読書メモ

・「「見えざる手」が経済を動かす
(池上 彰 :著、ちくまプリマー新書 \720) : 2009.02.22

内容と感想:
 
タイトルの「見えざる手」とは第1章にも書かれているようにアダム・スミスが「国富論」で使った言葉(たった一ヶ所にしか出てこないらしい)。 個々人は「自分の利益が最大になるように働いているはず」で、「それが結果として社会全体のためになっている」ということを表現する言葉である。 個人の利己的な行動が「結果的に、他人の利益にもなる」というのだ。 「おわりに」では経済学はその「見えざる手」を見えるようにする学問だと述べている。
 本書は経済学の入門書である。著者は子供にニュースを分かりやすく伝えることに長けた方だが、 経済についても本領を発揮している。非常に読みやすく分かりやすい本だ。 そもそも「お金」とは何ぞや、とか資本主義や株式会社、銀行の役割など、知っているようでも うまく説明できないようなこともきちんと書かれている。

○印象的な言葉
・学校選択制:教育現場に競争原理を導入。教師たちに緊張感をもたらし、学校をよくしようと努力することを期待。 先生の能力も上がり、生徒にもいい効果をもたらす。
・教育バウチャー制度:各学校が教育引換券を獲得した数に応じて、学校運営費用を配分する。現在は学校の規模に合わせて予算を決めている。
・社会のみんなにとって一番いい経済の仕組みを考えるのが「経済学」。資源の最適配分を考える学問。
・お金は交換の仲立ちをするもの
・両替商が発行する預り証が紙幣の始まり。両替商が銀行に発展し紙幣を発行するようになった。
・日銀は初めは保有する金(きん)の分しか紙幣を発行できなかったが、経済の発展に伴い、紙幣が不足したため、日本政府は方針を変え、金本位制を止めた。
・銀行による信用創造:預金者から預かったお金を貸し出し、融資を受けた会社Aが資金を使って、別の会社Bの商品を買い、B社はその代金を銀行へ預金すると、 見かけ上、銀行の預金金額が増える。
・金利は「景気の温度計」
・労働者たちの運動が社会主義革命に発展しないよう、労働者の不満を解消するために、資本主義の国でも「社会主義的」な政策を取るようになった。 働く権利を守るための法律を整備し、労働条件も改善された。
・大店法で保護された中小の商店街は自力で生き抜こうという健全な競争力を失い、次第に停滞した結果、「シャッター通り」が増えた。
・かつて労組の力が強かった英国では「社会主義」的な政策が行き過ぎて、経済が停滞し、「英国病」とまで呼ばれた。
・先進国での非正規労働者増加は、人件費の安い国と競争するために製造原価を下げるために正社員の代わりに雇うようになったため
・株式会社は個人では実現できないような大きな事業を推進するために生まれた。事業に必要な多額の資金を出資者から募り、出資者は出資した分だけリスクを負えばよい。
・株式上場を英語では「Go public」(公のものになる)。上場することで会社は社会のものになる。勝手なことはできなくなる。
・自社株の株価を上げることは買収防衛策にもなる
・年金制度、医療保険、介護保険などが充実することで社会は安定する
・税金の逆累進性:消費税は所得の低い人ほど所得に対する税金の割合が高くなる

★ネタ
・法律で資産の使用期限を一生(一代限り)と決めてはどうか?相続を認めず、生きている間に全額使わせれば景気のためにもよい。
・労組を基盤とする「連合」などの組織や社民党、日本共産党などは革命が起きない程度に、そこそこに労働者の不満を晴らすような働きしかしない? (させてもらえない?)不文律がある?→国が十分に社会主義的になったことを意味する?

-目次-
第1章 高級ホテルのコーヒーはどうして高い?
第2章 ただの「紙」がなぜお金なの?
第3章 「紙」が「神」になった?
第4章 人間が主人になろうとしたが ―「社会主義」の失敗
第5章 資本主義も「社会主義」を取り入れた
第6章 資本主義が勝った? ―「新自由主義」
第7章 会社は誰のもの?
第8章 「あるべき社会」とは? ―格差社会の克服