読書メモ

・「世界金融危機 開いたパンドラ
(滝田 洋一 :著、日経プレミアシリーズ \850) : 2009.06.13

内容と感想:
 
リーマン破綻を契機に世界中に広がった世界金融危機の大津波。 それをグローバル経済の「パンドラの箱」が開かれた結果と例えたのが本書のタイトル。 本書は2008年末に出た本だが、その金融危機の臨場感溢れる報告になっている。 著者は日経の編集委員だけに現場に近いところから書かれており、緊張感のあるリアルな状況が伝わってくる。
 既に各国の政府、中央銀行らは金融機関へ資本注入を行い、金融危機の拡大は抑え込んだ。 ここに来て、世界経済の底割れは防げたと見る向きは多いようで、世界恐慌は回避されたかのように見える。 しかし終章では「抜本的な不良資産処理に踏み込むまで、市場から不安は消えないだろう」と書かれているように、 まだまだ回復には時間がかかりそうだ。

○印象的な言葉
・ベア・スターンズ経営危機からリーマン破綻までの半年間、金融関係者には損失を回避する時間的余裕はあったはず
・デリバティブ:金融の大量破壊兵器。地下茎のように絡まっている。
・金融技術の革新が行き過ぎ、当局が制御しきれない
・今回の危機でファンド全体の運用資産はよくて半減、場合によっては3/4減ってもおかしくない(ソロス)
・新冷戦の兆し。きしむ米中関係
・なぜ企業は賃金を上げないのか。企業は積み上げた収益を持て余している
・ファニーメイ、フレディマックの融資・保証規模は5兆ドル。日本の名目GDPに匹敵。米国の住宅ローンの4割。
・日本の保有する米GSE債は2,290億ドル(2007年)。外貨準備の運用先になっている
・FRBの小さな自己資本では、今回の資金繰り対策によって債務超過になりかねない
・オイルマネーの還流が米国の命綱
・米国では住宅ブームにより数多くの住宅金融会社がサブプライム市場に殺到し、ローンの利ざやは縮小、 融資のアクセルを踏まざるを得なかった。結果、焦げ付きが増加
・総額3兆ドルにのぼるCDOの半分をヘッジファンドが保有していた(2007年10月)。 ファンド向け業務は欧米金融機関の稼ぎ頭だった。欧米10社のファンド向け与信額は自己資本の7倍超
・リスク分散のためのCDOもマクロ経済や全体的な住宅価格動向などのシステマティックなリスクは軽減できない。リスクは増幅
・証券化商品の組成者、引受人、資金提供者、格付け会社、金融監督当局、投資家らの罪
・米国への資本流入の実態は株投資ではなく、大半が債権
・ロシア:2008年には欧州一の自動車市場となり、2009年には欧州最大の小売市場になる。海外自動車メーカーの現地生産も相次ぐ・ 構造的な腐敗が経済効率や生産性を押し下げている。イランの核開発を支援。経済危機に陥ったアイスランドに救いの手を差し伸べたのは 不凍港が狙い。
・中国・共産党員は7千万人、個人投資家は1億人
・ジム・ロジャーズは供給に制約のある食料品を投資の中心に据える
・米国農家の純収入は2008年は市場最高
・英豪資源大手BHPビリトンによる同業リオ・ティントの買収でダントツの巨大資源メジャーが誕生する。世界資源市場の寡占が進む。 資源メジャーの再編は中国の資源の暴食が引き金。
・小渕内閣が実施した給付金は消費に回ったのは3割
・米家計にとってMMFは短期の安全資産の代名詞。預金代わり
・米国の中間層以下の生活を支えてきたのは借金。約4割は所得税を納めていない
・ヘリコプターマネー:中央銀行がお札を刷って財政の面倒をみる。米国債の増発は必至
・米国の自動車産業や労組の支持を受けたオバマ
・1930年代、主要国は保護貿易と通貨切り下げ競争に走り、第二次世界大戦を招いた
・欧州市場は各国中銀がドル資金供給せざるを得ないほどドル依存はなお強い。中国・ロシアは外貨準備の目減りを忍んでまで ドルを支える気はない。

○ネタ
・なぜ「パンドラの箱」が開いた後、希望だけが箱の底に残ったのか?その前になぜ希望も箱に封じ込めたのか?

-目次-
序章 リーマン破綻が開けたパンドラの箱
第1章 金融がのたうち世界が揺れる
第2章 炸裂したサブプライム爆弾
第3章 グローバル化の臨界点
第4章 不満な成長か、停滞の分配か
第5章 二〇〇八年秋 大恐慌の足音
終章 危機脱却への模索 希望はあるのか