読書メモ

・「逆説の日本史 13 近世展開編 〜江戸文化と鎖国の謎
(井沢元彦 :著、小学館 \1,600) : 2009.11.09

内容と感想:
 
シリーズものの第13作である。取り上げている時代は徳川幕府成立の頃から五代・綱吉のあたりまで。 キリシタン対策や大名の改易とそれに伴う浪人対策などが江戸初期の出来事になる。 また、茶の湯や歌舞伎・能楽といった戦国期に花開いた文化の変化、輸入された儒学が日本で変容していく様に触れている。 そして武断政治から文治政治へと転換していく時期を見ている。
 私は「江戸時代は鎖国をしていた」と学校で教わった。しかし実は幕府は「鎖国令」という法令を出したことはないのだ。 ただ、「外から見たら鎖国と言わざるを得ない体制」であったことは事実であり、 それは「政府の主体的な意志というよりは、長期的視野を欠く場当たり的な問題先送り体制」によるもの、と著者は捉えている。 教科書にもあったように、出島を通じてオランダとは幕府が独占的に貿易をしていたし、明(中国)との関係も続いていたから、 完全に国を閉じていたわけではない。キリスト教対策や幕府の権力強化のため、場当たり的に対応していたら鎖国っぽくなってしまったということだ。
 第6章で徳川五代将軍・綱吉を従来とは逆の見方で評価している。 従来は綱吉は「生類憐みの令」を出して、「犬公方」などと馬鹿にされてきた。 しかし、「生類憐みの令」以後、社会に劇的な変化があったことで、著者は彼を「名君」だと評価している。 発令を境に「斬り捨て御免」のような「手討ちや試し物がすっぱり姿を消すという大きな風潮の変化があった」というのだ。 「綱吉が推奨してやまなかった徳目」であった「慈悲」が世間に浸透していき、現代にも脈々と伝わっているのだ。 「綱吉は人々の意識を変革するという空前絶後の壮挙をひそかに成し遂げていた」という山室恭子氏の言葉も引用している。 そうして政治方針が文治政治へ転換していく中で、武力による統治は無用になり、武士はより官僚化していく。

○印象的な言葉
・武断政治から文治政治(法や思想を権威として世を治める)へ(四代・家綱から八代・吉宗の間のどこかで転換)
・古代、天智天皇は唐の侵攻を危惧し、北九州に水城を初め、西日本に多くの城を築いた。
・秀吉はスペインの植民地フィリピンや台湾に服属を迫る使者を送った
・ドイツ人医師のケンペル、シーボルトはオランダ人と偽って出島にやってきた
・伊達政宗はカトリック勢力を味方にして、家康と豊臣家の争いの間に割って入るつもりだった?
・日本教は世界で最も強固な宗教。信徒すら自覚しえぬまでに完全に浸透しきっている(イザヤ・ベンダサン)
・非武装中立は無理
・信長が日本の宗教戦争を終わらせた。宗教争いでの人殺しは悪というルールを確立。それが日本人への最大の贈り物(塩野七生)。 宗教団体の強制的武装解除。
・家康死後、幕府は着々と豊臣系大名の取り潰しを進めた。秀吉の義弟・浅野長政を祖とする浅野家の分家、赤穂浅野家が起こしたのが忠臣蔵事件。
・武家諸法度は当時の平和憲法
・1637年当時、日本人の100人に1人は浪人(失業軍人)だった。
・1651年、慶安の変(由比正雪の乱)。幕府は世にあふれた浪人たちを一切救済しなかった。不満は頂点に達していた
・他国による侵略が「無い」とは誰も断言できない以上、備えを持っておくのは国民の生命と安全を守るべき国の義務。備えをするなと縛っている憲法があるとすれば、それは欠陥憲法。
・茶道:「茶を飲む」という一連の行為を精神修養の手段にまで高め、悟りの境地さら得られるとする。「わび」「さび」。華美とは対照の美を求める。 「主が客をもてなす」という目的の中に、あらゆることが含まれている。
・仏教の根本は「絶対の存在は無い」ということ。仏ですらも相対的(絶対的でない)存在。(→一神教の絶対神とは人間が考え出した驕りか?)
・能は見るものではなく自ら「やるもの」だった。カラオケ的性質(堂本正樹)。基本動作が整理され、象徴化されている。基本パターンを覚えれば、それなりに演技できる。
・歌舞伎は初めは演劇ではなく舞踏だった。舞台などの形式は能に学び、台詞や演技は狂言に学んだ。口語調の狂言のほうが庶民に分かりやすい。
・儒教と他の宗教との大きな違い:「救いがない」こと。赦(ゆる)しがない。「天」という存在はあるが、頼れる存在ではない。
・侠客:強きをくじき弱きを助ける人。男伊達、旗本奴、町奴

-目次-
第1章 徳川幕府の展開(1) 鎖国とキリシタン禁制編
第2章 徳川幕府の展開(2) 大名改易と浪人対策編
第3章 戦国文化の江戸的変遷(1) 茶の湯の変質編
第4章 戦国文化の江戸的変遷(2) 演劇の変質編
第5章 戦国文化の江戸的変遷(3) 儒学の日本的変容編
第6章 武断政治から文治政治への展開 古兵と遅れてきた青年たち編