読書メモ

・「アジア三国志 〜中国・インド・日本の大戦略
(ビル エモット :著、伏見 威蕃 :訳、日本経済新聞出版社 \1,800) : 2009.01.02

内容と感想:
 
21世紀が「アジアの世紀」になるとは世界の衆目の一致するところである。 アジア全体の人口は世界人口の半分に近い。 本書はアジアを俯瞰し、日本・中国・インドの歴史や現況、抱えている難問や他国との軋轢、 それぞれの強みと弱みなどを多くの資料を駆使し、自らの脚で取材し分析・検証している。
 唯一の超大国アメリカの時代は終わり、パワーが世界に分散している。 それに対してアジアで勃興するパワーが国際問題での発言力を強めている。 ただ成長途上のアジアには欧州にあるようなものが欠けていると指摘する。 それは著者が第2章で指摘するように地域を一つにまとめる機構である。 争いを調停し、互いの信頼を深め、貿易、投資、治安維持、環境問題、安全保障などの問題について、 共通のルールや手続きを決めるような枠組みが存在しないのだ。 現在、三国が完全なメンバーとして参加している汎アジアの枠組みは東アジアサミットしかない(2005年発足)。
 第8章では日本が憲法を改正して自衛隊に行動の自由を与え、ひいては軍隊の強化と最新装備の充実に使える予算を増やそうと考えていることに 注意を促している。 また、中国の軍事費について公式の数値は低く見積もられており、信頼できないとしている。
 第9章ではアジアの三国が今後10年の間に建設的な関係を築くか、破壊的で競争的になっていくかについて考えている。 三国の間には不和や発火点が存在しながらも、三国と欧米諸国がその危うい事態をうまくさばいて、そこから利益を引き出すために これから数年の間にやるべきことを9つの提言として挙げている。 その中には日本との間にある歴史問題に対するものもある。 また、アジア各国ががっちりとまとまって協力していける協力な機構づくりにも触れている。 冷戦時代のOSCE(欧州安全保障協力機構)が手本になる、と言っている。
 興味深いのは本の最後で、中国が2020年代末もしくは30年代初頭に選挙を実施し民主主義に移行するとの予言だ。 共産党の第5世代もしくは第6世代が、日本の55年体制のような複数政党制でも権力維持できるように図るだろうと言う。

○印象的な言葉
・アジアでの貿易とイノベーションが活発になれば、米欧も豊かになる
・日中は巨大な外貨準備をもち、その大部分を米国国債が占める。米国は両国を財政面で脅しをかけられない立場
・欧州は「力の統治」。科学的な物質主義、武力の崇拝。
・東洋は「正義の統治」。慈悲、正義、道義に基づく高度な文明。
・紛争のリスクとコストが今では遥かに高くなっている。利益は小さくなっている
・インド洋がアメリカとインドの海軍によって警備されているため、中国はインド洋に出る別のルートを確保しようとしている。 パキスタンやミャンマーに港を建設、またパキスタンと中国西部を結ぶハイウエイを整備。スリランカ、セーシェル、モルディブなどにも開発援助。
・中国共産党が中国社会の激動に弾力的に適応できたのは有能でなおかつ実力主義を重んじるから。 重要な役職の任命と任期にルールと手続きを設けて、人事や制度が硬直するのを避けている。
・シンガポールは同族支配の王国のよう
・キヤノンが維持する終身雇用の対象は「中核」(販売と研究開発)社員
・中国の対外援助予算の大部分は中国企業のインフラ建設や鉱山開発に回されている。80年代の日本も同様だった。
・満州は万里の長城の外の地域。中国古来の領土ではない。住民は漢族でなく満族だった。満族が清朝を打ち立てた
・日本、中国、台湾は核保有を決断した場合に核兵器を速やかに開発できるテクノロジーと資源を備えている
・150社ほどの中国企業が北朝鮮で活動。中国は北朝鮮を一省として吸収し始めた
・貧しい国が汚染を減らせるように豊かな国が金を払うべき
・世界問題で相応しい立場を得ておらず、考えや懸念を口にする適切な機会を与えられていないとすれば怨恨がつのる
・年次サミットは中味が薄い

※アイデア、メモ:
・各章の段落ごとに見出しが全くなく、一目でポイントが掴みにくい
・アジアの影響力が拡大し、欧米の影響力が相対的に低下すればテロリストも大人しくなるかも

-目次-
1 アジアの新しいパワーゲーム
2 アジアは一つではない
3 中国:新しい主役が抱えるリスク
4 日本:復活した経済大国
5 インド:混沌のなかでの急成長
6 アジア経済の脅威、温暖化
7 歴史問題
8 発火点と危険地帯
9 アジアのゆくえ