読書メモ
・「恐慌第2波 ―世界同時不況を日本が生き残る道」
(門倉 貴史 :著、角川SSC新書 \760) : 2009.03.14
内容と感想:
今回の金融危機で今後の世界経済が「世界大恐慌」に匹敵するほどの惨状には見舞われないだろうと
「はじめに」で著者は言っている。
それは新興国を含め、世界各国が連携し、金融安定化策や景気刺激策を打ち出しているからだ。
私も世界の協調的な動きには比較的安心しているし、期待もしている。
世界恐慌⇒世界で紛争が頻発、という自体に陥ることが最悪のシナリオだからだ。
危機は既に実体経済の悪化へと波及しているが、これを危機の第2段階と捉え、
タイトルの「第2波」につながっている。
本当に怖いのは第2波のほうなのだ。本書では金融危機後の世界経済の姿を展望している。
先進国経済が停滞する中、BRICsが世界経済の下支え役として存在感を高めるだろうと著者は考えている。
第4章では日本の戦略について述べ、「外貨準備の運用を民間のプロに任せる政府系ファンド」を立ち上げ、
その収益を公的年金基金に戻すことを提言している。
それを進めながら「米ドル建て資産を圧縮」し、「ドル暴落に備える」のだという。
人口も減少し国内市場も縮小していく日本としては「海外に活路を見出す」しかないのは確か。
積極的なFTAやEPAで、「輸出関連の企業がビジネスを展開しやすい環境」の整備が迫られる。
米国一極集中時代が終わり、日本としては「貿易、投資関係の分散化を推進する必要がある」。
「おわりに」でもあるように「日本が多極化のひとつの極として生き残るかどうかは、今後の対外戦略次第」というのは
そのとおりであろう。
○印象的な言葉
・世界景気全体は今後1〜2年の間低迷を余儀なくされる
・PIGS:ポルトガル、イタリア、ギリシャ、スペイン。経済基盤が脆弱
・米国債という時限爆弾。日本は外貨準備のかなりを米国債で保有
・リーマン:サブプライム関連の損失が大きかった。負債総額は米史上最大
・AIG:CDSを大量に販売。破綻した場合のショックはリーマンの比ではない。
・複数のCDSが束ねられ、CDOとして売られることもある
・米企業の稼ぎ出す利益の4割が金融セクター。金融機関はNYに集中
・米ビッグスリー⇒デトロイトスリー
・オバマがやろうとしている政策は「ルービノミクス」(ルービンの経済政策)とは対立するもの
・中東欧諸国ではEU加盟後にEU諸国からの企業進出が活発に
・ユーロを導入していないEU新規加盟の小国では導入を急ぐ動き
・アイルランドも金融ビジネスの拡大に力を入れてきた
・英国のGDPに占める金融・不動産セクターの割合は1/3
・英国女王の総資産額は560億円
・ユーロ導入国はその信任を保つため財政赤字のGDP比を3%に抑制するよう義務付けられる
・英国では経済対策として付加価値税を引き下げる
・投資資金の引き揚げ⇒自国通貨の下落圧力⇒輸入物価の急騰、インフレ加速、対外債務の利払い負担の高まり
・タイ:東北部・北部の低所得者層と中央部・南部の中産階級との対立。プミポン国王の意志が絶対視される
・ベトナム:人口規模が大きく、若年層の割合が高い。インフラも整備されつつある。グローバル企業にとって魅力的な進出先。
直接投資による資金流入が続き、外貨準備も潤沢。
・中国:財政収支が大幅な黒字。政策金利水準が高い。巨額の外貨準備。
・インド:インフラ整備計画が目白押し。中産階級の裾野の広がり
・欧米外国人投資家はGCC(湾岸協力会議)諸国に巨額の投資をしてきた
・IMFの資金不足が懸念される
・米住宅価格が下げ止まるのは早くて09年半ば。負のスパイラルの反転には住宅価格の下落に歯止めがかかることが必要。
・日本の輸出の半分は米ドル建て
・TOPIX採用銘柄の輸出企業が全体の時価総額に占める割合は35%
・米国が膨らむ対外債務を減らす最終手段としてデノミを実施する恐れ。そうしなければ返済不能なところまできている。
・米国はNFTAで共通通貨の導入を検討中
-目次-
はじめに 押し寄せる世界同時不況の津波
第1章 オバマは米国経済を救済できるか?
第2章 危機に瀕する欧州経済
第3章 新興国の経済は大丈夫か?
第4章 日本経済を襲う第2波
おわりに 世界金融危機はいつ終息するのか?
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