読書メモ

・「「昭和」を点検する
(半藤一利、保阪正康 :著、講談社現代新書  \720) : 2009.11.22

内容と感想:
 
昭和といっても期間は長い。 本書は両著者が第二次大戦前後の「昭和」をテーマに語った対談集である。
 大戦で負けた日本を墜落飛行機に見立てて、その「事故調査」というのが趣旨。 帝国という機体の金属疲労、整備体制、機長や管制官の資質、経営方針や労務問題などを点検しようという。
 対談に当たり、次の5つの言葉を挙げている。
〜世界の大勢、この際だから、ウチはウチ、それはお前の仕事、しかたなかった。
これらは戦前・戦中を理解するためのキーワードであり、「いまの日本人や日本の諸組織にそのまま当てはめて考えることができる「歴史の教訓」」にもなる。 目次の各章にも書かれているとおり、それらのキーワードが示す問題点を端的に指摘する。 現在にも通じるということは、なかなか簡単には人間の思考は変えられないということだ。敗戦で一度国が滅んだという事実を今の多くの日本人は忘れている。 敗戦から何も学んでいないことになる。戦後教育のせいというのは簡単だが、それも「しかたなかった」では済まない。 しっかり歴史を学んで、活かしてこそご先祖様も浮かばれよう。

○印象的な言葉
・日本は帝国主義という「世界の大勢」に忠実だった。「世界の大勢」という玉虫色の表現。グローバル(アメリカン)スタンダードにも通じる。
・常に受け身だった日本。外からの強烈な圧迫。流れに押される。後手を踏み続けている。一歩前に行ったことがない。
・構想力と世界観に欠けた
・「この際だから」:議論や判断を停止させてしまう力。
・「ウチはウチ」:セクショナリズム。自分を客観化できない
・「それはお前の仕事」、「しかたなかった」:サラリーマン社会の典型
・昭和3年のパリ不戦条約:日本も帝国主義から脱却しようとしたが、国民はそれを軟弱と非難
・英米の言う平和とは「もてる者の既得権擁護」にすぎない
・永田鉄山は国力増強には統制経済的な手法も有効と考えた。財閥や官僚とも意思の疎通をはかろうとした
・日露戦争は日本が完全勝利したわけではなかった。ロシアからいつ復讐されるか分からない。長期の休戦にすぎなかった
・政治家が統帥権干犯を持ち出し、軍人はそれが武器になると気付いた。そうして政治の側が軍事に口をはさむのは許さないという空気が醸成されていった。
・開戦前に終戦のための腹案も決めていたが、すべて願望にすぎず幼稚な内容。前提はドイツの勝利だった。
・新聞が犯した過ち:毎日新聞などは満州事変の直前からおかしくなっている
・国際連盟は満州国建国に対して日本に譲歩を重ねた。日中のメンツを立てようともしていた。 満州における日本の権益を否定するような国連の報告書が出されると日本の新聞は、「けしからん」と全国132社が「共同宣言」を出した。 各紙の社説は連盟脱退論など勇ましかった。英米は植民地支配をしているのに、という理由。
・連盟に留まって日本の立場を主張せよ。中にいてこそチャンスがある。
・中国に攻め込んだ国がどう潰れていくかは歴史が証明している
・空気を読むやつばかりでは世の中おかしくなる
・石原莞爾は明らかに統帥権を干犯した。勝手に軍隊を動かした。軍の刑法に照らせば死刑だが、満州国建国の謀略が成功したから死刑にならなかった。 国民はこれを歓迎し、軍部指導者も政治家も官僚も止めるどころか追認し、肥大化させていった
・昭和天皇は終戦前の最高戦争指導会議で初めて自由に自分の意見を言える機会を与えられた。そして戦争を止めさせた。 立憲君主制に忠実であり、それまで自分の意見をいうことはなかった。2・26事件の際も異常事態として仕方なく立憲君主の枠をはみ出し、自ら近衛部隊を率いて鎮定に当たろうとした。
・東京裁判ではほとんどの被告は「しかたなかった」と弁明した

<メモ>
・P.117に外務省情報部長だった天羽英二という人の写真がある。その髪型は鉄腕アトムそっくり

-目次-
序章 ありふれた言葉で昭和史をよむ
第1章 世界の大勢 ―近代日本の呪文
第2章 この際だから ―原則なき思考
第3章 ウチはウチ ―国家的視野狭窄の悲喜劇
第4章 それはおまえの仕事だろう ―セクショナリズムと無責任という宿痾
第5章 しかたなかった ―状況への追随、既成事実への屈服