読書メモ

・「世襲議員のからくり
(上杉 隆 :著、文春新書  \710) : 2009.11.21

内容と感想:
 
安倍、福田、麻生と3代続けて首相が短期でその座を投げ出した。 共通するのはいずれも世襲議員であること。こういう事態になったのも世襲の弊害であると著者は考えている。 本書はまだ麻生総理在任中の2009年5月に出た。タイトルにあるとおり日本に世襲議員が生まれる土壌を説き、 その弊害を打破するために何が必要かを考えている。
 世襲のメリットとして、選挙に有利、中央で活躍するために選挙の心配をしなくていい、などが挙げられる。 勿論、世襲議員にぶら下がる既得権者にもメリットがある。
 第3章から5章までで世襲のからくりを解説している。
 1.政治資金管理団体の非課税相続
 2.後援会組織の世襲
 3.看板の世襲
その「仕掛けには、政治資金規正法や、公職選挙法などの法律の網の目をかいくぐることで成立するものが多い」。 つまりザル法なのだ。法律が世襲議員有利に出来ている。
 鈴木宗男氏が言うように世襲議員は「お金の苦労、生活の苦労等が少ない。甘えがある。他人の痛み、苦しみがよく分からない。胆力がない。」 しかも、そうした世襲議員が正当な手続きを踏まずに国民の信認を得ないで一国のリーダーになれてしまうのが、日本の不幸である。
 第4章で選挙でお金がかからない制度にすれば、「献金も少額かもしくはゼロで済む」、後援会活動も縮小し、「政治に費やす労力や時間がすくなくていい」 と書いているように選挙制度を変えれば後援会員にもメリットはあるはずだ。その気になれば変えられる。
 また、今後の喫緊の課題として著者は国会議員の定数削減も挙げている。彼らの給与だけでも削減できれば国家財政は改善できる。 国会議員も痛みを分かち合う必要がある。議員ら自身が進んで痛みを引き受けるとは考えにくい。 ゆえに我々国民もよく考える必要がある。それだけの覚悟のある政治家を選ばなければならない。育てなければならない。
 「おわりに」にもあるように、「困った」リーダーを戴いた日本は国益を損なうことになり、被害は国民にはね返ってくるのだ。

○印象的な言葉
・世襲議員の特権的優遇制度
・世襲は(人材が政治の場に出る)機会の平等を損なっている
・英国には世襲議員が少ない。下院の割合は3%に満たない。立候補希望者を政党が面接し、資質を問う。立候補の前に予備選もある。 選挙資金は政党がもつ。10年ほどで選挙区割りが変わる。上院には世襲貴族がいるが、権限はほとんど失われている。
・政治記者にも政治家二世が多い。彼らは記者ではなく政治側との連絡調整役。政治側はマスコミ対策としても有利。 そのためマスコミも世襲を批判しにくい。
・国のリーダーに必要な、自らの生命をなげうとうという迫力
・世襲議員は東京のエスカレータ式の学校に通い、受験勉強という競争を避けて育った。選挙のときだけ地元に出張する
・一般常識には欠けていた吉田茂。白州次郎のようなブレーンが欠落を埋めた
・友愛青年運動:鳩山一郎が提唱
・後援会を引き継ぐこと:情報(名簿)、資金、人材(秘書)、利権構造、会を維持するためのノウハウを引き継ぐこと
・政治資金管理団体間の資産の移動(相続)は寄付なので課税されない
・政治で最も金のかかるのは選挙。事務所設置や人件費など。資金力のある世襲政治家が有利
・選挙区秘書の仕事:日常的な後援会組織のメンテナンス、選挙時の後援会同士の連絡
・政治家本人の政治的な資質は問わない後援会型政治。後援会が政治家の「最大の私有財産」
・イタリアは日本に近く、地方の名家が代々政治家を出すのが珍しくない
・都市部より地方の方が世襲議員は多い
・ドイツでは政治家には利権もなく、給料も低い。一般の公務員並。職業としてのうまみはない。
・国会議員は国の仕事に集中すべき。郷土のために役立ちたいなら、地方の首長になればいい
・小選挙区制では無名の新人の当選は難しい
・茨城では国会議員は「お飾り」。権力は県議や市議が握る。自民党組織が弱体化し、利権が割れるのを恐れている
・秘書が政治の現場を学ぶ近道
・政治家や経営者は世襲してはいけない。二世が駄目だと国民や社員を道連れにしてしまう

-目次-
第1章 二世の投げ出しはなぜ続く
第2章 民主党の二世たち
第3章 からくりその1 ―政治資金管理団体の非課税相続
第4章 からくりその2 ―後援会組織の世襲
第5章 からくりその3 ―どんな無理もする「看板の世襲」
第6章 世襲大国日本
第7章 国民の意思が世襲を断ち切る