読書メモ
・「不幸を選択したアメリカ 〜「オバマ大統領」で世界はどうなる」
(日高 義樹 :著、PHP研究所 \1,300) : 2009.04.04
内容と感想:
オバマ大統領就任直後に出た本。
彼を選んだアメリカ国民は自ら「不幸を選択した」と著者は考えている。
前作では大統領選について書いていたが、オバマに対しては好意的ではなかったから仕方ないか。
本書では、どんな人たちが彼を大統領に選んだのか、また一体、彼はどんな人物なのか、
そして彼がこれからやろうとしていることは何かについて分析している。
オバマがやろうとしていることは、
何をおいてもまずは金融危機対策、そしてロビイストが関連する政治的な利権の問題に楔を打ち込むことくらい。
日本には関心がない、安全保障政策に関心がないという。
第五章ではアジア極東戦略に触れているが、「オバマには世界戦略がない」とも書いている。外交や国防は景気対策よりも優先度は低いのだろう。
経済対策としては財政赤字にしても構わないから、「購買力を高め国民に自身を持たせ、デフレに陥らないようにする」と考えているようだ。
実際、ブッシュ前政権末期から巨額な資金が投入されている。
第四章ではオバマ政権の中枢のスタッフを列挙し、その顔ぶれを説明した後、こんな皮肉を言っている。
「変化」を標榜し、ワシントンの政治を変えると主張したが、大統領になった途端、「自分自身がまず変化して、リベラル派から中道保守になってしまった」と。
当面は経済問題重視で「実務的・現実的な政治」を行なうしかないから仕方がないだろう。
それにしても酷い時期に大統領になったものである。100年に一度の危機と言われる今回の金融危機だが、同時にこの危機がアメリカ一極集中時代の終焉を招いた。
すぐに衰退するとも思えないが、世界のパワーバランスが崩れてきた時代に、オバマはアメリカを立て直すことが出来るだろうか。
また巨大な軍事力を維持し、「世界の警察」として振る舞い続けることはできるだろうか。
アメリカの自滅で、相対的に日本の力が大きくなり、発言力を高めるチャンスと思われる。だが、現在の国政を見ていると不安ばかりである。
○印象的な言葉
・「CHANGE」は魔法の言葉。オバマ大統領を盲信する国民。アメリカ人は辛抱がきかない。オバマに与えられた時間は最大1年。
・かつてアメリカが大恐慌から抜け出すことができたのは日本に対する戦争を始め、勝利したから
・アメリカ人は大統領を選ぶに当たり「好きか嫌いか」を第一条件にする。気の利いたことがいえる、智恵の回る政治家が好き。大切なのは人柄
・歴史上、アメリカ大統領として高く評価されているのはアメリカを大きな戦争に巻き込み、勝利を得た人が多い
・マスコミによって容易に動かされる大衆。不安定でムードに流されやすい
・アメリカ人は精神的な安らぎや心の問題を大事だと思い始めている。性格も穏やかになっている。寛容になっている。
高齢者はボランティアや生涯教育などを受けながら静かに暮らそうと考え、それより下の世代は人のために何かしたり、
本を書いたりしたい、若い人は世界のどこかへ行ってみたいと思っている。中高年は極めて家族主義的になっている。
世界の人々と交流し、自然の中で暮らしたいと考えている。
・冷戦が最も激しかった頃、アメリカの国防費は国家予算の4割を超えていた
・シカゴはアメリカの孤立主義の牙城、マフィアの町
・アメリカのジャーナリストの多くは現状に不満を持つ優秀な若者。オバマを自分たちの一員と見なしていた
・本格的にウォール街を追求するとなれば、背後にいる石油業者や土地業者、軍需産業などの利害と衝突する
・人種問題をあからさまに語るのは上品でないとされる
・アメリカ人は国を信じていないところがある。国は個人の権利を阻害し利益を奪うものだと警戒している
・アメリカ建国以来、拡大を続け、経済が大きくなり続けているから、ひっきりなしに通貨危機がやってきた。これほど急速に拡大した国家はアメリカ以外にない。
・大国の5条件。それを満たすのはアメリカだけ。
・アメリカでは「勇敢だ」というのが最大級の賛辞。アメリカ人は行動力に富み、素直で正義感に富む。一方で神経質で恐怖心が強い
・アメリカには自然保護の立場から国内の石油生産を厳しく制限している。手付かずの石油が多く残る
・アメリカの国防は軍事的な知識も情報も持たない素人集団の手にある
・アメリカ共和党の哲学は一つ「金儲け」。ビジネスが大事と考える人々が作った党。
・台湾に新しい兵器を売ると先端技術の秘密が北京に流れる
・中国本土と関係が強い台湾国民党
・北朝鮮の地上部隊は韓国を攻撃する能力を失いつつある。攻撃兵器は核ミサイルに限られてきた
・中国はアメリカに多くの投資をしてきたが、今回の金融危機で世界のどの国よりも被害を受けた。米国債の利回りはゼロになり、ドルも安くなり、ドル資産は目減りした。
・第二次大戦中、アメリカの軍需工場になったのはデトロイトの自動車工場だった。大恐慌で全く車が売れず、倒産寸前だった
-目次-
第1章 オバマはリンカーンか、ルーズベルトか
第2章 誰がオバマを大統領にしたのか
第3章 オバマの背後には何があるのか
第4章 誰がオバマ政権を動かしているのか
第5章 オバマのアジア極東戦略はどうなる
第6章 これから本当の危機が来る
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