読書メモ

・「100%人に好かれる 聞く力
(齋藤 孝 :著、大和書房 \1,200) : 2009.08.10

内容と感想:
 
このタイトルには「会った人に必ず好かれる」というのではなく、「必ず今より好感度が上がる」という意味が込められている。 好感度を上げたいがために「聞く力」をアップさせようというのは利己的で、目的としてはどうも不純な感じがする。
 コミュニケーション能力というと「話す力」のほうを重視しがちだが、聞き手がいて、相手がそれをちゃんと受け止める力をもっていれば、 より質の高いコミュニケーションが成立する。それらの力はどちらか一方が必要なのではなく、両方が必要である。 本書は文字通り「聞く力」をテーマに書かれているが、「聞く力」を身に付けることによって、質の高い人間関係、クリエイティブな人間関係が築けるとしている。
 「プロローグ」では私も意識していなかったことが書かれてハッとさせられた。 それは自分の「聞くときの雰囲気や態度、構えは、その人の癖になってしまい、相手に伝わってしま」い、相手は「本能的にその人に対する距離感を決め」てしまうということ。 果たして自分はどうだろうかと考えさせられた。 聞く構えも「聞く力」の一部であり、それも含めて高めていく必要がある。
 第1章では「聞く力」の重要性を説き、第2章では「聞く構え」、相手との間合いの作り方について述べている。 第3章はトレーニング。聞くために「読む、書く、見る」トレーニングを提案しているのが興味深い。 第4章ではカウンセラーなどのプロの「聞く」技術に触れている。
 銀座の高級クラブなどでは、聞き上手のママには客は喜んで高い聞き賃を払っていくという。 話を聞いているだけでお金を取れる商売はおいしいが、それを目指さないまでも、上司なら部下の話をちゃんと聞く力はしっかり身に付けておく必要があるだろう。 また聞く力が付くと、人間関係も構築しやすくなり、より生きやすくなるであろう。
 何かギスギスして生きにくい世の中になったが、それはコミュニケーション能力が低下して、理解し合えないからではないか? みなが聞く力を発揮すると世の中はもっと良くなるのではないだろうか。

○印象的な言葉
・自分の内なる声を聞く
・話の水位感覚
・聞くセンスではなく、サンス(意味)を持つ。意味を方向性として捉える
・フェルトセンス:もやもや感、ひっかかる感じ、いらいらする感じ
・フェルトシフト:フェルトセンスを言葉化し、ぴったり来る表現が見つかるまで繰り返す。それが分かった、という瞬間。
・ストローク:相手の存在を認める行為
・ピッチャーとキャッチャーの関係に見る聞く力 ⇒テニス、卓球
・対話とは相手に意見を出させ、それを吟味することで、相手の魂を裸にして調べること(ソクラテス)
・子供に徹底的に質問する。どこまでも追い詰める。すると考える力が伸びてくる
・自分の体に問いかけてみて、予兆や兆しを感じ取る
・自分の内面に常に問いかける姿勢、ふとした瞬間にひらめく。「天の声」を聞く
・積極的な聞き方:話を要約し、再生し、質問できる
・話にインスパイア(触発)される
・相手に同調する、共感する
・隙を作ると、相手は話しやすい
・自分の考えで相手を動かそうとしない。相手の自発的な動きを邪魔しない
・エンカウンター(出会い):心理学者カール・ロジャースのカウンセリング手法。グループで集中的に話し合う。 ファシリテーターという場を調整する役割の人がいる。話や思考が停滞しすぎないよう、最小限の働きかけを行なう。
・他人と比べて少しはみ出している部分に光を当てると、その人の居場所を作ってやることができる
・仏像の体のリラックスした感じ、臍下丹田ができていて軸のある感じ、穏やかで無駄な力が入らず、静かに微笑んでいる感じ。ものに動じない、執着のなさ。
・傾聴:一度、自分を離れる。聞くということは自分の側にスペースを空けること。そこに相手を受け入れる
・コンプレックスは劣等感ではない。心理的な複合体のこと。心理的なこだわり
・かつては現在のように個性的でありたいと欲することはなかった。それは贅沢な欲望であり、誰もが作品化できるような個性的な人生を歩めるわけではない。 「自分が個性的ではないのではないか」という不安、存在感の不安
・上手な小説家の小説は、言葉によって映像がリアルに湧き上がる
・相手の話を「なるほど」と受ける、話の末尾を繰り返し「・・・と思われるのですね」と返す
・「ほう」という応答。様々な意味を付与できる。受け言葉として「はひふへほ」のハ行が使える。音より呼吸が主になる。音がはっきり立たない。緩やかな感じ。
・相手の姿勢、言葉遣い、アクセント、語り方や呼吸のテンポ、などを真似ると共感性が高まる
・「20Q」という玩具(バンダイ)。心にイメージしたものを当てる機械。20の質問にYes/Noで答えるだけ。
・この世に生れ落ちると、まず「聞くこと」から始める。話す、読む、書くのはずっと後。
・経営者の仕事は聞くこと(松下幸之助)
・「聞く」とは体を開く、心を開くこと。聞くことができれば社会と自分、他人と自分との通路が開かれる

-目次-
プロローグ 「聞く力」が「生きる力」を上げる
第1章 「聞く力」とは何か
第2章 「聞く構え」をつくる
第3章 「聞く力」を鍛えるトレーニング
第4章 プロに学ぶ「聞く力」