読書メモ
・「ゴーマニズム宣言 EXTRA 〜パトリなきナショナリズム」
(小林よしのり :著、小学館 \1,300) : 2009.10.19
内容と感想:
憂国の士、小林よしのりが描く、真面目な(そして少しのギャグ)漫画。「ゴーマニズム宣言」シリーズ。
サブタイトルのパトリとは郷土のこと。
郷土愛はパトリオティズムとなる。じゃあ、ナショナリズムは「愛国心」となる。
「ナショナリズムは近代国家の誕生と共に生まれた人為的なもの」というように、
日本人が「国民」意識を持ったのは明治維新以降で比較的新しいものだ。
ナショナリズムはパトリオティズムを同心円的に拡大したものではないが、そう錯覚させられているのではと著者は考えている。
まあ、そんなことよりも問題なのは、日本の伝統や慣習を守ってきた共同体を破戒しようとする者が国内にいるということ。
それは新自由主義者の勢力。個人主義や進歩主義とか一見、素晴らしそうなことを言う者たちだ。
地域格差、地方の疲弊というのも新自由主義の誤った政策の結果だ。
本書は上記のようなテーマの他には、パラオ取材、沖縄戦を取り上げている。
著者の秘書の「みなぽん」は著者との対話の中で、著書「戦争論」が好評なのは、
「自虐史観に対する疑問とか、不満とか、鬱屈した感情」があった若者たちや戦争経験者に感動を与えたからだと言っている。
著者は「先の大戦で戦死した若者の名誉回復のために描いた」と言う。
そこでは「戦前の日本人は凄かった、純粋だった、勇気があった、考えることが壮大だった」と書いた。
通説に疑問をもち、真剣に真実に迫ろうとする著者の姿勢は一貫している。
九州出身者で東京で仕事をしている著者は、自分は「都会の個人主義に慣れ親しんで、都会の便利さと快楽に耽って、都会で野望を膨らませている典型的な近代人である」と認めている。
郷土を完全に捨てたわけではないが、脱藩者のような後ろめたさは持っているようだ。
それよりも本書のように、おかしなことにはおかしいと指摘し、国民に語りかけ、考えさせる仕事は愛国心があるからこそできる。
○印象的な言葉
・1946年以後、中国から闘争してきた国民党(外省人)が台湾に渡り、大量殺戮を行い、独裁の恐怖政治で支配した。
ネイティブの台湾人を中国人化する民族浄化。
・パラオには二人の大酋長がいる。政府に対する力はないが伝統を守る力がある。土地を持っている。(←天皇に似ている)
・戦争をなぜしようと思ったのかを考えろ。自分の国を将来もっと強くするためにやらなければならなかったのでは?
帝国主義の時代に「自主独立」していたからこそ、戦争しなければならなかった。
・日本統治時代のパラオは豊かだった。仕事もあった
・イラクでの邦人人質事件を「自己責任」と言ってしまっては国家の自己否定になる
・「愛国者」らのいう愛国心とはGDPのことなのか?
・命よりも大切な価値のために戦っている
・公共投資の質を根底から変えろ
・戦中、兵士を村を挙げて送り出したのは、郷土の世間体の倫理
・郷土こそ差別の温床。小さな差異に執着して人を差別。嫉妬と無神経と陰湿がはびこる。
・全国の風景が画一化して個性が失われているのは価格破壊のせい(立松和平)。大量生産。
・下流層は自虐的に活力を失う
・最後はニヒリズムに陥っていく
・沖縄の閉ざされた言論空間
-目次-
日本統治論@
日本統治論A
パラオ取材日記
ザ・樹海@ 「ニートとフリーターと愛国オタク」
『戦争論』以後の愛国心について
ザ・樹海A 「命を大切にしない奴を嫌う奴」
真の不安、偽りの不安
パトリなきナショナリズムの危険
ザ・樹海B 「リストラ一家」
国家にとって「結婚」とは何なのか?
特別収録/新ゴーマニズム宣言 沖縄戦編
インタヴュー『沖縄論』、その後
第1戦 ひめゆり語り部に関する試験問題
第2戦 ひめゆり学徒隊の証言を読む
第3戦 対馬丸の悲劇は日本軍が悪い?
沖縄取材日記
第4戦 同調圧力の島・沖縄
沖縄講演会『沖縄論』を語る
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