読書メモ
・「会社に人生を預けるな 〜リスク・リテラシーを磨く」
(勝間和代 :著、光文社新書 \740) : 2009.07.25
内容と感想:
高度経済成長期は遥かな昔。成長が止まった今、会社に人生を預けるというリスクが大きくなっている。
会社も「人生を預けきれるほど堅牢なものではなくなってきてしまった」(第1章)のだ。
終身雇用制が幻想となってきていることを意味する。
本書はサブタイトルにあるように、人生のリスクとうまく付き合うために
リスク管理能力を磨くことをテーマとしている。
リスク管理を学ぶことで、「呼吸をするように」リスクを取りやすくなり、
リスクの存在に不安を感じなくなることが期待できる。
第1章で終身雇用制の功罪について、リスクの観点から語り、
第2章ではリスクとは何かを説く。
第3章で「お上」から市民社会への発想の転換を提言し、
第4章で我々が今後どう自らのリスクをコントロールしていけばいいかを考える。
リスク・リテラシーを磨くには、少しずつリスクを取り、リターンを体感し、リスクに慣れ親しむことだと言う。
金融の運用を行なうとリスクリテラシーが身に付けやすい、とも言っているように身銭を切れば、学習に対する真剣度が違ってくるのは容易に理解できる。
実は既に若い世代は「お上も会社も自分の面倒を見てくれないことを肌で感じていて」、
リスク管理感覚があると著者は感じている。それだけに若い人にも政治に関心をもってもらいたいものだ。
「お上」は信用できないかも知れないが、よりマシな政治家を選挙で選ぶことはできる。
第4章では市民が自ら行動し、変えていくことの必要性を説いている。このまま「お上」だけに任せておいたらとんでもないことになる。
「リスク教育の肝は、将来に対する想像力」(第4章)と言うように、我々は現状維持ではこの国も自分の生活も悪化する一方だという想像力を持ち、
諦めずに出来ることからやっていく必要があるだろう。
○印象的な言葉
・リスク・リテラシー:リスクを予測、計量すること。リスクを取るかどうか判断すること。リスクのモニターと制御方法を決めること。
・リスクを取る訓練
・貧しいと感じているほど宝くじを買う傾向
・終身雇用制は現代の小作農、奴隷制。安全だと錯覚させ、思考停止を助長する。
・女性は働きにくく、若者は報われない
・「適度なリスクを取らないことに対してのリスク」の方が全体のリスクを高めている
・公務員:少しでも失敗すると政治家や国民から叩かれ割が合わない。モチベーションを維持するのが難しい。リーダー層はリスクを取れずに疲弊。
年を取るほど苦労が増え、やる気を失っていく。
・リーダー層を積極的に生むためのトップダウン型の人材育成
・アメリカの南北戦争:北部の工業化の進展に伴い、北部の諸州は農業で不要になった奴隷をリストラしたかった
・製造業かつ輸出業(約1割の人々)と国内業種の生産性の大きな差異
・配偶者を有する女性はもっと働きたい、配偶者を有する男性は働きすぎでヘトヘト
・外資系企業では四半期ごとに人事評価があり、初めは警告やコーチング、ダメな場合は再チャレンジ、それでも駄目なら解雇
・長時間労働が蔓延しているのは差別化がコストしかないため
・30代は経験と創造性のバランスが一番いい
・インデックスファンドは、より小さな分散で安定したリターンを得ることが出来る
・メタ認知:「自分の認知状態」を認知する
・金融危機や不況になっても大丈夫な生活設計を普段からしておく。収入の7〜8割で暮らす習慣
・知識や教養を身につけることで様々なシナリオを知る。考える土台。起きていることが想定の範囲内となり、慌てる必要がないと分かる
・血管は血糖値が上がると痛む。ゆっくりと食べると血糖値を上げない。白米は血糖値を急に上げる。血糖値の急な上昇は血管や心臓に負担。
・人生の充実感はリスクをどれくらい上手に管理できたかどうかで決まる
・リスク管理上の最も大きな失敗はリスクそのものを見逃すこと。感受性を高める
・リスクが顕在化するまで、リスク管理に対する投資は正当化がしづらい
・裁判官の考え方がやや偏っている。現状に合わない判決を下すこともある。一人では抱えきれないくらいの案件を抱える。
ガリ勉タイプ、おとなしい、従順、覇気に欠け、リスクを取らない。既存の枠組みを理解して即答することに長ける。
・第二次大戦も大多数の市民が健全に機能していれば、軍部の暴走を許さなかったかも知れない
・お上の力だけでは不十分だったことに市民が力を合わせて対処する
・多くの人は不満を持ちつつも我慢をして、政治に興味を失い、少数独裁制(寡頭制)をますます加速させる。リスクに背を向けている
・一票の重みが大きい地方部に高齢者が多い。高齢者の声が国政に大きく反映される
・シルバー資本主義:高齢者重視の資源配分。高齢者の政治家が高齢者のための政治をしている。税金の使い道が高齢者向け。
・教育費の公的支出は小さく、少子化を助長
・サブプライム問題:個々の証券化商品のリスクは小さいためにリスク感度が低くなり、多くの市場参加者がリスクを取った。リスクを分散したがゆえにリスクは増殖し、
集計するととんでもない量となった。
・リスクの可変性をステークホルダーに分かりやすく見せることが出来ないのは、資本主義の抱える最大の限界の一つ
・我々は自治体や国などコミュニティにリスクを移転する見返りに税金を払ってきた
・終身雇用制の緩和、正規・非正規雇用の均等待遇、総労働時間規制はセットで行なうべき
・リスクマネジメントは可能性をどれだけ多く考えられるか
・過去に起きたリスクを理解するために歴史を学ぶ
・リスクを取れる自由
-目次-
プロローグ リスク・リテラシーと終身雇用制
第 1 章 会社に人生を預けるな
第 2 章 リスク・リテラシーを磨く
第 3 章 「お上」に人生を預けるな
第 4 章 21世紀のパラダイムシフト
エピローグ リスクを取る自由
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