読書メモ
・「資本主義は嫌いですか ―それでもマネーは世界を動かす」
(竹森 俊平 :著、日本経済新聞出版社 \1,800) : 2009.10.18
内容と感想:
丁度、リーマンショック直前に出た本。
サブプライム危機をテーマにした物語風の本。危機が発生した経済構造を理解できる。
序文にあるように著者は「物語の三部作」を意識して本書を構成した。
第U部では危機の起こる2年前には既に警告がされていたことを示している。
2005年夏にアメリカで開かれたシンポジウムで議論されていたにも関わらず危機は防げなかった。
しかし予想されていただけに危機後の主要中央銀行の行動は迅速であった。
第V部では「流動性」についての最新の経済理論の成果を総括している。それは革命的な意味をもつという。
第T部では東欧諸国の経済的な危険の高まりを既に指摘しているが、EUの危機拡大が懸念される。
結局、「資本主義が有効に機能するためには、市場に対する適切な規制が必要」ということになる。
今後も世界経済は「規制の強化」と「規制の緩和」の間を揺れ動くだろう、という。
「歴史とはこの繰り返しだ」と締めくくっているが、これは予定調和な感じ。
○印象的な言葉
・予想できない領域の存在を認識すること
・発生確率が予想できる危険がリスク、それが予想できない危険が不確実性。不確実性の領域に踏み込むことによってのみ利潤を得られる。
・企業家とは本来、自惚れの強い人間がなる職業(フランク・ナイト)
・夢を追って失敗した者のほうが世界には多い
・熾烈な競争、高利潤、計算のできる危険という同時に成立するのが不可能なことを成立させようとするのは無理
・日本の脱力感、無力感は改革目標の喪失から来た
・個人所得という一つの変数だけで住宅価格の動きを説明できる。また、住宅ローン金利、失業率、住宅着工件数などの変数も有意に働く。
・資本が貧しい国々から豊かな国々に流れるという「いびつな構造」
・「金余り傾向」自体が不況圧力となる。貯蓄が投資に回されない限り、需要に結び付かず、不況となる。
・金や銀との兌換が保証されない貨幣は「ただの紙切れ」。それは交換できるという「信用」がありさえすればよい。
貨幣経済の構造は「ねずみ講」。「つけ」を連鎖の最後の世代に回しているに過ぎない。
・世界各地でバブルが頻発する原因は、新興国において真正な投資の対象が不足すること
・アメリカが経常収支赤字を一挙に解消しなければならない必要に迫られたら、為替レートを一気にドル安にする
・所得を上回る支出こそが堕落の第一歩
・新興国が貯蓄を増やすのは、その高い経済成長が一時的なものか恒常的なものになるか判断がつかないため、消費には慎重な態度を示す
・世界経済の低成長が長期化すれば矛盾やゆがみの多くは解消する
・ゲーテ「ファウスト」:紙幣の創造に象徴される錬金術がテーマ
・想像力で「ただの紙切れ」を「金」だと思い込めば錬金術が成立
・ベータは平均株価に連動するような利益、アルファは特定の投資先を選別して集中投資することで得る利益。ファンドに求められるのはアルファ。
アルファを得るための確実な方法は「目立たないようにリスク」を取ること。
・プリンシパル・エージェント問題:ファンドマネージャは顧客の利益より自分の評判を重視した行動を取る
・サブプライム危機の第二波の主役はCDS
・CDSの債務契約においては自動車事故保険のような正確な統計的推測が不可能。損害額が許容能力を上回る危険がある。
債務不履行が発生する構造は経済状況によって大きく変化するから。連鎖倒産というシステミックな危機の原因を抱えていることになる。
・市場取引規模が大きいほど、市場参加者が一斉に同じ行動を取った場合に起こる衝撃が大きい。
・好況時には規制は好意的には受け止められない
・中央銀行の新たな役割。流動性危機の際に「最後の貸し手」として、流動性を供給し、金融システムの崩壊を防ぐ
・群集行動は金融システムへの永遠の脅威
・乏しい自己資本の下、短期で借りて長期の貸し出しに回したことが危機の原因
・流動性とは投資の機会を利用できるための現金準備
・サブプライム危機は住宅ローン不履行問題という一階の上に、流動性危機という二階が乗る形。危機の第一幕は二階部分が中心。次に一階部分の問題が表面化すれば、
二階の問題が再度深刻化する。
<感想>
・新興国では国内の諸制度が未整備のため将来不安から蓄財することもあるだろう。生活水準を引き上げようとして経済も成長する。
・年金基金など機関投資家に運用を託している一般人もバブルに加担している
-目次-
第1部 ゴーン・ウィズ・ア・バブル
錬金術の今昔物語
住宅バブル低金利犯人説を追う
バブルの積極的役割
グローバル規模で資金が動く
縮小する世界経済
世界経済を拡大する道
第2部 学会で起こった不思議な出来事
利益追求を強める銀行とファンド
金融新技術発展の功罪
流動性のジレンマと人間行動
第3部 流動性 ―この深遠なるもの
組み込まれた自動不安定拡大装置
経済学への教訓
サブプライム危機の拡大過程
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