読書メモ
・「ジェネラルパーパス・テクノロジー ―日本の停滞を打破する究極手段」
(野口 悠紀雄, 遠藤 諭 :著、アスキー新書 \743) : 2009.03.07
内容と感想:
タイトルのジェネラルパーパス・テクノロジー(GPT)とは一般目的技術、汎用技術のこと。
「はじめに」では本書の3つの主張を先に挙げている:
・ITはGPTであるが、ある種の組織はGPTと不適合であり、その導入には組織の変革が必要
・GPTとしてのITの正しい認識
・日本経済停滞の最も本質的な原因はGPTであるITの利益を享受していないこと
本書では問題への解答は示していないと断った上で、その問題解決を「ITはGPTである」との認識から始めようと言う。
「問題の所在を認識すること」、「本質を正しく理解する」ことを本書の目的としている。
確かにサブタイトルにある「日本の停滞を打破する究極手段」としての明確な解答はないが、危機感は伝わるだろう。
日本は世界でブロードバンド環境が最も整備されていると言われるのに対し、企業のIT活用やIT業界のお寒い状況が本書には書かれている。
GPTとしてのITを理解していない経営者はビジネス上の武器として活用できず、優位性を示すことはできないだろう。
意思決定のスピードや生産性は上がらず、積極活用する企業との差は急拡大するだろう。投資家にはITに対する姿勢も評価されるから認識を改める必要があるだろう。
○印象的な言葉
・サッチャーは労働組合との対決を最重要の政策と考えた
・日本の電子政府は公共事業と同じ発想。ITゼネコン
・金融業は情報産業
・日本の銀行オンラインシステム:第一次は勘定系、第二次は金融機関同士の接続、第三次は情報系。
・東証の取引システムはメインフレーム中心。柔軟性に乏しく、急には容量を増やせない。コストも高い
・証券取引システムの世界標準はOMX(ナスダックOMXグループ)。OMXのシステムは外販もされている。
・日本の大企業がITを整備する場合、専門家に任せきり。ベンダーは自組織の利益のために顧客にアドバイスを与えている可能性もある。
IT部門は本流ではなく、その人材育成にも力を入れていない。経営戦略上のITの捉え方の哲学を持たない。
・GPT:産業横断的に使用される。発展性、改良・改善の可能性、他の技術との補完性。インフラ整備の必要があるため、効果が現れるのに時間がかかる。
蒸気機関から電気への転換には長期間を要した。導入初期はその経済活動への影響は正しく評価されない。
・アメリカはITに適した流動性の高い社会
・携帯電話のソフトウエアの規模は500万行
・メインフレームがサーバ市場に占める割合は日本は欧米の二倍。日本では約1万台が稼動中。運輸・卸売業・金融・保険で多く使われる。
・日本のIT予算の7割がレガシーシステムに費やされる。運用・保守にかかるコストが高い。官公庁や自治体にもレガシーシステムが多い。
内部でシステムを作れるところはほとんどなく、メーカー任せ。
・IT活用に最も積極的なのは小売・流通業界
・日本のベンダーはシステムが完成して初めて支払いを受ける。初期は赤字でもメンテナンスで収益を得るパターンが少なくない。
・アメリカでは完成しようがしまいが、工数に対して支払われる
・ITをビジネスの戦略的な武器と捉える。ビジネスとITを一体化
・金融ではサーバと優れたソフトがあれば世界を取りにいける時代
・ITに対する積極的な投資が投資家への説明となり、企業の統制やブランド向上につながる。R&Dの取り組みの進行状況、強みを公開する。
・日本ではITは回線の問題としか捉えられていない。問題は「それを使って何ができるか」
・社会主義国家の崩壊は情報技術の転換とほぼ同時期に起きた
・IT革命によりコンピュータのコストが劇的に低下。個人も所有できるようになった。大組織に依存せず自分の仕事を進めることができる。小規模組織の優位性が増大。
変化スピードの加速化が優位性を高める。小回りが利く。水平分業が進むと企業規模は小さくなる。選択と集中に成功した企業が強くなる。
・雇われない生き方。産業革命以前の社会、職人の時代に戻りつつある
・米英では製造業就業者の全就業者に対する比率は10%までに低下
・グーグルが追求するのはインターネットと巨大サーバによる「量の価値」(←→質の価値)
・ラフ・コンセンサス(大きな了解)、ランニング・コード(動いて役に立つコード)
・NGN:独占的な地位を持つ巨大電話会社を中心とする仕組み。「オープン」とはいえNTT有利。インターネットの方向を大きく変える危険性。
ISNDの二の舞になる可能性。
・中世の騎士:少数精鋭軍。極めて強力。質が量を圧倒した例
-目次-
はじめに
第1章 ITは経済社会の基幹技術
第2章 ITとは何か?
第3章 日本の情報システムはどうなっているか?
第4章 日本の電子政府は「おもちゃ」
第5章 ITが経済社会の基本構造を変えた
第6章 未来への選択
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