読書メモ
・「実践!オープンソースCRMアプリケーション入門」
(松下 博宣、内田 隆平 :著、ケアブレインズ :編、翔泳社 \2,300) : 2009.01.01
内容と感想:
オープンソースの波は基盤ソフトウエアから始まり、ミドルウエアにまで展開し、今やエンタープライズ系の業務アプリケーションの領域にも押し寄せている。
私も最初にタイトルを見たときは、そこまで来たか、という時代の潮流を感じた。
本書ではオープンソースのCRMアプリ「SugerCRM」を取り上げている。
SugerCRMは既に全世界で8万社以上の導入実績があるという。
編者のケアブレインズ社はSugerCRM社の日本代理店で、産学官連携体制を組んで日本語化プロジェクトをリードしているという。
SugerCRMは「コマーシャル・オープンソース」という新たなビジネスモデルを展開しているのが特徴。
下位バージョンのソースコードを公開し、コミュニティが開発する。
完成品は無償で利用できるが、著作権はSugerCRM社に所属することになるというライセンス形態。
有償版もあり、オープンソース版ではカバーされない高機能、専門的な機能を有償で実現するそうだ。
本書にはインストールCDも付属しており、とにかく使ってみたいという人にはナビの役割を果たすだろう。
大手ソフトウェアベンダーの提供するCRMソフトウェアは、高額なライセンス料・不具合対応が遅い・拡張性に欠ける、といったイメージが強い。
また導入してみたものの、費用対効果を実感できない企業も多いようだ。そんな市場に登場したのがSugerCRMだ。
SugerCRMはオープンソース型分散モデルで開発されるため、ユーザ企業は特定のソフトウェアベンダーやインテグレーターにロックインされないというメリットがある。
序章や第1章、第4章では製品そのものよりもオープンソース化の流れや、それに基づく業務アプリケーションのビジネスの展望などに触れていて興味深い。
オープンソースソフトウエアを核にしたソリューションビジネスの可能性を感じることができるだろう。
また、オープンソース時代のSEのキャリア形成についても考えさせられる。
私も実際にCRMを使用したことがなかったため、どんなものか興味があった。
本書ではCRMアプリとはどんな機能をもっているのかイメージを掴むことができるだろう。
私の理解ではマーケティング担当や営業担当などが、顧客情報の管理だけでなく、商談履歴や日程・進捗の管理、受注のヒント、失注の原因などのノウハウ共有もできる。
またカスタマーサービス部門に寄せられる質問やトラブル報告、依頼なども各部門で共有できる、といったところ。
○印象的な言葉
・業務アプリのオープンソース化は技術者のワークスタイルを変える
・プロデューサ型SE:市場と製品開発の橋渡し役。顧客業務に精通し、それをソフトウエアとして実現する方法に精通。
コミュニティを牽引し、コントロールし、リードする。英語力。SEのキャリアの到達点。
・基盤ソフトやミドルウエアでは利用者も開発者も同じだったが、業務アプリではそうではないため橋渡し役が必要
・オープンな開発プロセスの優位性
・プラグマティズム:実用主義、実際主義
・オープンソースライセンス:自由を妨げる行為を禁じる
・サービス化するソフト産業
・企業ユーザは高額な導入費用を負担しながら、導入効果を測定できていない。毎年のように保守サービス費用を払い続ける。
一方的に古いバージョンのサポートを打ち切られる。アップグレードを強要される。
・オープンソースなら事前にニーズに適合しうるかを検証できる。ユーザが主導権を持てる。コミュニティで導入事例や成功・失敗事例など情報交換。
・ベンダーとユーザの情報の非対称性
・オープンソース・エンジニア:業務アプリの種類、機能、品質、開発の進捗、ローカライズの程度、コミュニティの活性度、サポートのスキルなどを把握。
最善の組み合わせでシステム全体を提案。ユーザが情報をもっていれば、SIとしてはマーケティングや営業に膨大なコストをかけなくてすむ。
・従来、膨大なIT投資は清水の舞台から飛び降りるような意思決定に基づいていた
・初期ライセンス削減、カスタマイズやアドオンなど本当に必要な差別化機能の開発に限られた投資に集中
・改造・追加したコードが本流として採用されれば、コミュニティが保守・拡張してくれる。保守費用の削減。
・SugerCRM:階層化されたモジュール構造。SOAPを使った外部システムとの連携
・日本ではクローズドでカスタム化が難しいパッケージは顧客の要件にマッチしにくい。オープンソースが最適な選択肢。
・オープンソースの業務アプリにも付加価値サービスは必要。システム構成設計、業務要件定義とギャップ分析、カスタマイズ、機能拡張、導入、運用研修、保守。
・様々なバージョンやパッチの組み合わせで動作を検証し、保証するサービス
・容易には越えがたい「キャズム(深い溝)」。初期市場とメジャー市場との間にある。
・Synapse:SOAの基盤ミドルウエアとしてのESB(エンタープライズ・サービス・バス)のオープンソース化。
-目次-
序章 なぜオープンソース・ソフトウェアなのか
第1章 業務アプリケーションもオープンソースの時代到来
第2章 オープンソースCRM「SugarCRM」を使ってみよう
第3章 オープンソースCRMを使ったソリューション革命
第4章 コマーシャル・オープンソースとSugarCRMが巻き起こすパラダイムシフト
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