読書メモ

・「ゴーマニズム宣言NEO 1
(小林よしのり :著、小学館 \1,200) : 2009.12.28

内容と感想:
 
2008年の秋ごろまでに「SAPIO」や「わしズム」誌に掲載された漫画や、「正論」に書いた論文などを収録。 主に沖縄の集団自決、靖国参拝、チベットやウィグルにおける中国政府の動きなどをテーマにしている。 著者は何か過激な右翼のように捉えられているらしいが、それは大きな誤りである。 まさにこれぞ「保守」といった思想の持ち主である。本書では真剣にこの国を憂い、問題提起し、中国の脅威などを訴えている。
 安倍総理の辞任に対しては、その挫折を「恐ろしい退行現象とニヒリズムを生む恐れがある」と書いているが、 実際に安倍さんの後に続く惨状は誰もが承知の通りである。
 また、日本人は「全てを情報でしか捉えず、たちまち消費してしまう」、「飛びつき方と離れ方の早いこと」は「始末に負えない」と嘆く。 「じっくり考えて熟成させる暇がなくなってる。上っ面の情報仕入れて、それで分かった気になって、すぐ終わり」とも。 情報過多で、情報の海で溺れている、さばくのでやっと、というのが本当のところだろう。 そういう時代だからこそ、著者のようにじっくり立ち止まって考えて、我々に大切なことを伝える役割が重要になる。
 沖縄に関する記述も多いのだが、「マスコミが隠蔽し、すくい上げぬ沖縄のサイレント・マジョリティーの声」、 それを汲み上げるのは自分と著者は自負している。自ら現地取材もして、真実に迫っている。 「沖縄の極左マスコミと一般市民の間には実は大きな乖離がある」と彼は感じている。 大江健三郎氏の「沖縄ノート」への批判もある。
 靖国神社問題で、A級戦犯の分祀や靖国の無宗教化といった案が出ていた件に関して、 「間違った知識を前提に政治が行なわれるのは、国のためにならない」と苦言を呈している。 漫画と馬鹿にせず読むべし(かなり硬めの漫画だが)。著者はかなり勉強している。

○印象的な言葉
・消費だけで人情や愛情は支えられない
・人格と知恵とプロフェッショナルを求める
・情報より知恵(解読、真贋の見極め)、長く楽しめる作品
・飛びついて、好奇心を充たして、飽きる
・若者は消費しなくなりサブカルチャーも衰退に向かう
・情報を追いかける虚しさ
・知性が必要、知的に楽しむ
・責任はとるべきものではなく、果たすべきもの。その手段として権限が与えられる(潮匡人)
・大臣の失言を非難しても辞職を求めるべきではない。大臣は反省するのはいいが責任を放棄すべきではない。 失言しない政治家より責任を果たす政治家。
・「9.11」はグローバリズムへの反抗。世界が単色の普遍化に向かう。違いを認めなければならない、普遍化してはならない。
・沖縄戦での集団自決を軍の強制だと、マスコミはデマを流し、強引に世論を操作し、情緒で歴史を修正しようとしている。 そんなことでは人間がまた起こすかもしれぬ悲劇を防ぐことにならない
・経済不安が一番の重大事で、国のことなど考える人間がいない
・沖縄への本土の無関心
・中華思想。中国は中華帝国主義に向かっている
・魂魄:魂は精神を支える気(陽に属す)、魄は肉体を支える気(陰に属す)
・沖縄本島出身者以外の沖縄人は自分のことを「ウチナーンチュ」とは言わない。
・中国はバブル崩壊時に国内の不満を外に向けて、台湾侵攻する危険性がある
・石垣島など南端の島では政府が地方切捨ての政策を取れば、経済で中国や台湾と結び付く危険がある
・台湾の国民党は中国共産党と親密になり、反共という国家の背骨も失った。将来、独立を諦め、自治でいいと言い出すかも知れない
・天安門事件後、世界から孤立し経済制裁を受けていた中国に対し、1992年の天皇訪中の効果で制裁は緩和され、国際社会に復帰できた
・かつて活気に溢れた日本があった
・右翼ごっこから左翼ごっこへ。右往左往している
・自我が肥大した奴はおのれの過ちや愚かさを認める勇気もない。自分を過大評価
・中華民族とは100年ほど前に人工的に作られた概念。主権・領土の統一を目的に政治的に定義された民族。実際は漢民族への同化を強制する、民族浄化イデオロギー。
・チベット仏教の理想主義が中国共産党の暴力の現実主義に敗北した原因
・保坂正康は戦争についてひたすら日本内部の犯人探しに終始している。日本内部だけに目を向ける蛸壺史観。
・靖国神社は慰霊しているのではなく、「英霊を顕彰している」。英霊は戦争の犠牲者ではなく、神である。慰霊は別の宗教でやればいい。

<感想>
・チベットを描いた映画「クンドゥン」

-目次-
情報消費の時代の『ゴー宣ネオ』とは?
責任を果たす政治家を国民は求めよ
「自民党なら保守」でもないだろ
萎縮したナショナリズムに活を入れる
集団自決の真相を教えよう
沖縄のことなんかどうでもいい保守シンポ
中国人には「統一見解」しかない
映画『靖国YASUKUNI』から見る中国人の宗教観
『沖縄ノート』は究極の差別ブンガクである
立ちションなき日本〔ほか〕