読書メモ
・「どうなる! 日本と世界の経済」
(Voice編集部 :編、PHP研究所 \952) : 2009.06.21
内容と感想:
今年(2009年)1月に出た本。
13人の経済の専門家たちがタイトルにあるように、今後の日本と世界の経済の行方について論じている。
今回の金融危機をうけて、「時代は金融資本主義から普通の資本主義に戻る」(第一部)という澤上氏。
同氏は「金融立国ではなく、日本は運用立国をめざすべき」(同)とも言っている。
金余りが招いた今回のバブルと崩壊。欧米追随の金融資本主義ではなく、社会や世界を良くしていくための資産運用を自らの頭で考えていかねばならないだろう。
日本はサブプライム問題による「一次被害はすくないはずなのに景気後退懸念が大きい」それは「国内要因によってもたらされている」
(第一部)という若田部氏。
その要因について第二部でコラス氏が「年金や食の安全性の問題など」で消費者が消費を手控えるようになったことを指摘。
これは消費者自身が実感していることだろう。これらの要因を解消できれば(解消できる期待が持てれば)消費は回復するはずだ。
そのためには政治家や行政(お上)任せではなく、我々も変革するという意志を示していかねばならない。
第二部で三國氏は「ニクソン・ショック以来続いた国際間の貿易不均衡拡大が終了し、均衡への是正が始まる」と述べる。
日本はアメリカ国債を放棄するべきと提言している。
それがドルを支えることになり、日本の輸出の急激な落ち込みを抱けることにもなると言う。
どのみち貿易黒字国(日本)の黒字分は市場の力によって(円が切り上がって)喪失する運命にあるのだ。
日本は決断できるだろうか?
放棄するくらいなら貧困国に贈与してはどうかとも思う。
同じく第二部では安達氏は金融危機震源地のアメリカよりも「欧州や新興経済圏の金融危機がもたらすグローバルレベルでの第二次金融危機」を懸念している。
金融危機がじわじわと世界の実体経済に影響を与えている。恐慌とまではいかないまでも、斎藤氏が分析するようにここ3〜5年の不況は必至かも知れない。
○印象的な言葉
・常に世界の最先端をいく技術力を今後も活かしていく
・インフレを円高で抑制する
・公共事業より投資減税を
・更なる業界再編を。コモディティを作る企業を業界主導で再編。質の高いコモディティは必要。
・マスを狙わない。大量生産・大量販売を続ければ日本企業は共倒れ
・金価格と原油価格には経験的に10対1の関係がある。21世紀になってからもほぼ同じ。
農産物価格もこれとほぼ同じペースで上昇。スミソニアン体制後も金は以前として価値の基準であり続けている
・アメリカの経常収支赤字が持続不可能なレベルまで拡大。本来、経常収支の不均衡は為替がドル安に働いて赤字は縮小するはず。
しかし日本や中国からアメリカへ資本供給が行なわれたため赤字を賄うことができた。アメリカに対する経常黒字を資本取引でアメリカへ還流させた。
その資本がアメリカに資産インフレを引き起こし、住宅価格高騰を招き、結果としてサブプライム問題に発展した。
・本来、金利の高い国の為替レートは、他国通貨との差だけ減価するもの
・2002年からの日本の景気拡大は円安政策によるもの。価格競争力が実力以上に高まった。日本の低金利が円キャリー取引を拡大させ、
これが円売りドル買いを招き、更なる円安となった(円安バブル)。
・人為的な円安に頼らなくても収益を確保できる産業構造
・日本には消費者の立場に立つ政治勢力が不在。政党は現存の産業構造の維持と雇用の維持だけを求めている
・「アメリカ頼み」の状況が続くなら、アメリカでは次々に形を変えた金融危機が顕在化する
・日本で真の改革が現実となるのは危機がそうとう深刻化し、転換なしにはいかんともしがたいことが社会的コンセンサスになってから
・成長率の高い国への株式のインデックス投資
・物価はコアCPIで見るのが世界の常識。コアCPIからは変動の激しいエネルギー・食品を除くのが常識。
・民主党を「自民党より右」の政策にもっていった小沢一郎
・日本は投資立国を目指す。イギリスは100年間、利息や配当によって暮らしてきた国。
今起きている金融のパニックやクラッシュはイギリスでも何度か起きた。富を得た反面、授業料も払っていた。
・投資にはある程度、楽観主義でなければならない。未来は現在よりもよくなる。世界はこれからも成長していく。みんなが豊かになりたいと頑張っている。
・政府系ファンドは中長期的には経済を支えるもの
・実質金利がマイナスのアメリカの短期国債を大量に買う日銀の不自然な行動
・地球規模でニーズが高まる代替エネルギー、食料、環境、工業原材料、水。その供給源が投資対象
・世界の成長を下支えできる日本の高度な技術力、安く大量に製造する工業生産力、それを支える工業インフラ。
・日本人一人一人が追加で10万円支出すれば2.5%のGDP加速となる
・世界の成長に長期資本を提供する運用センターをめざせ
・コモディティプレイヤー←→プレミアムプレイヤー(高いからこそ売れる。ハイエンドで確固たるポジション)
・コアカスタマー(熱烈なファン、マニア)を育てる。共振層(コア)・共鳴層(憧れ)・共感層(移り気)
・価値観や購買行動特性を掴み、琴線に触れる価値訴求を行なう
・インフレ率が5%を越えると望ましくない。2%前後の穏やかなインフレが望ましい
・債権大国の常として生産力が消費を上回り、デフレ圧力に悩まされる
・日本独自の文化に根差して創出された価格設計力のある製品
・外資導入により多様性が生まれ、アイデア交換が活発となり、新しい見方ができるようになる
・日本の薬品マーケットは閉鎖性が強い。競争力もない。医療機器は遅れている
・特徴をもった地域でメガリージョンを形成。地方の豊かさ
・アメリカが国内要因によって1930年代型の大恐慌に陥るリスクは小さい。30年代の過ちを犯す可能性は極めて低い
・ドルのしぶとさの背景:誰もドルを売るに売れないという恐怖の均衡。消去法的にドルを支える構造。ドル売りは自分の首を絞めるだけ。
ドルという血管が張り巡らされた世界の金融システムを過小評価してはいけない。すぐに基軸通貨が変わるわけがない。
北朝鮮もイランもドルが使えなければ交易で孤立する。ドルがあるから金融制裁にも威力がある
・国際資本市場ではドルとユーロの二極体制がほぼ完成
・アメリカは移民の受け入れに積極的で、毎年1%ずつ人口が増加。米国経済には底力がある
・金融機関監督がEUでは各国ばらばら
-目次-
第1部 どうなる!日本の経済
円高・ドル安 円高なくして成長なし
霞が関埋蔵金 埋蔵金六兆円で好景気に
内需拡大 投資減税で企業のマインドを変えよ
資金運用 日本人は日本のためにお金を使うべきだ ほか
第2部 世界経済はどうなる
日本とアメリカ アメリカ国債を処分せよ
日本とEU 日欧経済統合に勝機あり
金融危機・恐慌 大恐慌は再来するか
通貨(ドル・円・ユーロ) ドル一極支配は壊れている ほか
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