読書メモ

・「間違いだらけの経済政策
(榊原 英資 :著、日経プレミアシリーズ \850) : 2009.02.14

内容と感想:
 
今回の不況は価格革命を背景にインフレとデフレが共存する不況であり、 通常のマクロ政策では対応できないと主張する。 デフレが構造的なものであれば伝統的な金融政策では対応できないのだと。逆にきめ細かいミクロの政策が必要だという。 民間企業は「失われた十年」(本書では「再設計の十年」と言っている)の間に世界経済の構造変化に対応させるべく 大きく構造を変えてきたが、日本経済全体の運営においては旧態依然なのだ。
 本書は国レベルの経済政策をどう変えていくべきかを考えている。 構造変化の一つはグローバリゼーション、もう一つは従来の一国一財一価格の仮定と財の相対価格が通用しなくなったこと。 マクロ政策が有効ではないというのは、つまり政府の支出(減税や歳出増など)や貨幣数量により国内経済をコントロールすることが難しくなっていること。
 著者はエネルギー分野、農業分野をこれからの成長産業と捉え、「衰退産業から成長産業への切り替え」のためにこれらの分野を対象とした ミクロの産業政策を実行すべきと唱えている。

○印象的な言葉
・米住宅価格の下落は2010年中ごろまで続く。住宅ローンのシェアの大きい銀行の不良債権は増加し続ける
・日本経済の大きな構造変化はここ5〜10年の間に起こっていた。これは輸出入のシェアだけでなく物価・賃金・雇用構造などに大きな変化を与えた。
・中国と日本を中心とする東アジア経済の統合が進展。統合を推進した主要エンジンは日本企業。
・東アジアの生産ネットワーク、サプライチェーン・ネットワークはもはや常識。マクロ分析にはこの生産分業がうまく取り入れられていない。
・現在のデフレは景気拡大局面で企業のコスト削減によって起きた「良いデフレ」
・ゼロ金利政策の継続による過剰流動性と円安が海外への資金流出を招き、大衆投資家は円高リスクをあまり意識することなく海外の高金利商品を大量に購入した。
・非正規雇用の憎悪かは女性に顕著。名目賃金は95年からの10年で10%低下。労働分配率も低下。
・地域の経済統合が進み貿易と投資がオープンになれば物価や賃金がお互いに接近する
・世界人口のたかだか1割が中産階級だった19〜20世紀。21世紀は半数近くが中産階級化する
・資源省の創設を
・一国の政策では経済をコントロールできない
・英米、ドイツの中産階級は日本に比べ意外に質素で堅実。欧米は日本に比べると階級社会。
・大衆消費社会という点で日本は世界の先頭を走る。そのため既存の理論では説明できない現象に出くわす。
・アメリカが資本増強を海外からの資金で実行できるのは、アメリカ経済のダイナミズムに対する信頼がまだ崩れていないから。
・アメリカ原理主義的傾向が強いのは学者やジャーナリズム
・民主主義衰退の原因の一つは企業献金やロビイングを通じて企業の政治・行政に対する影響力が強くなりすきたこと
・マクロモデル分析は歴史が繰り返すことを前提に組み立てられている。
・正確には我々は過去に何が起こったかを正確に知ることもできない。過去に対する判断もある程度主観的にならざるをえない。 歴史の解釈は常に変わる。
・カオス理論、複雑系の理論は当面の経済分析にはあまり有効ではない。ゲームの理論や比較制度分析も当面の経済政策の決定に貢献できるまでには至っていない。
・経済学に政治学や社会学、宗教や哲学まで入れ込んで分析しなければならない
・中央銀行は市場のオーバーシュートの幅を少なくするよう努力すべきだが、コントロールはできない。別次元の話
・安価でそこそこの性能の中国製品と日本はどう対抗していくのか
・中国の指導者は技術系出身者が多い。問題の深刻さを技術的に理解できる能力がある
・日本の食料残滓のうち飼料として再利用されているのは17%にすぎない
・アジアの農業開発、環境保全・創造・効率的食糧流通などに日本の果たす役割は大きい
・農水省の予算のかなりの部分が公共事業と箱物建設というのは時代遅れ
・資産の証券化は金融機関自身による信用創造。過剰な流動性が作り出され、リスクの大きなものにも信用供与がなされるようになった
・香港は中国のゲートウエーとしての存在感、シンガポールも華僑との連携を武器に大中華圏の一つのハブとして役割を強化
・外資によるM&Aに対する過剰防衛、それを支持する世論。外資系ファンドを必要以上に敵視している。

-目次-
序章 世界同時不況と経済政策
第1章 遅れた日本シンドローム
第2章 時代遅れの経済理論
第3章 構造デフレと構造インフレ
第4章 円安バブルは崩壊へ
第5章 展望なき資源政策 ―マクロからミクロへ
第6章 金融化の流れは止められない
第7章 経済政策の大転換を