読書メモ
・「ヘッジファンドの真実」
(若林 秀樹 :著、新書y \780) : 2009.05.18
内容と感想:
誤解や偏見も多い「ヘッジファンド」。
本来「プロ向け私募投信」なのだから一般の人には見えにくい。
エレクトロニクス業界のトップアナリストからファンドマネージャに転進した著者。
本書は実際にファンド運営に携わっている著者が、読者にヘッジファンドを正しく理解してもらうことを意図して書かれた。
富裕層だけが相手ではないこと、
存在意義のプラス面も少なくないことを理解してもらいたい、と述べている。
ヘッジファンドの「ヘッジ」はリスクヘッジのヘッジである。
相場の暴落時にも安定したリターンを出すことを目指している。
近年ますますヘッジファンドの数は増え、ストラテジーも多様化し、存在感やマクロ経済への影響力は増しているという。
今回の金融危機で大きな痛手を負ったファンドも多いようだ。著者は「ファンドバブルの崩壊」と呼んでいるように、
米国での住宅バブル、証券化バブルの背景にはファンドの存在があり、悪者にされているのも事実である。
しかし、著者はヘッジファンドの存在意義として以下のようなものを挙げている:
・年金基金など国民の資産を守る機能
・株式市場に流動性や分散効果を提供
・認知度の低い有望な中小企業に光を当てる、資金を配分する
実際に日本の厚生年金も一部、ヘッジファンドを導入している
(年金運用を任せているという意味では我々から見れば厚生年金はファンド・オブ・ファンズになるだろう)。
ヘッジファンドの運用手法なども紹介されている。「株式ロング・ショート」といった様々なストラテジーが存在する。
それは運用する対象(株や債権など)、運用期間、運用手法(積極的・消極的)の組み合わせによって異なるようだ。
本書はファンドマネージャとして自身の体験を通して書かれているため興味深い(全てのファンドが同じではないだろう)。
アナリストとしての経験が「ファンドマネージャとしても、経営者としても役立っている」という(第4章)。
ヘッジファンド業界やビジネスモデルが理解できる。
「ストラテジーや運用ノウハウも真似されてしまえば、おしまい」(第3章)、
ファンドは運用成績を「数%の差でしのぎを削っている」(第5章)というように厳しい世界だ。
浮き沈み、出入りの激しい業界のようである。
○印象的な言葉
・統計的、計量的な金融工学を活用するクォンツ系ヘッジファンド
・証券化してリスクを分散してもリスクは消えたわけではなく、リスクの全体量は変化していない。
かえってリスクが増えたかも知れない。市場参加者が同時に同じようなリスク回避を図るとヘッジにならない。
・運用とは自分を律すること
・ヘッジファンドの運用規模は200兆円。世界の株式市場の1%、債権市場の1〜2%
・シャープレシオ:リスクに見合った運用成績を上げているかの指標。リターンに対しどれくらいリスクをとっているか
・本場、アメリカではヘッジファンドはピークを過ぎ、淘汰の時代
・α(アルファ):市場の影響を受けずにリターンを稼ぐこと。運用スキルに依存
・β(ベータ):相場上昇に乗って稼ぐ
・ファンド・オブ・ファンズ:相場の短期的変動には追随できない。手数料が二重、三重に取られコスト高
・大手証券会社のアナリストがカバーしていない、成長性の高い中小企業。マスメディアにも取り上げられない。
機関投資家のポートフォリオにも入れられず、安値で放置。
・運用規模が大きくなりすぎると身動きが取れなくなるリスク。運用利回りも下がる
・専門志向、コアに特化、水平分業志向、会社規模の巨大化を好まない
・プライムブローカー:ヘッジファンドのメインバンクのようなもの。欧米系大手証券会社が中心
・レバレッジをかけ、短期間での売買回転率も高い
・ファンダメンタル分析の有効性:中長期の大きな波動が分からないと、小さな波動も取れない
・PER20倍は、そのEPSの利益水準が20年程度は続くことを示す。20の逆数は利回り5%を意味する。
・日本のリスクプレミアムは3.5%。リスクフリーレート(国債など)が1.5%なら、合計5%の利回りなら妥当
・ロスカット・ルール:ヘッジファンドならではのもの。投信にはない場合も多い。
・中期の成長性判断は経営者に対する人物評価が大きな要素。経営思想に共鳴できるか
・自社より優位な技術を持つ競争相手が出てきたら、買収によりリスクを回避するのが常套手段
・評価は努力と才能、運、勇気、リスクテイクとの掛け算。最も大きな差が出るのは運や勇気。大事なのは「勝負すること」。
勝負することで運もついてくる。
・企業は儲けなければ存在する意味はない。その気がないならNPOにすればいい。株主に文句を言われるのがイヤなら上場しなければいい。
・カンバン方式の浸透とITの普及が在庫サイクルと設備サイクルを短期化。景気サイクルも短期化
・アノマリー:経験則
-目次-
第1章 ヘッジファンドとは何か
第2章 ヘッジファンドにはどんなストラテジーがあるか
第3章 ヘッジファンドとはどんなビジネスモデルか
第4章 ヘッジファンドの運用はいかになされているか
第5章 ヘッジファンド批判に答える
第6章 なぜアナリストからヘッジファンドへ転じたのか
第7章 私の株式市場論
第8章 ヘッジファンド会社の紹介
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