読書メモ
・「大本営発表は生きている」
(保阪正康 :著、光文社新書 \700) : 2009.12.12
内容と感想:
「大本営発表」とは大東亜戦争期に、日本陸海軍の統帥機関・大本営が戦況報告したものを指す。
現在では、それは「隠蔽や虚偽の代名詞として使われ」、「官製報道への批判といった視点が含まれている」。
本書は、かつて戦時中に国民が新聞等で見聞きした大本営発表がどんなものであったかに迫り、
官が発する報道の、現在にも通ずる危険性に警句を発している。
大本営発表の特徴として、曖昧かつ、重々しく難解な文語体がある。
重要なのはそれが、欺瞞、虚報、隠蔽工作に満ちていたということ。
陸海軍が競争するように発表したようで、勇ましかった。
対抗意識もあり陸海軍は「お互いに相手側に詳しい情報を教えない」ことが多かったという。
堀栄三の次のような言葉を引用している。
「陸海軍間の円滑な連絡が欠けて、せっかく情報を入手しても、それを役立てることができなかった」と。
軍部の情報軽視の体質を表わしている。
それどころか思わず悲しくも笑ってしまうのは、その「大本営発表は外電として世界に流れていた」という事実で、
「大本営発表」だから、と世界もそれを信用していなかったらしいのだ。今から見れば間の抜けた話である。
陸海軍指導者は互いを欺いただけでなく、国民も欺いた。罪が深い。
本書には当時の讀賣新聞や讀賣報知の紙面がいくつも写真で掲載されている。当時の新聞社の責任も問うている。
「記者たちをはじめ言論人、文化人が率先して大本営発表の演出者になっていった」。
新聞を初めとしたそうしたメディアの報道に国民は踊らされた(自ら踊った?)。
著者は日本人が今も依然として踊らされる危険性があると書いている。
当時、良心のある者はどんどん戦場に送られ、あるいは言論統制で口を塞がれ、メディアには真実を語れるよう人材はいなかったのではないか?
終章ではまた、国民も「情報操作に気付くべき」だったとも述べているが、
今でも記者クラブ制度下のマスコミでは、官僚や政府が操作する情報をそのまま垂れ流しているのがほとんどという可能性が高い。
本来ならば国民の代わりに情報操作に気付く、権力を監視する役割を担うはずなのだが。
我々国民がもっと賢くなるしかない。常に疑問を持ちながら聴く必要がある。
○印象的な言葉
・権力による虚偽、誇張、隠蔽の比喩
・官製報道、大本営の機関紙。新聞社には主体性、独自の視点も無し
・真珠湾攻撃以降の大本営発表は平均でほぼ2日に1回の割合で行なわれていた。本土爆撃が日常的になって以降は極端に減った。
戦況が悪化していっても、国民に不安や不信を与えないために発表は続けた
・聖戦意識(←日本にもあった?)
・現実が苦しくなると、それを認めたくない、と言い逃れをし、嘘をつき、大局を見失う。客観的事実から目をそらし、主観のみで軍を指導。妄想、自己陶酔。
・真珠湾攻撃の報を受けて、都議会はそれを「感謝する決議案」を可決
・徳川夢声の「夢声戦中日記」、伊藤整の「太平洋戦争日記」、清沢烈「暗黒日記」、山田風太郎「戦中派不戦日記」
・海軍報道部将校・富永謙吾「大本営発表の真相史」
・昭和19年以降、大本営発表による天皇の勅語(感謝や励ましの言葉)は発せられていない。戦況が悪化するにつて、軍部は勅語を出してもらえなくなった。
この時点で日本は既に敗れていた。
・国民に正確な情報を与えようとしないということは、国民を信用していないこと
・台湾沖航空戦の真実を海軍が陸軍に伝えなかったことで、海軍発表を鵜呑みにした陸軍はレイテ決戦を決行し、多くの将兵を死に至らしめた
・昭和18年4月〜12月の期間:日本は実質的に軍事的に敗れた。伸び切った戦線、消耗戦
・昭和20年1月の時点では既に戦争という次元ではなく、国を挙げて自殺行為を続けている状態
・ミッドウエー海戦で真珠湾攻撃の優秀なパイロットを多数失った。生き残った兵士らは幽閉され、敗戦は隠蔽された。東條首相にも正確な情報は伝わらなかった
・大本営とは実体も曖昧。陸海の調整機関もない。統一した見解を打ち出すこともない
・文化人は戦場の兵士の慰問も行なった。大本営発表の提灯持ちの言論人
・武士道精神も安易に用いられ、誤用され、歪められた
・核になる思想や信仰、倫理をもたない者は異様な心理状態になる。ヒステリー状態
・言論界の長老・徳富蘇峰は明治初期の民権論の鼓吹者としての経歴を、昭和十年代に汚した。先鋭的に国民の士気を鼓舞
・徳川幕府が長く続いたのは武士の「戦わない知恵」
・死を讃える幻想の空間に通じる不気味さ。空間の虚構性
・昭和20年には軍事上の嘘やデマが流れていた
<感想>
・戦前・戦中の新聞を見てみたい。いわゆる「大本営発表」以外の記事にはどんなものがあったのか、なかったのか(昭和16年12月頃の新聞は4ページ。20年には表裏2ページ))。
いったいどれくらいの日本人が読んだのか?
-目次-
第1章 内容とその特徴
第2章 組織とその責任
第3章 思想とその統括
終章 大本営発表の最期
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