読書メモ

・「クラウドコンピューティングの幻想
(エリック・松永 :著、技術評論社 \1,480) : 2009.05.24

内容と感想:
 
最近「クラウドコンピューティング」が注目されている。「企業に大きな変革を与える可能性」がある。 しかし「クラウド」(雲)というくらいだから、名前からして「モヤモヤとしていて実態がみえにくい」、雲を掴むような話だなと 理解不足の私自身も感じている。 本書はその「クラウドコンピューティング」の本質を理解し、企業はそれをどう活用すべきかを論じている。
 重要なのは「クラウドコンピューティングありきで議論してはいけない」という点(第2章)。 著者が言うように「サービスの内容や品質がすべて」であり、それを支える技術はエンドユーザには関係ないのであり、 経営的な視点で考えることが重要だというのが本書の最大のテーマである。 本書には技術的な記述は少ない、あえて避けている。
 第4章に重要なのは「企業がそのクラウドにコンピュータリソースを任せる決心がつくか」であり、 「かなりの勇気が必要」だろうと述べている。 個人的にも自分が経営者だったらネットの「あちら側」に重要なビジネス情報を預けることへの不安はあるし、 また、技術の陳腐化の激しい時代、クラウドというサービス(ビジネス)の永続性にも不安がある。 (第7章に同様のことが書かれている)
 クラウドはあくまでも「コンピュータシステムの進化の過程の1つに過ぎない」のであり、 グラウドが自社のビジネスを変えてくれるなどという誤った期待(幻想)は持つべきではない。

○印象的な言葉
・snob:ユーザ不在のバズワードを議論するのが好きな人
・ITを自社で持つべきか、持たざるべきか
・ユーザ視点を崩さない端末メーカー、サービスプロバイダー
・戦略的に経営の意思決定に活用する
・Googleはゼロベースの発想から物を生み出す
・「クラウドコンピューティング」は垂直統合された総合サービス。あらゆる端末からも快適に、クラウドという仕組みを意識させずに提供できるか。 Google(App Engine)やAmazon(EC2、S3)は自社サービスを展開していくうちに気づいたらクラウドコンピューティングが完成していた。
・コンサルタントのスキル:クライアントの課題・問題解決力。SCMなどのパッケージソフトの導入にはコンサルティングが必要
・マスマーケティングで消費者の注目を集められた時代とは違い、企業のコントロールが効かなくなってきている ⇒マーケティング、セールス不要の時代?
・ERPパッケージを業務で使うには組織や業務プロセスの改革が必要
・SAPは経営から業務に深く入り込めるビジネスコンサルタントを活用
・システムの中枢を握られてしまった企業は簡単には他社に移行できない
・アクセンチュア:システムインテグレーションよりも上位から食い込むビジネスインテグレーション
・サービスなき基盤は車の走らない高速道路。サービス起点で考える
・App Engine:小規模な開発者でもアプリを提供できるような導入障壁の低いプラットフォームでは圧倒的で、Googleには追いつけない
・Amazon:サービスへの飽くなき追求が技術革新を後押し。AmazonにあってGoogleにない大きな機能は「決済機能」
・企業向けにはIBMの「ブルークラウド」のような伝統的インテグレータの提供するクラウドにはチャンスがある
・アイデアを共有する「アイデアメーリングリスト」
・マーケティング:企業の価値を何にすればいいのかを決定するためのプロセス手法。経営の中核を担う活動の1つ。宣伝・営業といった戦術ではない。

-目次-
はじめに
第1章 クラウドコンピューティングの迷走
第2章 企業向けクラウドコンピューティングは何も始まっていない
第3章 クラウドコンピューティングを支える技術と意味
第4章 クラウドコンピューティングの未来を占う注目企業の戦略
第5章 クラウドコンピューティングをリードする注目企業の戦略
第6章 クラウドコンピューティング時代に遭遇する既存大手システムインテグレータの危機
第7章 クラウドコンピューティングの幻想からの脱却