読書メモ

・「グローバル恐慌 〜金融暴走時代の果てに
(浜 矩子 :著、岩波新書 \700) : 2009.11.14

内容と感想:
 
リーマンショック後の2009年1月に出た本。 世界金融危機は世界同時不況に変わって来た。グローバル恐慌の「第二幕へと場面が進んでいる」という。
 第4章で今回の恐慌は従来のものとは違う「21世紀型グローバル恐慌」だといっている。 その特徴として3つを挙げている。世界同時多発的であったこと、モノとカネが決別する構図、管理通貨制度下で発生したという点。 それだけに対応も難しくなっている。
 第5章では「金融グローバル時代の通貨秩序はいかにあるべきか」と問いかけをしている。 素人考えではいっそのこと世界通貨を統一すればいいのではないかと思ってしまうが、 現在のEUの混乱ぶりを見ると通貨統合とはそう簡単ではないことが分かる。 ユーロに対する問題にも本書では触れられている。
 「あとがき」では本書を書きながらも「解明は不十分だ。局面打開の決定的な知恵が湧いたともいえない」と反省する。 しかし、同時に今回の問題の本質を次のように捉えている。 ヒトがヒトを信用しているから金融は成り立つ。しかし、そこから人間が消えてしまった。信用とは関係ないところで金融が膨らんだと。 モノとは乖離してしまったカネが、再び結び付くことは可能なのだろうか?我々はもう後戻りできないところに来てしまっているのではないか?

○印象的な言葉
・恐慌:英語では panic
・金融は実体経済(モノの世界)と二人三脚だったが、一人歩きし始め、暴走した
・メイン・ストリート:産業の代名詞←→ウォールストリート
・円は隠れ基軸通貨
・AIG:全米最大の生損保会社。一般市民を含め幅広い顧客を持ち、ビジネスは世界に広がる。 CDSビジネスで大きく業績を伸ばした
・証券化は福袋:請求書の山を切り分けたり束ねたりして福袋を作り、それを売る。現金収入が入る。貸し倒れリスクも買い手に転化できる。錬金術。
・長期の日本のゼロ金利政策と量的緩和措置が要因。日本国内で金利を稼げないジャパンマネーが世界中に出稼ぎに行った
・国際基軸通貨:幅広く国際決済に用いられる。価値尺度として、富の保全手段として信頼性の高い通貨
・基軸通貨の価値を維持するには質と量の確保が必要。両立は難しい。ジレンマに耐えられなくなった時、基軸通貨国はその座を降りることになる
・アメリカの金融業務の完全自由化における法律改定はすべて現状追認だった。規制の網の目を潜って、金融・資本市場の実態は自由度を高めていた。
・スイスは徹底した銀行秘密主義。世界の富裕層の資産運用を引き受ける
・金融機関の保有する不良債権を政府が買い取るにしても時間がかかる。どこに潜んでいるかを見極める必要がある。買取価格も問題。
・FRBの大盤振る舞い。FRBが不良債権の買取、融資を自己資金で行なう。危険なカケ。
・欧州の金融機関はアメリカの同業以上に危ない橋を渡るビジネスに力を入れていた
・EU統合の限界。欧州中央銀行(ECB)には金融監督権限がない。権限は各国に残されたまま。
・ゼロ金利政策という名の生命維持装置。一度付けたら外すのが大変。日本はいまだ外せない。(→植物人間状態。世界もそうなる?)
・米国の金融安定化法案TARPは迷走し、モグラ叩きで右往左往した。
・需要と供給の均衡点を強引に探り当てようとするのが恐慌。その力学は過激化する
・バブルが膨らむ過程で「生産過剰(供給)」が進む。今回はそれが金融商品だった。その結果、買い手がつかなくなり、値崩れし、市場が崩壊した。
・金本位制:金(キン)の切れ目が金(カネ)の切れ目になる通貨制度
・管理通貨制度:通貨発行量は中央銀行の裁量で決まる
・過去の恐慌では金本位制を捨て、通貨の大増発が行なわれた。インフレを発生しやすい。管理通貨制度の下では恐慌は起こらないと考えられてきた。
・ドル不信になると逃げ込み先として資産大国日本の円が選ばれることは不思議ではない。ドル離れと外貨建て資産の円回帰。
・世界の金融機関が国有化され、市場には政府と中央銀行しかいなくなる。統制経済。その下では人為的な延命対応が続く。それが命取りになりかねない。
・グローバル時代には地球の向こう側の労働者に、こちら側の雇用が奪われる。そのため世界の労働者は団結できない。
・カネはモノとも決別し、ヒトとも袂を分かってしまった。相手の顔が見えない。信用もできない。

-目次-
はじめに 恐れ慌てる世界
第1章 何がどうしてこうなった
第2章 なぜ我々はここにいるのか
第3章 地球大の集中治療室
第4章 恐慌を考える
第5章 そして、今を考える
おわりに 金融暴走時代の向こう側