読書メモ

・「SEの教科書 〜成功するSEの考え方、仕事の進め方
(深沢 隆司 :著、技評SE新書 \840) : 2009.06.08

内容と感想:
 
本書は業務システム開発を対象に書かれた本であるが、その他のシステム開発でも使える共通の考え方が書かれている。 著者が一般的な委託開発で「実際に役に立った」考え方や方法を紹介している。プロジェクトマネージャは必読である。 技術誌「Software People」の記事を元に書かれている。
 著者は開発経験を重ねるうちに「汎用的に実効性のある方法はない」という結論に達したが、20年の経験の中で プロジェクトを成功させるための「共通な部分がある」ことに気づき、本書を書いた。
 第1章にSEの役割とは「システム開発を成功させるために必要なことはすべてやる」とある。 開発プロジェクトのゴールは成功であるから、SEである以上その役割は常に意識しておく必要がある。 システム開発も人間が行なう活動であるから、プロジェクト運営上のコミュニケーションは不可欠である。
 第2章にもあるように失敗プロジェクトの原因として、コミュニケーション上の問題が挙げられることも多い。 これに対して第5章では「全社的な品質保証活動の一部として、コミュニケーション技術の向上、具体的には会議の進め方やプレゼンテーション技術についてのスキル向上を目指すべき」 と述べている。企業はもっとこれを意識する必要があるだろう。
 「あとがき」のシステム開発で発生する問題の多くは「より上流の工程や、より上位のマネジメントにあるもの」と言う指摘は当たっている。 それだけに経営層や上流工程の設計者はプロジェクトマネジメントを最も勉強しなくてはいけない。 日本のソフトウエア産業に魅力がなくなり、活力を失っているのはここに大きな原因があるように私は感じている。
 著者はもともとプログラマーがやりたかったそうだが、当人が「イメージしていたプログラマーが働く環境を実現するには、経営者をやる以外に方法が考えられなかった」ため、 必然的に経営者としての立場にならざるを得なくなったという。そうした視点が持てるようになったことで、プロジェクトマネージャとして、SEとして多くの プロジェクトを成功させることができたようだ(必ずしも独立・起業しろと言っているわけではない)。

○印象的な言葉
・一見、相反するような複数の要素も全てを同時に実現する方法を粘り強く考える
・コミュニケーションの改善が全て。相互に理解したことを確認できるまで「確認」「説明」「議論」
・細かいところほど重要
・プロジェクトマネージャはコミュニケーションに90%以上の時間を費やす。コミュニケーションの橋渡し役
・知らない、理解していないことを馬鹿にしない・怒らない。分かるまで説明するのを面倒くさがらない
・顧客のシステムへの極めて小さな問題でも、毎日のことなら大きな不満となる
・ハロー効果:人のある一面だけを見て全体の評価をしがち
・プロジェクトマネージャが作るもの:成果物とプロジェクトそのもの(成功)
・プロジェクトが失敗する原因の多くは経営者にある。プロジェクトマネジメントしやすい環境作り。 プロジェクトマネジメントを一番勉強する必要があるのは上位管理者から経営者。
・優秀なSEやプロジェクトマネージャは上位の人々にどう動いてもらうかを考えている
・他人のモチベーションの上げ方は分かりようがない。落とさないように気をつける。
・直接、顔を合わせて行なう会議は人間の脳にとって最も難しい情報処理を必要とする。リアルタイム処理
・会議で話が混乱している場合、兎に角ホワイトボードに書き出す
・笑顔が出せるような会議の進め方。アイデアを出し合い、協力しあえる、場のムードを作る
・困ったことは解決するのみ。
・顧客に早期に目に見えるものを提示することでモチベーションの高さを伝え、信頼感を持ってもらう
・プロジェクトを進めていくうちに段階的詳細化が行なわれ、それに応じてスケジュールの変更管理を行なう。顧客とコスト的な相談も必要となる場合もある。
・「当然、大丈夫」と断言していることほど危ない。確定要素の確定の根拠が甘かったり、変化した場合はそれは不確定要素(リスク)。確定と考えていること自体がリスク。
・プロジェクト初期は少人数で。3名以上になると注意が必要。意思決定に時間がかかる
・代表的な機能、最も頻繁に使用する機能、内部的に負荷の高い処理、などの設計を優先的に承認を得る
・システム開発は大規模で複雑な伝言ゲーム。伝言は変化する

-目次-
第1章 SEの仕事は「人」が9割
第2章 失敗の原因はコミュニケーション不足
第3章 マネジメントが成否の鍵
第4章 コミュニケーション重視の会議術 ―準備編
第5章 コミュニケーション重視の会議術 ―実践編
第6章 プロジェクト初期段階の仕事術
第7章 成果物作成の仕事術
第8章 顧客業務分析の仕事術
第9章 設計・実装・テストの仕事術
第10章 プロジェクト運営の仕事術
第11章 業務システム開発は「伝言ゲーム」