読書メモ

・「資本主義崩壊の首謀者たち
(広瀬 隆 :著、集英社新書 \720) : 2009.11.28

内容と感想:
 
現在の国際的金融危機を著者は「金融腐敗」と見ている。 「同時に精神的な腐敗」でもあるとし、それを本書の主題としている。
 この本ではニューヨークタイムズのヒトコマ漫画をいくつも挟み込んでいる。 それらがアメリカ人自身が描き出す現状分析であり、 「的確に問題の核心をついて、時代を活写していた」からという。
 クリントン政権末期に「金融サービス近代化法」を発効させ、金融を自由化し、今日に至る金融腐敗を助長した張本人として ルービン、サマーズ、グリーンスパンを挙げている。彼らは財界の代理人に過ぎないという。 そして驚くことにオバマの経済ブレーンとしてルービン、サマーズが入った。
 第三章では「日本は輸出だけにすがっていてよいのか」と問題提起しているが、その指摘は間違っていると私は思う。 輸出相手はアメリカだけではないはずだ。国内産業の空洞化を輸出の拡大と混同してもらっては困る。 その上「必要なものはできるだけ日本国内でつくり」などと保護主義的なことも言っている。経済を理解しているのか疑問だ。
 しかし「郵政民営化は大規模な振り込め詐欺」というのは重要な点だ。 「ゆうちょ銀行」と「かんぽ生命」の株式が上場され、完全売却されるようなことになり、 外国人投資家が株を大量に保有して発言を高めるようになれば、両郵政グループの資金の運用先を日本国債から 米国債に切り換えられかねない、という。つまり日本政府は財布として利用してきた郵貯を失い、国債の引き受けてを失うことになる。 財政が立ち行かなくなるだろう。 従って、著者は郵政民営化はウォール街が日本に迫った「振り込め詐欺」と同じだから、すぐに白紙撤回すべきという。
 著者はこれまでも「アメリカが崩壊している」と何度も書いてきたと振り返る。 そして「これからも、近い将来同じことがくり返されることは必至」だと言い切る。
 「おわりに」ではアメリカのような「世界中の平穏な生活を乱す国家が、かつてあったでしょうか」と強烈に批判し、 この現状を放任すれば、彼らはますます増長し、それは日本人にとって破滅を意味すると警告する。 彼らが弄する公正な取引、自由主義とかいう巧みな言辞には、よーく注意する必要がありそうだ。

○印象的な言葉
・国際金融マフィア
・シカゴ人脈。オバマの周りには危ない人脈が取り巻いている
・WTOによるグローバリズムの腐敗拡大
・アメリカ人がオバマを選んだことはある種の社会主義的な生き方を選択したこと
・全米の厳しい批判的な目が労働者を含めたデトロイト全体に向けられている
・投機に対するうしろめたい心当たり
・2002年のアメリカの金融犯罪(会計不正)で摘発された銀行の名前は2008年の金融崩壊で当局に助けを求めた銀行とみな同じ
・「怒りの葡萄」:アメリカ恐慌時代の民衆を描いた
・戦前の日本には財閥に対する国民の怒りがあった。それを軍人が利用
・アメリカの恐慌後、四半世紀でロックフェラー、モルガンの二大財閥が全米企業を傘下におさめ独占を強めた
・穀物市場で価格が操作され、貧困国が穀物を買えなくなるようなことをさせないよう規制が必要
・貧困を招くような人類の犯罪の拡大を政府は取り締まるべき。犯罪が犯罪にならないように制度を定めているのが現在のアメリカと世界の金融システム。
・アメリカの禁酒法時代、1920年代にウォール街でギャングが横行、不正会計だらけのNY証券取引所で株価が急騰、そして暗黒の木曜日にいたった
・タイタニック沈没の際、まず先に救命ボートに乗ったのは一等船客だった
・シティ・グループは1998年に複雑怪奇な形で大合同を成し遂げて生まれた。全米を支配できるように投機業界によって仕組まれた合併
・グローバリズムは実際には地球規模の経済大合同により、富裕層が貧困者から搾取するメカニズム。行き詰った大国の経済を更に大きな容れ物に移し変えるメカニズム。 WTOという仕組みを利用して先進国の経済サークルに他の国々を取り込むことで。あたかも公平な国際貿易を行なうかのように仕組んでいる。
・キリスト教徒は「金銭に手を汚さない綺麗な人間だ」と、偽善に満ちた純潔ぶりを誇る一方で、裏ではすべてユダヤ人に金を借りずには戦争も何もできない社会制度を作り上げた。 これは江戸時代の士農工商に似る(武士と商人の関係。→ 日本の朝廷と武家との関係にも似ている)
・2008年の日本の外貨準備高は1兆ドル突破。それで売れない米国債を買っている。日本には米国債を買い続ける余力はもうない

-目次-
第1章 自作自演の仮面舞踏会に酔った金融大国
第2章 誰がこのような世界を創り出したか
第3章 日本がとるべき新しい進路