読書メモ
・「地獄の日本兵 ―ニューギニア戦線の真相」
(飯田 進 :著、新潮新書 \680) : 2009.08.16
内容と感想:
毎年、終戦記念日が近づくと、戦争について考えさせられる。本書もこの夏、タイミングよく私の目に飛び込んできた一冊である。
著者は軍人としてではなく海軍の民政府調査員として採用され、ニューギニアの地に配属された。
(民政府とは占領した地域を治める行政機構。著者は天然資源の調査を行なった)
かろうじて終戦を迎えたがBC級戦犯として逮捕された経歴を持つ。
本書は著者自身の戦地ニューギニア島での見聞と、国会図書館に埋もれていた膨大な手記、職業軍人たちが執筆した戦史を基に、
「戦火の流れと戦場の光景を、再現しよう」と試みた書である。
そこには「飢えと疲労と病に冒され、むなしく密林に行き倒れた兵士たち」の地獄絵図が生々しく描かれている。
ニューギニア島に投入された20万人の兵士のうち、生きて本土に戻れたのは一割に満たなかったそうである。
第4章に「極限状態に曝された人間は、人類が何千年もかけて作り上げてきた道徳や倫理を、一挙にひっくり返します」とある。
まさに地獄。人間性を失った兵士たちは原始の姿、動物と同然と化すまで追い込まれたのだ。
戦争がなければ、きっとそんな鬼畜となることもなかった人々がである。
戦犯として刑務所に収監されていた著者も昭和24年暮れに日本に送還された。
インドネシアが独立することになり、宗主国だったオランダは主権を喪失し、戦犯たちの処遇に困って、GHQに著者らの身柄を委ねたのだという。
しかし帰国してもスガモ・プリズンに収監され、昭和31年にようやく仮釈放されたそうだ。
「六十年前のことをすっかり忘れるような集団健忘症は、また違った形で、より大きな過ちを繰り返させるのではないかと危惧」している
著者は、読者に「あの戦争は酷かった」という感想だけで終わらせたくない、という思いを本書に込めている。
かの「大戦の真相と、それを覆い隠してきた歴史的経緯を、しかと検証」することが国民的課題と考えている。
同じ過ちを繰り返さないためにも、我々戦争を知らない世代も、歴史を学ぶことが必要だ。なんでもお上のせいにし、
自分には無関係というのではなく、日本国民として、かつてのような状況下で自分ならどうすべきか、よく考えることが必要だろう。
政治家や官僚、それらと癒着する財界などに対して厳しい眼を持たなければいけない。
○印象的な言葉
・太平洋戦争中の戦死者で最も多いのは戦地に置き去りにされ飢え死にするしかなかった兵士たち。無念。
・無意味な死に追いやった
・口べらしの総攻撃
・密林で先住民と生きた者。先住民は天真爛漫。彼らと一緒に生活し、一万人の兵士が戦後まで生き永らえた
・日本の近代は欧米の帝国主義的脅威に対する恐怖と反発の歴史
・人食い人種として恐れられたマネキヨン族
・マラリア、アメーバ赤痢
・ガダルカナル島で生き延びた兵士たちは、惨状を国民に知れ渡ることを恐れた軍部によって帰国を許されず、他の戦線に投入された
・装備は不十分、食料もわずか、満足な地図もない、補給も途絶えた。日本アルプスよりも高く聳えるオーエンスタンレー山脈。
山蛭、ブヨ、アノフェレス蚊、シラミ。
・糧秣の不足で、戦友をだまして盗む者、殺人までして食料を手に入れようとする者、鬼畜の振る舞い。自殺者も出る。先住民の襲撃に合う者。
・野草、鳥、野豚、鼠、ヤドカリ、蛇、蛙、トカゲ、バッタ、蛭、かたつむり、ムカデ、毛虫、蝶々、蟻、蜘蛛、ミミズまで食べた
・中国戦線では正規兵とゲリラ、良民の区別もつかなかった。女子供と油断すると全滅の危機に直面した
・終戦直後に現地の収容所に入れられた戦犯容疑者たち。戦争中は日本軍の捕虜だったオランダ軍の兵士が彼らを夜な夜なリンチ。
・兵士たちは無謀で拙劣きわまりない戦略、戦術を強いた大本営参謀を恨みに怨んで死んだ
○疑問
・大戦前は欧米列強はどのようにしてアジアの植民地を分け合ったのか。取引や戦闘もあった?
-目次-
第1章 大調査隊をニューギニアへ
第2章 餓死の序幕
第3章 命を吸いとる山を越えて
第4章 底なしの大湿地帯を行く
第5章 幻と消えた「あ号作戦」
第6章 ビアク島の玉砕戦
第7章 私の犯した「戦争犯罪」
第8章 敗戦と収監、そして日本へ
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