読書メモ
・「日本消滅(ジャパン・ナッシング) 〜IT貧困大国・再生の手だて」
(牧野 二郎 :著、祥伝社新書 \840) : 2009.06.22
内容と感想:
著者はIT事情に詳しい弁護士とのこと。
本書では検索サービスを海外に頼っている問題や、過剰な個人情報保護が情報の活用を阻害し、経済の活力を奪っている問題などを取り上げ、
その原因の根幹にある国家戦略のなさ、自信を失った日本人の姿を描いている。
その上で日本再生の手立てを示そうとしている。
第一章で、今の日本は「小さな権利、利権者集団の目先の利益のために国全体、経済全体の方向性を見誤っている」、
また、「多くの人々にその本当の姿、見誤っている姿が見えていない」と指摘。
このままでは「わが国の繁栄もいつまでも続かない」と危機感を述べている。
これが多くの国民が感じている閉塞感とも結びついているのだろう。
第三章では「日本のダメさの見本が社会保険庁」、「杜撰の極み、何も考えていない、何も管理していない、無責任集団の塊」、
「責任すら取れない最悪の状態」と口調も厳しい。著者はこれを「日本の縮図」と見ている。
相次ぐ企業の不祥事が明るみになっているように、日本はそこまで劣化しているのだろうか。
終章には「日本ブランド」という言葉が出てくる。高度な技術力、厳しい品質管理から生まれた日本製品のブランド力を意味する。
それは日本人の「地道なコンプライアンスの努力」、
「一人ひとりが、体を張って守り続けてきた安全性、信頼性」から生まれた。
世界に認められる「日本ブランド」を守り育てることに日本復活の道があると著者は考えている。
最後に「政府に期待する時代ではありません」、「無能な政府」、「政治不信」を通り越して「政治がない」と辛口。
「日本の再生のストーリーは民間の再生戦略、世界戦略にかかっている」と言うように、
非効率な行政に任せず、民間主導で国を動かしていくしかないだろう。
ただし行政と癒着した利権集団には厳しい目が必要だろう。我々自身もそこに取り込まれて、自分を見失わないようにする必要がある。
○印象的な言葉
・指導力を低下させ、信頼がなくなり、頼るべきものがない
・我が国の最大の資産:まじめな人々、ものづくりの力。丁寧さ。
・誇りのない人間に何が教えられるのか
・教えるとは希望を語ること、学ぶとは誠実を胸に刻むこと
・職人が大切にされる社会、巧みの力
・検索エンジンは引用の概念で著作権侵害に当たらない(韓国)、フェアユースの理念から合法(中国)
・フランス国産検索エンジン「クロエ計画」。図書館学のスタイルに従った体系化。立体的で横の連係を広げるような触発を生じさせたい。
・重視される知的生産の経済:価値、便利さ、時間の節約を生み出す力
・世界のGDPに占める日本の割合の急激な低下。購買力平価では中国に次ぐ三位。国民一人当たりGDP(生産性)は20位。
・インドは日本のIT技術者の数十倍の技術者が毎年大学を卒業
・中国は日本で10年間に必要な技術系労働者数を毎年生み出す
・日本にしかできない高品質のマネジメントなどのノウハウ、運用・サービスを輸出していく
・情報はそれを必要とする人にとっては莫大な価値を有する。情報は急速にその価値を減少させる。情報は広がることで価値を増すこともある
・管理力(マネジメント力):仕事を動的に理解し、その動きを予測して、先を読みながら段取りを取る力。リスクを冷静に見抜いて、それを押さえ込む方法を心得て、
確実に着実に進める力。
・記録の効果:記録することで緊張する。点検可能。責任の所在の明確化。
・子供の教育問題以前に、親の生き様、大人の行動バターン、大人の社会そのものを考えるべき
・OECD実施のPISA(学習到達度調査)はその国の教育システム、教育の質をテストするもの。生徒の点数が問題なのではない。
・教育自体の科学化が必要。科学的な対応のありかたを実社会から学ぶ。生きる力を求める。
経験を基に試行錯誤をさせ、結論へ至る道筋を考えさせる。解決策についていくつもの提案を比較。多角的な分析の力。
・日本は特許付与件数では世界トップクラス。利用されていない特許は半数以上。大学の特許は8割以上は利用されていない。実業界では使い物にならないものばかり。
・スポーツと科学との結びつきを学ばせる。スポーツも科学の戦い。科学的な分析、統計処理
・天才が一人出ることで産業も競争力も大きく前進
・裁判という呪術のような世界。神官のように呪術師のように怪しげで難解な言語を操り、意味もなくあがめられることに慣れ親しんだ人々
・過剰な個人情報保護。産業を萎縮させ、事業活動を阻害。活力の源泉を投げ捨てている。
・個人情報は公的な利益を持つ場合も多い
・知的活動は旺盛、出版件数も年々増加。量から質の時代に移行
-目次-
第1章 頭脳のない国は滅びる
第2章 「過去の亡霊」にしがみつくな
第3章 日本人は、本当にダメになってしまったのか
第4章 ビジョンがなくては、企業も人も育たない
第5章 個人が阻害する「知の進歩」
第6章 日本に再生の道はあるのか
終章 コンプライアンスが生む「日本ブランド」
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