が支払われる
・欧米金融とイスラム金融の融合

-目次-
序章 誰が本当に世界を動かしているのか?
第1章 欧州の中心部で今、起きていること
第2章 カナダの巨大金融産業を支配する“パワー・ブローカー”たち
第3章 欧州エネルギー共同体とビルダーバーグ会議
第4章 「新ロシア王朝」の樹立とそれを支える新政商たち
第5章 進化を続ける21世紀のロスチャイルド家
第6章 世界を一つにしようとしたロックフェラー家
第7章 ウォール街の支配者たちの興亡
第8章 グローバリゼーションに参入するアジア、中東の資本家たちと欧米資本
終章 スモール・ワールドの行方