読書メモ
・「無趣味のすすめ」
(村上龍 :著、幻冬舎 \1,200) : 2009.07.27
内容と感想:
雑誌・月刊「ゲーテ」に掲載されたエッセイをまとめ、書き下ろしを4篇追加した本。
なんともシニカルなタイトルである。
本書のタイトルにもなっている巻頭のエッセイでは「趣味は老人のもの」と言い切る。
「好きで好きでたまらない何かに没頭する子どもや若者は、いずれ自然にプロを目指すだろう」というように、
そういうレベルのものは趣味ではないと考えているようだ。著者本人も「趣味は持っていない」と言っている。
「息抜き」としてやっていることはあるが「とても趣味とは言えない」と謙遜する。
そこで挙げられているものには私が趣味だと思っているものも含まれていて複雑な心境だが、彼の趣味の世界の定義のレベルが高すぎるのだろう。
確かに彼がいうように「趣味の世界には、自分を脅かすようなものがない代わりに、人生を揺るがすような出会いも発見もない」というのは
分からないでもないが、そうしたものがないとは必ずしも言い切れないのではないか。
小説家としての彼にとっては執筆は趣味ではなく仕事である。
経営者などを招いて話を聞くテレビ番組などの司会者も務めるようにビジネスに深い興味を持ち、
働く人に対しても様々なメッセージを送り続けている著者。
本書でも関心の中心はビジネスや働き方、仕事と人生、世界と日本の経済などである。
別のエッセイでは心躍るオフの時間など「無能なビジネスマンをターゲット」としたコマーシャリズムの嘘だと、身も蓋もないことを言う。
著者は小説家だが普通のビジネスマン以上に自分に厳しい仕事人間のようだ。
○印象的な言葉
・真の達成感や充実感は多大なコストとリスクと危機感を伴った作業の中にあり、常に失意と絶望と隣り合わせ
⇒趣味であってもそれが存在するなら趣味ではないことになる
・ヴェンチャーは少数派。既成の概念や価値に本能的に背を向ける資質が必要
・本当に好きなこと、モノ、人に関しては、他人に説明できないもの
・最高傑作が存在するには作品群が前提として存在しなければならない。天才は多作。科学者なら体系的・重層的。
・相手に会ったとき、相手に関して自分が持っている情報がオーラとなって現れる。物語性を伴った情報。伝説。
・目標を持つとき、脳は活性化する。個人的な目標を持つことが人生の大前提だというコンセンサスのない社会。
目標達成のために努力を続けている人に目標について語る時間的余裕はない。目標を持つのは憂鬱なこと
・リラックスでき、かつ集中して仕事が出来る人はオンとオフの区別がない
・ファッションで重要なのは(会う)相手へのリスペクトを表わしてるかどうか
・商談を兼ねた食事では商談がまとまりやすい。食事により脳内に快楽物質が分泌される。人間性も露呈される
・リーダーは何をすればいいのか分かっている人
・交渉で重要なのは相手の立場に立って考えること。相手に関する情報を集める
・他人から有用だと思われる人材
・モチベーションは希望につながっていなければならない。より良い未来が開けるという確信
・グローバリズムは国家の政治的枠組みを弱体化する。国家への帰属意識が希薄になり、国民は一体感を失う。
人々は不安を抱えるようになり、社会的信頼が危機に瀕する。
・国家ではなく地方に帰属意識を持つほうが健康的。個人としてグローバリズムに適応するのか、地方の自立のために努力するのか。
・その仕事が本当にやるべき価値があるのか、上司は部下とその価値を共有することが重要
・需要を生み出すのはお客様、そのお手伝いをしただけ(小倉昌男)
・決断においては、何を犠牲にするか、何を捨てるかを問われる
・現状の困難さを分かっているほど責任と決定権を与えられたときは憂鬱になる
・不況時こそ(組織の)外部を意識する。外の新鮮な空気を吸う
・生涯現役
・仕事は生活の一部、かつ生活全体を経済的に支え、充足感によってその人の精神を支える
・小説の執筆はプログラミングや科学的な実験、ビルの設計などに近い
・挑戦する価値のある機会に遭遇できない。出会うことに飢える
-目次-
「無趣味すすめ」〜「盆栽を始めるとき」
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