読書メモ

・「あなたの隣の<モンスター>
(齋藤 孝 :著、生活人新書 \660) : 2009.09.19

内容と感想:
 
最近、「モンスターペアレント」という言葉が使われるようになった。 教師が生徒の親からの理不尽な要求に苦慮していると聞く。 親は自分の子供のことしか考えない、親自身に社会性が乏しく、自己中心的な傾向があるという。 また、病院には「モンスターペイシェント」という過剰に権利を主張する患者がいるらしい。 それによって追い込まれている教師や医師も多いという。 このような状況から著者は日本が「モンスターを生み出しやすい空気に包まれている」という問題意識をもち、本書を書いている。
 「あとがき」にも書かれているように、本書のタイトルは他人事のようになっているが、読者に対して 「あなたの内なるモンスター」に気づいて欲しいとの願いが込められている。 個人としては誰もが危険性を秘めていることを自覚し、爆発しないように子供の頃から訓練していく必要があるし、 社会全体としてはそうした世の中になっていることへの対策を施していく必要がある。 自覚するだけでも抑止力になり得る(国家間の戦争にも通じる)。
 もともと日本人は大人しく、従順で、自己抑制が効き、日本は「暴動が起きにくい社会」だったが、 こらからは「誰でもモンスターになり得るという前提」で対処していくことが大切だ。
 5章にもあるように「公的な権利を主張する回路を失った」ため、「仲間と連帯して取り組むのでなく、個のエゴとして」個々人がキレて、爆発してしまっている。 その回路を構成する人々を結びつける絆や関係が希薄になった結果だろう。 いざとなったら助けてもらえるという信頼感を失った、悲しい社会になっている。これは「モンスター化」のみでなく、 いっこうに減らない自殺者数や衝動的な通り魔事件などの原因の一つでもあるだろう。
 「キレる」根本にあるのはストレスもあるが、ストレス耐性や感情のコントロール方法を身につけないで大人になったことにも原因がある。 全てを戦後の日本の教育制度のせいにするのは簡単だ。そういう駄目な制度を放置してきた我々国民も共犯だ。
 6章ではモンスター化しないための、ストレス耐性をつけるためのトレーニングや、 社会全体としては契約書のようなもので理不尽なモンスターの要求を黙らせる仕組みなどを提言している。 また学校や病院には「お客様相談窓口」などのようなものを設けて、その道の専門家に任せることで 教師や医師が本来の仕事に集中できる環境にすることができるだろう、とも言っている。 こうした現状を踏まえた上で、民主党を中心とする新政権は教育・医療にも重点的に改革に取り組んでもらいたい。

○印象的な言葉
・敵対の社会 ⇒対話社会
・幼児化する人々
・時間を奪われることへの怒り。テンポの速い社会。時間活用術的な本も多い
・存在承認欲求。自己主張することで力を誇示し、ささやかな満足を得る
・過剰な権利の主張、お客様意識。サービス依存症。次々と客の要求を受け入れ、付加価値を提供していくうちに客も増長。
・濃い関係。そこから距離を置き続けてきた人は人間に対して信頼感を持てない
・顧客対応の究極のプロはホテルマン
・いじめ:誰かを共同で排除することで、自分たちのつながりを確認
・前道徳段階(テイクのみ)⇒道徳段階(ギブ&テイク)⇒後道徳段階(見返りを期待しないギブ)
・反省的思考:自分を第三者敵な立場で観察、主張が特殊か普遍かを判断できる
・チェック機関としての「世間」の喪失
・社会人として働く以上、やる気を含めてコンディションを整えるのは個々人の問題
・人は権利・利益を追求すると、暴走しはじめる
・ゴネ得社会、負の学習
・親が規範として振舞えない
・医療関係者が安心して医療に従事できない社会。現場から離れていく。⇒従事者個人として最適の判断でも社会全体としては損失(合成の誤謬)。 個人の問題ではなく社会全体の問題
・素性が周囲に分からない場所にいるとキレやすくなる。匿名性。「恥」の意識の欠如
・他人を注意するという過剰な正義感
・マナー:他人への気遣い
・クレーマー:クレームを受ける側は言い返すのが難しい。評判を気にするから。そこにクレーマーは付け込む
・人に期待しすぎるから落胆し、不安になる。最初から求めなければいい
・当たり前のように感じていることも、大変な努力の上に成り立っていることを想像する
「恥」の文化:感情のコントロールをできないのは恥ずかしい。我慢しなければいけない範疇を知る。人前で感情を爆発させない訓練。
・禅の文化:平穏で揺るがない心。一喜一憂しない。何ものにも煩わされない心。胆力を養う
・甘えの構造:「まあ、いいか」とその場をやりすごす。相手を懐柔。ストレスも厳しい課題も身内で分かち合い、慰め合う
・強迫観念に近い「豊かさ」の追求
・人間的本質は社会的諸関係の総体(廣松渉)。関係主義的な人間観
・互いに足を引っ張り合うような空気、沈むなら皆で沈もうという空気。向上心のなさ。
・写経:身体を使って学ぶ
・読書は人の話を聞くのと同義
・「そんなことをしてもお互いに得はないですよ」
・教師や医師が本来の仕事に集中できる環境にするのが社会にとってプラス

-目次-
プロローグ 「モンスター化」する日本社会
1章 あなたの隣に潜む「モンスター」
2章 キレる大人たちはどこから来たのか
3章 日本人の美徳はどこへ消えたのか
4章 社会の変容が人を追い込んでいく
5章 「KY」の圧力が生んだ「モンスター」
6章 「日本人気質」再興への道