読書メモ
・「團十郎の歌舞伎案内」
(市川團十郎 :著、PHP新書 \740) : 2009.07.26
内容と感想:
12代目・市川團十郎が自ら著した歌舞伎の入門書。
一流の役者が考えていることを知ることができるのは非常に興味深いと思い、手に取った。
第一幕(章)では歴代の市川團十郎を取り上げて、彼らを中心に歌舞伎の歴史を解説。
伝統の重みを感じながらも、各代の團十郎の人間性、人間味などに触れられる。
第二幕では歌舞伎の原点や特徴、能楽など他の芸能との違いなどについて述べている。
第三幕では歌舞伎十八番の中の5つを含む計11の演目を取り上げて、12代目本人が考えていることや、舞台の思い出などを語る。
「勧進帳」ではいつ富樫が義経であることを気づくのか、ということについて、著者の思いを語っている。
読みながら安宅の関所での緊張感あるやりとりが頭に浮かぶ。
「おしまいに」で近年のグローバル化の波が歌舞伎に与える影響について書いていて興味深い。
「歌舞伎は日本語という文化圏のなかでやっているかぎり、それ以上は背伸びしたくともできない」
というように、やはり台詞を大事にする芸であるため、歌舞伎には日本語でしか味わえない、表現できないという限界がある。
無理やり英語など外国語で演じても、日本語がもっていた表現力を十分に伝えることは難しい。
「いい意味で、”小ささ”を保ちやすい」というのも、芸を後進に伝承していくにも、マーケットとして日本を見た場合にも丁度よいサイズなのかも知れない。
ただ、これまで歌舞伎を支えてきた比較的高年齢層の観客が将来いなくなった時代の歌舞伎界には、伝統文化の継承という点で不安を感じる。
それは能楽など伝統芸能も同様である。
本書をきっかけに歌舞伎ファンが増えることを願う一人である。
○印象的な言葉
・6歳の6月6日から稽古事を始めるとその芸事が上手になる(日本古来の言い伝え)
・命とは時間を与えられたということ(日野原重明)
・天を指向する西洋、地を意識する日本
・江戸初期は上方では和事の芸が好まれ、関東では荒々しい内容の荒事が好まれた
・江戸時代は商売のための場所取りで、よく喧嘩が起きた。それを采配したのが男伊達、侠客、地回りらの衆。
・荒事:神が荒れる。基本は勧善懲悪
・江戸時代:官許の劇場は役者と年間契約を結んでいた。11月ごろに契約し、その頃に顔見世公演をやった。「暫」の上演が定着。
・千両役者:年間の契約料が千両
・寺子屋:武士や学者がボランティアで先生を引き受け、無給で教えた
・実悪:国家転覆をはかるスケールの大きな悪役。悪とは強いという意味でも使われた
・江戸時代は日本橋に劇場街があり、魚河岸もあった。天保の改革で江戸三座は猿若町へ移転。
・7代目・團十郎が歌舞伎十八番を定めた
・歌舞伎界では他人の家の飯を食わせる(子を他家に出す)のが大事な教育手法だった
・傾く(かぶく)精神:伝統を守りながら革新をもたらす
・座頭の立場の役者が演出家を兼ねる
・神楽の「楽」は「遊び」の意味(音楽ではない)
・見得をするとき握る手の親指はゲンコツの中に入れる。赤ん坊と同じ握り方
・日本古来の芸能の動きは上下に飛び跳ねる系の「踊り」で、その後に回ることを中心にした「舞」に変化
・出雲阿国:いきなり京都に出てきて受けたわけではなく、転々と各地を回って評判を得ながら、ようやく京で認められた
・阿国歌舞伎が次第に遊女歌舞伎に変貌すると、江戸幕府は風紀の乱れを懸念し、女性が舞台に上がるのを禁止
・琵琶:ある程度のメロディは奏でられるが、リズム中心
・三味線:メロディが奏でられ、サイズもコンパクトなため人気が広がった
・入事(いれごと):アドリブ
・日本人の眼と欧州人の眼は違う。欧州は間接照明が中心。日本人には暗く感じる
・歌舞伎の衣装は重いものが多いが、バランスがよいときは重さを感じない
・「天下御免でやり通す」、上手い下手を超越、「童の心でやれ」
・しっかりしらドラマ性が人形浄瑠璃の人気の要因
・革新的なことをやったと自負しても、昔のものとは大差なく、2%くらいしか変わっていないもの。その2%が大変。
人と人の意見の違いや考え方の差も、真理という全体から見れば、たかだか2%の差。
・「ここで満足、これ以上はもういい」という謙虚さ。「ちょっとやりすぎかな」の手前で止める努力。過剰な欲を出さない
-目次-
第1幕 團十郎でたどる歌舞伎の歴史
第2幕 歌舞伎ができるまで
第3幕 役者から見た歌舞伎の名作ウラ話
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