読書メモ
・「ソロスは警告する 〜超バブル崩壊 = 悪夢のシナリオ」
(ジョージ・ソロス:著、徳川 家広:訳、講談社 \1,600) : 2009.09.26
内容と感想:
和訳である本書が出たのがリーマン・ショックの直前。
本書のテーマはリーマン・ショックのきっかけにもなったアメリカの住宅バブルとサブプライムローン問題。
金融危機が起きている金融市場の現状を著者が提唱する「再帰性」理論で分析する。
再帰性とは、
人間と周囲の出来事の双方が互いに影響を与え合うことで変化し続ける相関的なものである。双方向的な干渉。
人間は市場を完全に理解することなど出来ないのだ。
その理論は自然現象を説明するものではなく、社会現象に限定される、としている。
本書では彼が以前より提唱するその理論が実践的で重要であることを訴えている。その上で金融危機の根本には均衡理論に基づいた誤ったモデルの使用があったという。そこには「再帰性」が無視されていると。
今回のバブルの生成と崩壊が再帰性で説明できるとしている。
第二章では彼の個人史にも触れていて興味深い。最後の第八章では今回の危機を踏まえ、将来の危機予防に対して、次のような政策提言をしている。
・一定の規制の必要性
・CDS清算機関ないし交換所の設置
また、「真のサブプライム地獄は二年後に訪れる」と予言する。
二年でサブプライムローンの借り手の4割が債務不履行になる。借り手が家を手放さざるを得なくなると更に住宅価格が下落し、影響がますます大きくなる。
○印象的な言葉
・市場を読み解くための直感
・欧米型知的エリートの思考法
・教養知性としての哲学や歴史学は理想や世界観を語るのに不可欠
・可謬性:間違いうる可能性。理性の時代から可謬性の時代へと前進しなくてはならない。
・自然現象も社会現象も研究では同じ方法論が用いられるべき(カール・ポパー)。どんな理論もいずれは反証されうる仮説として扱うべき。反証するには反例一つで足りる。
・量子力学が扱う現象には思考する参加者を持たない。不確定性原理は自然現象を変化させないが、再帰性を認めることは人間の行動を変えるかも知れない。
・究極の真理が到達不能であるという事実は宗教を排除しない。むしろ信じることの可能性が開かれる。
・啓蒙主義以降の時代は理性に対する信仰が一時的に宗教心を圧倒したというだけ
・イデオロギーは反証不能である
・フロイトやマルクスらは自分の理論を強引に科学的な装いをまとわせようとした思想家。共産主義理論は科学ではなくイデオロギー。
・「開かれた社会」(オープン・ソサエティ):改善を受け入れる度量のある不完全な社会。希望と創造性を生じさせる。
・市場原理主義は有害さにおいてマルクス主義の教義に劣らない。科学を装うが現実による検証に堪ええない。
・FRBは過去あまりに多く金融システムを救済してきた結果、将来における救済余力を大幅に弱めている
・米国とアジアの「共依存」関係。輸入・消費する米国、生産・輸出するアジア。
・1987年の米国株式市場の暴落時、日本が最後の貸し手・投資家として急浮上
・過去の経験を未来の予測に使用することの困難さ
・規制当局はリスクを計算できないような金融商品の販売を許可すべきではなかった。そのリスクモデルは「金融システムが安定している」というのが前提だった。
金融市場は自動的に安定するものではない。
・米国の住宅価格は20%下がらないと適正な価格水準といえない
・スペインとイギリスは特に危ない。欧州の銀行や年金基金は米国の機関投資家以上に大量の怪しげな資産をつかまされた
・中国バブルが数年先に弾けて金融危機になる可能性は高い。中国共産党は中国資本主義の全般的な危機によって終わる
・インドは法治主義の浸透した民主主義国であり、中国以上に投資しやすい
・米国政府は税金投入で住宅価格の下落を食い止めなくてはならなくなる
・市場は不安定で不確実な状況の中でこそ活況を呈する
・金融機関は当局に守られている以上、その代価も支払うべき
・住宅ローンの借り手が家を手放し、競売にかけられる。その地域の市場価格が下がる。競売の連鎖で、地域が荒廃する
・権威を盲信してはいけない。学問を学び、自分なりの理論を組み立てる。すべてを笑いとばせる胆力
-目次-
目前に迫る「超バブル」崩壊
危機の背景
第1部 危機の全体像
根本概念
私はいかにして哲学者として挫折したか
「再帰性」の理論 ほか
第2部 分析と提言
超バブル仮説
私はいかにして投資家として成功したか
二〇〇八年は、どうなるか? ほか
ソロスは警告する
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