読書メモ
・「メルトダウン 〜21世紀型「金融恐慌」の深層」
(榊原英資 :著、朝日新聞出版 \1,300) : 2009.03.02
内容と感想:
今回の金融危機を著者は原子炉の炉心が融解する様に喩えて「ウォール街のメルトダウン(炉心溶融)」と呼んでいる。
その金融危機を分析した本である。
序章・第一章では「アメリカ金融帝国」の興亡、第二章では市場原理主義、第四章では世界同時不況を分析している。
最後の第五章では日本が「金融危機の結果生じた世界同時不況」にどう対応すべきか示そうとしている。
著書「政権交代」などでの提言とほぼ同じである(穿った見方をすれば著者の政策提言をうまく金融危機と絡めた本とも言える)。
地方分権とセットで地方経済の活性化をはかり、内需を拡大する。
一次産業をてこ入れし、食糧自給率の向上を図る。質の高い農産物は輸出も念頭におくというもの。
「はじめに」でも書かれているように、今回の世界不況を大きな好機、転換点と捉え、真の改革が行なえるかが日本人に問われていると思う。
アメリカ一極集中時代が終焉し、BRICsなど新興国の存在感が高まり、多極化時代に入る。
グローバル化が進む中で日本が一国だけでできることは限られている。
日本の良いところを主張しながら、世界に貢献し、世界と協調しながらグローバル市場の恩恵を受けていく。
そういう新たな時代に適応できる社会を構築し直して行く時期に来ているのだ。
○印象的な言葉
・資産市場の半減は2〜3年続く。金融恐慌、世界不況も。
・CDSは金融バブルの最大の地雷。残高は60兆ドルに迫る。2007年の世界中のGDPの合計に匹敵。
AIG、ゴールドマン・サックス、モルガン・スタンレー等が大量に発行。AIGはサブプライム関連の保証金の支払いで損失を拡大。
CDSは連鎖的に爆発しかねない性格をもつ。相対取引で、情報開示が不十分。
・スーパー資本主義
・アメリカの資産は完全に半減する
・1997年の東アジア通貨・金融危機はその後、ロシア、ブラジル、アメリカのLTCMへと波及。
危機の直撃を受けたタイや韓国ではアメリカ型の金融改革が行なわれ、アメリカの投資銀行等が東アジアで力を伸ばしていく。
メキシコと韓国はOECDに加盟し、資本の自由化を実施した直後に経済危機が発生。
・1995年から2007年までにアメリカの金融資産は100兆ドル増大。貿易収支の赤字を上回る資本を世界中からウォール街に集めた。
証券化と金融派生商品の急拡大により加速度的に増大。
・ビジネスモデルとしての投資銀行は消滅。レバレッジングによる資産の拡大と果敢なリスク・テイキングが不可能となった
・ヘッジファンドは今後、全資産のほぼ半分かそれ以上を売却する。世界的に不動産や株の価格が下がる。縮小のプロセスはまだ初期段階
・危機は好機を提供する
・ゴールドマン・サックスは巨大なヘッジファンド。世界でトップクラスの大投資家
・金融が実業を動かすことが一般化した
・ウォール街は個人に貯蓄から投資へ誘導させて大儲けする様々な方法を生み出した
・ファンド資本主義の終焉
・すべての判断は確率論的。世の中に確実なものなどない。
・グローバル資本主義は本源的に不安定で、公的な制御装置を整備しないと破局は避けれらない(ソロス)
・アメリカでは実質賃金やその他給付が減少していたが、住宅価格上昇の資産効果が消費を支えていた。消費中毒。過剰の文化。
・新古典派経済学に代表される経済理論は科学というよりイデオロギーになっている
・アメリカの金融支援策は既に膨大になり、どこまで膨らむのか予測できない。米国債の巨額発行はアメリカの信用を揺るがす。
・アメリカ人はアクション・オリエンテッド(行動志向)。状況の変化に素早く対応
・米自動車産業は300万人の雇用
・IMF、OECDは2009年7〜9月期前後からの景気回復を予測。極めて楽観的な見通し。不確実性が高いかなり先の見通しは「回復」と仮置きするのが慣行。
・OECD加盟国のリスクプレミアムは2008年度下半期に急上昇。将来、倒産件数が上昇することを想定。
・中国やインドなど新興国の資産市場は外国からの資金がほぼ流出しきったところで底を打つ
・アジア諸国の世界に対する相対的力が増している
・日本の道州制の実現は困難。政治的混乱を引き起こす
・市場は社会・政治制度の枠内でのみ機能する(ポランニー)。市場の存続に不可欠な社会・政治制度の3つの役割。
-目次-
序章 グリーンスパン時代の終焉 ―一〇〇年に一度の金融危機
第1章 金融で復活したアメリカ ―強いドルはアメリカの国益
第2章 市場原理主義の自滅 ―金融工学とスーパー資本主義
第3章 金融崩壊の現場 ―二〇〇八年一一月末、ニューヨーク
第4章 進行する世界同時不況
第5章 日本はどうすべきか!
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