読書メモ

・「ハイブリッド
(木野龍逸 :著、文春新書 \750) : 2009.12.20

内容と感想:
 
言わずと知れたトヨタのハイブリッドカー「プリウス」。その開発プロジェクト・ストーリーを描いた本。 現在は3代目となったプリウスは「エコカー減税政策」という追い風もあり、大ヒット中。 既に世界の同業他社とは「十年の長がある」プリウスは熟成期に入った。 トヨタのハイブリッド・システム(THS)はプリウスに留まらず、ハリアー、レクサス等々の他車にも広がっている。
 本書は大半が初代プリウスの開発物語だが、それはわずか2年間で量産にこぎつけるという「クレイジー・プロジェクト」であった。 もう忘れた人も多いかも知れないが、初代が発売されたのは1997年12月のことだ。まだ20世紀だった。 「21世紀に間にあいました」 とかいうCMがあったが、世界で初めて市販される量産ハイブリッドカーと注目された。 私の住む信州でも今では頻繁に見かけるようになった。
 21世紀に提案できる車として全くのゼロから作り始めたそうだが、当初は「ハイブリッドは検討対象でさえなかった」という。 しかし「環境」というキーワードを重視し、燃費を二倍にすることが明確な目標になることでハイブリッド技術がクローズアップされた。 実は当時、社内には勝手にハイブリッドを研究していた変わり者がいた、というのがトヨタの懐の深さだ。 彼は実験部の担当役員という立場をフルに生かして、比較的自由に開発予算を使えたという。 これが短期間での実用化に結び付いた大きな要因の一つとなった。
 こういうクルマ作りはセクショナリズムのない小グループでの開発だから出来た、というようなことを当時のリーダーの一人が言っている。 少数精鋭で、やる気も覚悟もある優秀な人たちのチームが、苦しみながらもやり遂げた、もう一つの「プロジェクトX」。 これだからモノづくりは素晴らしい!

○印象的な言葉
・トヨタ:いつも二番手、真面目だけど面白みがない
・VE: Value Engineering。コスト削減を主眼にした開発。→技術者としての夢が持てなくなる
・金のことは言わない
・エンジニアは社会問題にも目を向けるべき
・コンセプト・メイク:マーケティング的な議論。絶対に避けて通れないもの、ハードルが高いもの
・プリウス:ラテン語で「〜に先立って」の意味
・誰にも何も言わないで、やればいい
・THSはシリーズ方式とパラレル方式を組み合わせた方式。単体方式より複雑。
・新しい技術はいつも、高級車、大きなクルマから入ってくる
・今は品質も性能も保証できない。進み具合と品質、信頼性を見ながら判断
・サイマルテニアス・エンジニアリング:すべての作業を同時並行でやる。後工程も前工程を確認にくる。その結果、設計変更も少なくなる
・トヨタは普段でも5年、十年先を考えている。電機メーカーはそんなに先まで見ていない
・世の中に出さなければレベルアップしていかない
・問題点を発見しやすいような故障診断手順の構築
・10%程度(の改善)の現実的な目標では画期的な考えは出てこない
・トップ役員がリスクを負う。目標に向かって上から現場まで一本の芯が通っていた

-目次-
序章 三代目プリウス誕生
第1章 二十一世紀のクルマ
第2章 「燃費を二倍にしろ!」
第3章 ハイブリッド一本
第4章 「内製」にこだわった電池
第5章 「お客さんに育てていただいた」
第6章 世界の「環境ブランド」
終章 次世代のプラグインハイブリッド