読書メモ
・「iPhoneをつくった会社 〜ケータイ業界を揺るがすアップル社の企業文化」
(大谷 和利 :著、アスキー新書 \724) : 2009.01.10
内容と感想:
「iPodをつくった男」の著者。今回もiPhoneをテーマにAppleウォッチャーぶりを発揮。
日本でも昨年(2008年7月)「iPhone 3G」が発売されて話題になった。
iPhoneの登場で携帯電話ビジネスのルールが根本から覆り、主要なプレーヤーが交代すると著者は予測する。
iPhoneは単なる携帯電話ではない。
第4章では「どこにいてもインターネットにアクセスして様々なコミュニケーションを行なえるモバイル機器」だと表現している。
似たような機能は既存のケータイやスマートフォンにもあると思うが、やはり大きな優位点はその操作性と、
「iTunesストア」や「モバイル・ミー」といったサービスとの連携にあるだろう。
本書ではアップル流の企業文化や仕事の在り方、成功の秘密をiPhoneと絡めながら紹介。
アップル社(スティーブ・ジョブズといってもいいかも)の発想や仕事の進め方は、差別化を志向する日本企業にはヒントになるだろう。
第1章ではそのジョブズを「木を見て森も見る」経営者、「展望を失わず、全体バランスも崩さない」と讃える。
更には彼は経営を「シンプルで美しく、見通しの良いもの」とすることを目指していると感じている。
こう一言で言ってしまえば簡単そうだが、誰もがジョブズと同じことが出来るわけではないだろう。
同じことをやっても成功するとは限らない。
やはりジョブズならではの感性というか、しつこいくらいの「こだわり」を私は感じる。
第5章の最後では「アップル社にとってはiPhoneですらゴールではなく、1つの通過点に過ぎない」といい、
今後も「これまで地球上に存在しなかったような製品を世の中に送り出してくるだろう」と予言する。
これからも同社がどんな製品を出してくるのか楽しみだが、他社も指を咥えて見ているだけでなく
ビジョンを持ち同社とは異なる発想で製品やサービスを提案していかねばならない。
○印象的な言葉
・顧客との関係を可能な限り密なものとしていく。ユーザと共に成長
・目まぐるしいほどのモデルチェンジで消費者の購買欲を煽るマーケティングは既に時代遅れ
・サービス・イノベーション:無形の価値。アクセス性の高さ、ストレスなく使える。わかりやすく直感的に使える
・迷わせない製品ラインナップ
・ハロー効果:後光・光輪。一つの大ヒット商品が別の商品のイメージも高める。
・数値による差別化から、トータル・ソリューションによる消費者の囲い込み。便利さと安心感。
・数値による差別化自体が目的化すると、同じ土俵での消耗戦に。
・自ら土俵を作ってルールを決める。土俵の形や境界、ルールをコンスタントに変化させ続けることでライバルを翻弄。
・「最良」は必ずしも多機能。万能を意味しない。世界初・業界初でなく「最良」を目指す。
・デザインや使い勝手、感性面での魅力をブラッシュアップ
・使いこなせない多機能よりも、使い倒せる厳選機能
・シンプルさという美意識。ミニマリズム的なアプローチ。無駄のないデザイン。考え抜かれた単純化。
・機種構成を単純化して新規開発リソースを集中
・全体の秩序を保つために細部にこだわる
・MacOSXの持つスケーラビリティ。どんなデジタル機器でもその延長線で開発できる
・iPodのほうがMacより利益率が高い
・アメリカは州ごとの自治意識が高い。
・カリフォルニアの自由な風土にこだわり
・米国は欧州に比べて文化的に希薄と感じており、欧州製品に憧れ
・アメリカ製品より地球製品
・無闇なデザイン変更を避ける。統一的な印象。デザイン的に古くならず使い続けられる安心感
・ユーザを啓蒙し、挑発する
・多少時間がかかっても最高と思える製品開発を重視
・iPodは外部調達したモバイルデバイス用OS「Pixo OS」をカスタマイズ
・Hot,Simple and Deep
・一見不思議なデザイン。自分でも使えそう、使っていて楽しい、巧みさに関心
・リスクをとらないことが最大のリスク
・変えるときには大胆に、その後の改良は繊細に
・やり過ぎ感がない
・デジタル・ライフスタイル・デバイス
・無理な背伸びをして初期モデルの普及率や評判を落とすより、より多くの人に使う気になってもらう。次のモデルへの期待感を高める。
・国内メーカーは標準的なコンポーネントを組み合わせて、多少のカスタマイズを施すだけという製品開発に慣れてしまった。
それでは販売網や営業力でシェアが決まってしまう。いかに安く作るかの勝負になる。技術者の腕のふるいようがない。
・リスクを背負って新しい動きを作っていく
・優秀な人材を自分の周辺に揃えることもリーダーの資質
・無闇な製品バリエーションの増加は販売ルートの多チャンネル化し、無意味な競争を招く。リソースの分散、ブランドイメージの希薄化を招く。
-目次-
はじめに
プロローグ 社会現象としてのiPhone
第1章 すべての道はiPhoneへと続く
第2章 常識を覆すハードウェア戦略
第3章 シェアの小ささを武器にしたOS戦略
第4章 可能性ではなくソリューションを与えるサービス戦略
第5章 三位一体から四位一体、五位一体のビジネスデザインへ
おわりに
|