読書メモ
・「世界連鎖恐慌の犯人 〜アメリカ発「金融資本主義」の罪と罰」
(堀紘一 :著、PHP研究所 \952) : 2009.05.30
内容と感想:
今回の金融危機に関する書籍は既に多く出されているが、「本質に触れる議論が出てこない」と著者は言う。
そんな問題意識から筆を取ったと「まえがき」には書かれている。
自ら言っているように本書は問題提起に終始し、解決策を提示していない。
「いま世界が直面している危機の真の姿」を描こうとしている。
そもそもインベストメントバンク(投資銀行)の「第三の業務にすぎなかったディーリング部門の巨大化」が暴走の始まりだったと第二章で書かれている。
その背景ではインベストメントバンクという業界の内部で「価値の大転換が起きた」という。
もともとは企業の資金調達をするのが投資銀行業務だったのが、「自ら投資する投資銀行に転換し」、それが投資から投機に変わっていったと言う。
IPOをして自らのために資金を調達し、銀行からも調達するようになった。
そもそも投資銀行や証券会社に「自己取引であるディーリングを認める世界中の金融当局のほうがおかしい」という指摘は同感である。
こうした変質した投資銀行とともに、本書ではヘッジファンドも糾弾している。
第六章では今回の金融危機の元凶を説明するために、金融資本構造を三角形の図を示していて分かりやすい。
本来は三角形の上部の小さな部分を占めていたデリバティブや証券化市場といったものが、「ムダに肥大してしまった」。
そしてついに、弾けた。もともとがレバレッジをかけて膨張したマネーが弾けたので、真の損失額は素人の私には想像もできないが、
今回の金融危機と世界経済の失速で生活を脅かされている多くの人が発生していることは厳然とした事実である。
同章の最後のほうでは日本はアメリカ型の金融資本至上主義との決別が必要で、日本人は元来ものづくりが得意で「産業資本主義」に向いていると言っている。
再び「知恵と汗の結晶で価値をつくりだす社会」の価値を見直していく必要があるだろう。
○印象的な言葉
・危機は事前に予測できた
・たくさんの弁護士を抱えるインベストメントバンク。法律違反ギリギリのところで商売するため。
MBA成績上位者の進路、金銭欲の塊。コミッション商売(扱い金額の%でもらう)。必要なのは信用と経験とノウハウだけで、お金は要らない。
企業の資金調達の仲介が本業(実業)。
・金融商品(デリバティブ)の設計者はビジネスの現場、現実社会を知らない
・前提が崩れれば、論理構成も意味を失う
・価格変動のボラティリティが大きいことがリスク。デリバティブはボラティリティが小さくなるように設計されている
・CDS市場は6,000兆円。世界のGDPを全部合わせても5,000兆円。
・米インベストメントバンクのビジネスはグローバルスタンダードではなく「ウォールストリート・スタンダード」に過ぎない
・次なる時限爆弾CDO。顧客には日本の地銀も。サブプライムローンやCDSなど様々な金融商品を組み合わせた商品。
理論上、構成する個々の商品はリスクを背負っているが、これら全てが同時に悪い方向に働くことはないという。CDOは全体としてボラティリティを抑えている。
「大数の法則」が利くだけの数、種類の金融商品を集めている。
・都内の一等地のほどんどはヘッジファンドの所有。ヘッジファンドの資金規模は30〜40兆円。出資者は退職教職員組合や大学基金など「お堅いところ」。
「ヘッジファンドが必要」というのは金融の中だけの論理。
・株、債権などの流動性があって喜ぶのは証券取引所と証券会社、ヘッジファンド、デイトレーダー、投資銀行くらい。
・背景に実需がある取引は虚業でなく、実業。
・日本の金融庁はヘッジファンドの取り締まりはほとんど出来ていない
・株下落の一年後に不動産の大暴落が来る
・金持ち、優良企業は不況のときこそ大きく伸びる
・裁定取引:商品間、時間差、地域差の裁定。債権などの短期のサヤ取り
・ディーラーに必要な資質は情報収集力とカン
・投資銀行は世界中に売り子(営業マン)をたくさん抱える。インサイダー情報に近い情報はいくらでも入る
・CDSの保険料は実際のリスクに対して倍額。トータルでは投資銀行が儲かる
・金融の世界はモノ以上に連鎖している。大きな投資銀行が一社倒れると余波はたちまち世界に及ぶ
・金融血液論:産業が心臓などの臓器とすれば、臓器を駆け巡るのがお金(血液)。お金を効率よく循環させるのが金融の仕事で、それは実業。
・もともと東証では証券会社などの手口(売買状況)が公表されていたが、証券会社などの圧力で非公開となった。
・年金(機関投資家)には「30%ルール」がある。自己資金の30%以上を越えて株を持てない。30%を越えると売り、
株安で下がると買いに出る。
・カリフォルニア一州でGDPはカナダ、オーストラリアを上回る。
・サブプライムローン問題の発端は高級リゾート地の売れ行きが怪しくなったころ
・三菱地所、三井不動産の株は暴落時こそ買い時。まず倒産しない
・ブルーチップ(優良銘柄)を買え
-目次-
第1章 この金融危機は誰にも止められない
第2章 インベストメントバンクとは何者か
第3章 これから待ち構える大惨事の元凶たち
第4章 庶民の生き血をすするヘッジファンド
第5章 「金融異星人」たちの恐るべき価値観
第6章 世界連鎖恐慌の全容と今後の対処法
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