読書メモ

・「すべての経済はバブルに通じる
(小幡績 :著、光文社新書 \760) : 2009.10.03

内容と感想:
 
サブプライムローンに絡んだバブルの生成と崩壊をテーマに、これが新たな形態のバブルだと論じている。
 著者はまえがきで「ねずみ講」が「経済成長がプラスを持続するメカニズム」だという。 また、経済成長には未開の地、フロンティアが必要だもと書いている。 しかし将来的に「世界経済における未開の地は減少し続けていく」ことは容易に予想される。 現実的には投資家たちの資金は収益機会を求めて今も世界中を駆け巡っている。
 サブプライムショックに端を発した現在の金融危機後の状況は「金融資本の自己増殖が維持不可能になってきた兆候の一つ」と著者は考えている。 金融資本の自己増殖がバブルを生み、限界に達すると崩壊する。 著者はサブプライムショックの本質を「二一世紀型の新種のバブルの生成と崩壊」と捉えている。
 第2章に「リスクテイクバブル」という著者の造語が登場する。 「多くの投資家がリスクを求めてリスク資産に殺到し、それによりリスクがリスクでなくなり、・・・」と説明している。 しかし私にはこれは従来のバブルと基本的には共通の現象のように思えるのだが。 プロのファンドマネージャといわれる人たちほど、自分のビジネスを成功させるためにはそういう行動を取らざるをえなかった、という。 リスクを取るのがゲームのルールだったのだ。 第4章にも出てくる格言だが「バブルに歯向かってはいけない」というように。
 バブルは弾けても弾けても、また湧いて出てくる。 そこに集まるのは懲りない面々だ。しかし弾けた後の実体経済への影響が巨大になりすぎて来ている。 人類は失敗をへて成長してきたとは思うが、立ち直れないほどのダメージを受けることにならねばよいが。

○印象的な言葉
・産業資本が金融資本に変質することにより、富がもたらされる仕組みも変質
・サブプライムローンの証券化ではリスクを移転していただけで、経済全体のリスクは減りもなくなりもしていなかった。 経済全体に新たな価値も生まれていない。しかし商品を購入した投資家にとっては新たな価値が創造されたかに見えた。
・格付け会社は(サブプライムローンの証券化など)ビジネスモデルの根本的な欠陥を精査することはない
・金融商品の流動性リスク。リスクの対象が他の投資家の動向という目に見えないもの。リスクの社会化。それは実体リスクから乖離する可能性がある。
・プロの投資家たちは、ともかく「儲かれば何でもよい」という真理、投資の王道に忠実だっただけ
・米国のように雇用の流動性の高い社会では、30年後の借り手の収入など予想不可能
・「不安の対価」としての利益。リスクを取った対価
・賢明なファンドマネージャは愚かで向こう見ずな振りをする
・バブルとはねずみ講そのもの
・これぞバブル崩壊、というコンセンサスが得られるイベントが起これば崩壊する。市場全体が悲観的なムード、将来に対してネガティブな状況で起きる。
・市場の流れを作れるほどの影響力のある投資家は仕掛けたくなる。流れを作れば他の投資家たちがついてきて、そこで儲ける。 日本の市場には常に流れを作ってくる投資家の後追いをする投資家しかいない。それが仕掛ける側のターゲットにもなっている。
・日本には輸出依存という思い込みがあり、円高に対しての反応は常にネガティブ
・プロの投資家がバブルで儲けるのが仕事。ときには自分でバブルを作る
・キャンサーキャピタリズム:癌化した資本主義。癌のように自己増殖する

-目次-
第1章 証券化の本質
第2章 リスクテイクバブルとは何か
第3章 リスクテイクバブルのメカニズム
第4章 バブルの実態 ―上海発世界同時株安
第5章 バブル崩壊1 ―サブプライムショック
第6章 バブル崩壊2 ―世界同時暴落スパイラル
第7章 バブルの本質
第8章 キャンサーキャピタリズムの発現 ―二一世紀型バブルの恐怖