読書メモ
・「なぜ、アメリカ経済は崩壊に向かうのか ―信用バブルという怪物」
(チャールズ・R. モリス :著、山岡 洋一 :訳、日本経済新聞出版社 \1,800) : 2009.10.11
内容と感想:
リーマン・ショックの直前、2008年7月に和訳である本書は出ている。サブプライム危機がテーマである。
著者によればサブプライム危機直前には世界の実体経済の規模に対して、金融市場での信用は10倍程度に膨れ上がっていたという。
また彼の試算によれば、危機に伴う損失(評価損とデフォルトの総額)は一兆ドルを下らないという。
本書では今回の金融危機で問題になった金融商品が乱用されるようになった経緯について述べ、
発生しうる損失を推定している。
そして現実的な清算のシナリオと、その過程で起こりうる問題について書いている。
著者はソフトウエア会社の社長でもある。
証券化商品の構築と分析に使うツールを扱っていたというように、金融商品にも詳しい。
過去のバブルとの違いにも触れ、バブルを繰り返すたびに新手の投資技術が生まれてきたことが分かる。
そして金融当局の監視がそれに追いつけないことも、イタチゴッコを繰り返す原因であった。
第八章ではアメリカ市場に対する信認を回復するために以下のような政策提言をしている。
・レバレッジが極端に高い借り手への融資には、高い比率の自己資本割り当てる
・財務状態を開示しないヘッジファンドに融資させない
・資本基盤が脆弱な法人から購入した信用保険を認めない
・取引の多い金融商品は取引所で売買し、証拠金制度によりリスクをなくし、清算を円滑化
既に現在、米国でも欧州でも規制強化が議論されているが、まだ結論は出ていない。
最後に著者は「市場重視が問題そのものになる時期がきた」、「市場重視の時代は終わり、振り子が逆に振れる時代がきた」と書いている。
危機後の現在、我々は市場は完全ではないことを再認識し、市場を過剰に信頼することを反省している。
今回の「信用バブル」の崩壊の背景にあった金融のプロ同士の仲間内での取引。
一旦、信用が収縮すると実体経済にも巨大な影響を与える。景気が悪化し、住まいや職を失う人が大量に出る。
危機に陥った金融機関を支えるために、取引とは無関係な市民が税金を負担しなければいけなくなる。実に理不尽である。
バブルが起きるのもカネ余りが原因と言われるが、現実の我々の生活とはかけ離れすぎて、ピンと来ない。
カネ余りの一方で、世界にはまだまだ貧困が残る。格差も拡大している。人類はもっと上手なおカネの使い方は出来ないのだろうか、と思ってしまう。
○印象的な言葉
・FRBは金融危機対策に大量の流動性供給したことで世界的にインフレの火が燃え上がっている。
自ら金融商品を抱え込み、バランスシートを膨らませ、金融機関を支えている。納税者は信用損失を負担することになりかねない。
・信用バブルの指標。金融資産総額は世界のGDPの4倍。金融派生商品は想定元本の総額が世界のGDPの10倍を越える
・1973〜1982年のアメリカは最悪の時期。原因は経営の理想の喪失、人口構成の変化、経済政策の大失敗。
競争が骨抜きになり、技術革新が止まった。経営幹部は現場から離れた。
・ベトナム戦争時のアメリカの反戦運動は階級闘争の様相も帯びていた
・20世紀になって経済学に高等数学が使われるようになって、経済学は科学だという幻想が強まった。政策を扱う公共経済学はイデオロギーの一種といえる
・1980年代のアメリカで起業活動が急増した背景には人口構成の変化があった。ベビーブーム世代が控えていたが昇進への道は混み合っていた
・1990年代の日本や欧州の景気低迷は安定性を維持するために市場の機能を抑えた結果
・80年代後半から90年代後半までに3つのバブルがあった。新しい投資技術(金融工学)により引き起こされた。
それらの技術には欠陥があった。戦略も大規模になり世界経済全体を危険にさらすまでになった。
これらのバブルは金融規制当局の監督権限がほぼ及ばない部分で起きた。
・LTCM危機:多数の金融機関がLTCMの戦略を真似るようになった。LTCMはポジションを大きく取りすぎて破綻した
・代理人問題:依頼人に代わって行動する代理人が、依頼人の利益に反する行動をとる問題
・投資判断に数学モデルに頼る傾向が強まっている
・サブプライム・モーゲージ業界での略奪的な行動。NINJAローン。借り手には豊かな層の比率が高い。二軒目を無理して買っていた
・大規模な円キャリー取引。格付け会社も加担。高リスク商品のごった煮から高格付けの証券を生成。
・ドルの価値が下がれば、ドル資産を保有することは不利。自国通貨をドルに連動させるのも得策ではない。
・日本は外貨準備の運用で、リターンを最大限に高める努力をしていない
・ヘッジファンドは市場に流動性を提供する主力
・レバレッジを極端に高くしているファンドは損失が5%にもなればポジションが吹き飛ぶ。リスクが高く、急速に悪化しうる。
・CDSははるかに大きなリスクを抱えているセクター。ほとんどのファンドはCDSでわずか1、2%の保証支払いを求められただけで破綻しうる。
CDS取引の膨張が、信用を更に膨張させた。
・住宅ローンのデフォルトが急増すれば住宅価格は下落を続ける。少なくとも30%下がる。
・アメリカの金融セクターは問題を小さく見せ、隠す方法で何とか切り抜けようとしている
・賃金格差、二極分化:下層では自動化が容易でない人的サービスの職に就き、上層では高級な知的労働にたずさわり、所得を増やしている
・CDO:一度証券化されたものを更に証券化。二階建ての証券化。
・ドルの流動性の拡大がよりハイリスク・ハイリターンな投資を選好させることになる
-目次-
第1章 リベラリズムの死
第2章 ウォール街の新たな宗教
第3章 バブルの国への道
第4章 資金の壁
第5章 ドルの津波
第6章 大規模な清算
第7章 勝者と敗者
第8章 均衡の回復
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