読書メモ
・「トヨタショック」
(井上 久男、伊藤 博敏 :編著、講談社 \1,429) : 2009.05.02
内容と感想:
日本の法人税の5%を占め、日本の屋台骨である最強メーカー・トヨタ、
エクセレントカンパニーと言われるトヨタが2009年3月期連結決算が4,500億円の営業赤字と今年2月に発表され衝撃が走った。
既に昨年2008年11月から赤字見込みの報道がされており、タイトルにあるように「トヨタ・ショック」と言われたが、
3度の下方修正を繰り返し、ショックは拡大した。
もちろん背景には世界的な金融危機、米国市場での販売急減がある。影響を受けているのはトヨタだけではない。
しかし経営危機の深刻さは1950年以来だとも書かれている。
「市場調査力も万全、商品力にも問題なし、販売力も磐石」といわれたトヨタがこうなったのは、
「なまじ体力に自信があったただけに、対応が遅れた」からと著者は分析する。
経営陣は「販売見込みなどを甘く見積もり、決算の数値をよくすることだけに注力していた」、
「現実を直視しなかったか、あるいはできなかった」、「判断ミスで、在庫も膨れ上がった」とも言う。
また、ここまで赤字が拡大したのも在庫が増え始めていたのに、経営陣が「気づくのが遅れたうえ、ブレーキを踏むのにも躊躇していた」、
「失敗経験がほとんどなく、業績悪化を極度に恐れた」からだとも言っている。
1年前の2008年度3月期までは世界的な好況もあって右肩上がりでトヨタの業績は伸びていた。
その背後でトヨタからは「トヨタらしさ」を失っていったと著者らは見ている。
「グローバル・マスタープラン」という中長期の計画が「トヨタを計画経済の道に推し進め」たことが変化への対応の遅れを招いた。
私が本書を手にとった理由は金融危機が拡大する中で、なぜお家芸の「カンバン」が役に立たず在庫が積みあがるようになったのかという疑問からだ。
カンバン方式は、略してグロマスとも呼ばれる「中長期の計画に対応する生産システムではな」かった。
「環境の変化に柔軟に対応することが得意だった」トヨタは自らの強みとしていたカンバン方式を捨てたのだろうか?
今回のトヨタの問題は外部環境の要因が大きかったが、本書によれば経営陣にも問題がありそうだ。
しかし人材は豊富なはずで底力はあるから復活は早いだろう。
高度成長期でもないのに昨年までの右肩上がりの成長はやはり異常だった。かつての状況にはもう戻れないだろう。気になるのは過剰な設備投資と雇用だ。
関連企業も含め、その影響は計り知れない。回復までには痛みを伴いそうだ。
○印象的な言葉
・アメリカの自動車産業の財務派の幹部にとっての真の顧客は株主。利益ばかりを追うようになった。技術開発を怠った。
・トヨタらしさを失った。経営スタイルの変化。目先の利益や株価を追い求めた。現場重視やもの造りに対する愚直な姿勢などを失った。社内官僚も増殖。
カローラのような安くて品質のよい大衆車をコツコツと努力して造るのが得意だった。ファンであるお客を失いつつある。
・ジャストインタイムのトヨタ生産方式:一日当たりの生産台数が繁忙度合いのバロメータ。トヨタは部品サプライヤーに毎月、3ヶ月先までの数値を内示。
・現場経験のない経営陣
・大企業病の蔓延、危機感のなさ
・大学だけが一流の人。英語などを上手く使い、プレゼンも上手で、まるで外資系コンサルのような社員
・本社と現場との乖離
・マスタープラン:中長期的な生産・販売計画
・自動車産業は大きな工場を持ち、多くの社員を抱え、固定費の比率が高いビジネス。一旦過剰設備に陥ったら利益が出にくい
・かつては巨大企業でありながら行動が早いことが特徴だった。トヨタらしいきりっとした動き。ボトムアップ中心の会社だった。
・「こんな商品を造りたい」というエンジニアの夢と収益のバランス
・多能工:複数の仕事が同時にこなせる社員。多品種少量生産。1ラインで5車種を混流生産。米国では多能工化の教育が遅れていた。
・人材育成が追いつかず、成長に慣れすぎた
・専用工場の弊害
・トヨタは日本の法人税の5%を占める。GDPでは関連企業を含めれば数%を占める
・トヨタで働いてもトヨタ車を買いにくい非正規雇用
・明日のトヨタを考える会:現場発の戦略を考える組織
・豊田市など自治体や多くの中小企業、そして日本経済がたった一つの企業に寄りかかる構造
・景気のいい時は仕事に追われ、具体的な対策を打てなかった
・研究と創造に心を致し、常に時流に先んずべし(豊田佐吉、豊田綱領)
・集客力のあるショッピングセンターに併設した販売店
・高級車は営業マンの顔で売る
・欧州ではディーゼル車が売れる。燃費や環境性能を進化させた。高速道路では燃費もよい
・販売台数の拡大を前提としない新たなビジネスモデル
・日本の就業人口の約8%が自動車関連。2007年の全製造業の出荷額の17%が自動車。輸出額の22%が自動車関連。全製造業の設備投資額の20%が自動車。
・米国での現地生産、現地調達比率を高めてきた。8割の部品を北米で調達
・大量消費、大量生産からの決別
・グローバル化で世界各地に戦線が広がり、兵站が伸びきると品質問題が起こりやすい
・顧客や市場との対話
・部品点数の削減、部品の共通化、生産設備の小型軽量化、メンテナンスフリー化、低コスト化
・低公害型クリーン・ディーゼルエンジン
・トヨタ回復の条件:自動車ローンを組める状態になること。底打ちは2010年
・人づくり、ものづくりをじっくり行い、安全を見極め、石橋を叩いてから渡るのがトヨタ
・環境技術、安全技術、情報技術の3つで世界の自動車メーカーをリード
・トヨタの限界利益率は20%。
・米国ではメーカーが車を所有したまま顧客にリースする割合が2割。青空販売も多く、在庫負担はディーラーだが、一定期間は金利の支払いだけで展示を認める。
・2008年秋以降、トヨタが融資を求めて金融機関を回り、資金確保に奔走
・中古車価格が暴落しリースした車の残価に価値がなくなり、リースのビジネスモデルが壊れた
・飽和した車社会のアメリカで右肩上がりの急成長。カー・バブル
・バリュー・イノベーション(VI):原価改善活動
・国家戦略なき日本。トヨタは企業の観点から日本の指針を打ち出せる力を持つ
・空気圧縮エンジン:究極の無公害エンジン
・世界的に小型車が主流。小型車に強いメーカーの世界的地位が高まる
・身の丈を知る
・マイペースで独自性の高い車作りを目指すべき
-目次-
プロローグ まさかあのトヨタが…
第1部 最強トヨタにいったい何が起きたのか
立ちすくむ巨人・トヨタ
拡がるトヨタ・ショック
日本経済の悲鳴と悲劇 ―数字で見るトヨタ・ショックの波及力
第2部 トヨタ・ショックの「先」を読む
トヨタ・ショックの出口
もしトヨタが国内生産300万台を切ったら ―スモール・トヨタという悪夢
トヨタ・ショックで見えてきた日本経済の実力
自動車産業は生き残れるか
|