読書メモ

・「ジャーナリズム崩壊
(上杉 隆 :著、幻冬舎新書 \740) : 2009.09.12

内容と感想:
 
フリーのジャーナリストが描く「日本のメディアの喜劇の物語集」。
 日本の「記者クラブ」の閉鎖性を批判し、 その存在が世界の笑いものにもされている事実を知らせてくれる。 それは日本の国益にもマイナスであることが分かる。
 クラブ所属の記者たちは「政府による発表に頼り切り」、未だに大本営発表を続けているのだ。 記者も一サラリーマンとして生きているのだから、 なかなか自分の立場を危うくするような記事は書けない、命がけの記事は書けないのだろう。 しかしそういう記者が書く記事は読者には価値が低い。 政治家など権力に擦り寄り、読者や視聴者の方を向いていない。 購読料を払っている読者に対する裏切り行為である。 その無責任さ、緊張感の欠如を著者は批判している。 だから「ジャーナリズム崩壊」というよりも、もともと日本にはジャーナリズムは存在しない、ということになる。
 記者クラブは海外特派員にも評判が悪く、著者も クラブ外のジャーナリストとしてクラブ制度の「廃止」でなく「開放」を求めている。 ジャーナリストの仕事は「読者や視聴者にどれだけ良質な情報を提示できるか」(第5章)に尽きるというのは 当たり前のようでいて、そうなっていないところに国民の不幸がある。

○印象的な言葉
・記者クラブに反対。権力をチェックする最低限のメディアの機能を放棄し、ジャーナリスト仲間の邪魔をする。 個人個人は優秀だが集団になると一変する
・最後に残った護送船団方式の業界がマスコミ、記者クラブ。沈没寸前。談合。ぶら下がり取材。金魚のフン。メモ合わせ  ⇒同じような記事を書くのなら多くの記者は不要、何紙も不要
・事実を知りながら報道しない
・担当政治家が出世すれば自分も出世
・国民でなく権力側に寄り添う
・エリート記者の奇妙な同質性、論争を避ける。同じような思考回路、偏った人種。批判精神の欠如。才能の無駄遣い。政治家や経営者と同じ目線。彼らからは御しやすい。
・過ちを認めない、誤報を隠す。新聞も過ちを犯す
・ワイヤーサービス:速報性を最優先業務とするメディア。通信社
・ジャーナリズム:更にもう一歩進んで解説や批評を加える。第四の権力。三権に対する監視役
・ニューヨークタイムズは地方紙。年間400件の訴訟抱える。それだけ厳しい報道をしている
・日本の新聞社は多くの記者を抱える。地方支局にも記者を配する。通信社的な仕事もこなさねばならない。分析や批評記事をかける記者は多くない
・米国の記者は個性を発揮して自由なスタイルで書く。締め切りがなく、納得できるまで取材する。分析・批評に集中。カテゴリー分けもされない。 自らの立場を明確にするため主観が入るのは当然。客観報道は不可能。スター記者も生む風土。
・客観報道は神の領域
・米国には夕刊紙はない
・日本には昔は政治家より実力のある記者がいた。メディアを利用して政局を作ることまでした。フィクサーまがいのこともやった
・権力との適切な距離。権力の誘惑に負けない。自制心。権力を恐れるあまりの無駄な距離の確保。腰の引けた公平中立論
・客観を装っている。読者を欺いている
・記事中に引用先を打たない悪しき習慣
・多様な価値観を受け入れる、責任は受任すべし、大局的に捉え、ユーモアのセンスを忘れない
・記事の鋭さ。他社と違う切り口、異なったものの見方
・報道協定という「しばり」「自主規制」
・自らの資産運用で生活を賄っている英国王室
・記者クラブの情報の「おこぼれ」。もちつもたれつの非記者クラブのジャーナリスト
・社員である前に、ひとりのジャーナリスト ⇒プロ精神
・マスコミ学科の学生をマスコミは採用したがらない ⇒ニーズとミスマッチ
・素朴(健全)な懐疑主義、健全な緊張関係、適度な諧謔精神
・取材相手への尊敬の念。記事を書くほうも本名で勝負
・批判は公人(税金で生活する者)、順公人(反論手段をもつ者)
・新潮社はタブーの少ない会社
・困難や苦労を伴う取材をし、書かれた記事には、どれも敬意を払うべき
・日本語という障壁に守られている日本のジャーナリズム。日本語の記事や著書は海外からは十分に検証されない
・特ダネを飛ばすと社内の嫉妬や足の引っ張り合いが待っている

○その他
・事実よりスクープ狙い、ウケ狙い
・記事の盗用や捏造などはITやインターネットですぐにばれる

-目次-
第1章 日本にジャーナリズムは存在するか?
第2章 お笑い記者クラブ
第3章 ジャーナリストの誇りと責任
第4章 記者クラブとは何か
第5章 健全なジャーナリズムとは