読書メモ

・「軍需物資から見た戦国合戦
(盛本昌広 :著、新書y \780) : 2009.10.10

内容と感想:
 
戦国時代を軍需物資の側面から見るという異色の本。 戦の多い時代。戦国大名や武将たちは築城、武器などに大量の物資を必要とした。 それらの原材料としては木材や竹といった森林資源が多く用いられた。
 現代の感覚からすると過度に森林伐採が行なわれることで各地に禿山が出来ていたのでないかと想像してしまう。 戦国時代でなくとも江戸時代など平時でも薪に使うために森林が伐採され、禿山も多かったと聞いたことがある。 ただし、一方的に切りっぱなしだったわけではなさそうである。資源が枯渇することを当時の人たちも「環境問題」として認識していたのだ。 森林の再生にも取り組んでいたという。 寺社では松・杉・檜といった樹木を育成していた。 そうした知識や技術を確立していたのだ。
 「おわりに」にもあるように、従来の歴史学では「政治や社会構造を扱ったものが中心であった」が、 政治や社会構造が環境に影響を与えることもあるし、その逆もある。それらの「相互関係を踏まえること」で 「歴史学が現代的課題に貢献する」と著者は考えている。
 古代文明は森林を伐採したまま放置し、資源が枯渇して滅んでいた。 それと比べれば我が国の祖先はしっかり森を再生して後世に伝えてきたからこそ、 今でも日本文明が生き続けていると言える。

○印象的な言葉 ・森林を再生、保全する「はやし」(林、生やす)や植林
・クヌギ、ナラ:伐採後の根株から新たな木が生える。自然に再生する。杉や檜は自然再生は困難
・中世を通じて松が増えた。山林の伐採後、あまり管理されていなかったことを意味する
・環境史:環境を扱う歴史学
・現在の日本で最大の竹は孟宗竹。江戸時代に中国から伝わり、各地に広まった。
・元から日本にあったのは真竹。材質は竹の中でも最高
・山造(山作。やまづくり):山林の伐採や製材に携わっていた集団
・杉は中世に建築資材として最も利用された
・秀吉が建立した方広寺の大仏(1595年完成)は同年に大地震で大破。そこで当時、甲斐にあった善光寺如来を代わりに迎えた
・信長が作らせた安宅船(あたけぶね)は、矢倉が載った大型船
・武蔵多摩では炭焼きの専業組織も育成されていた
・軍団編成の中で最大人数は鑓(槍)。柄は竹製が多かった
・厚さ30センチほどに束ねた竹束を鉄砲除けの楯として用いた。板の楯は矢の防御用。
・鉄砲玉には土製のものも使われた
・戦国時代に木綿は普及していたが栽培が行なわれていたのは一部の地域
・松は油脂を含み、火力が強いため篝火に最適。陣のような固定的な場で焚かれたのが篝火。松明(たいまつ)は主に移動用。 松の根にも油脂が多く、油脂を蝋燭にもした
・戦国時代には堤燈が普及していた
・中世の蝋燭は漆の実から作った。会津地方の特産品
・立山(たてやま)・立野(たての):特定の場所を占有することを示すために木を立てた。山廻・野廻らが巡回・監視した
・山守(やまもり):他者の侵入から山(立山)を守るため武装していた。立野には野守がいた
・中世の山には山立(やまだち)という山賊がいた
・山札銭:山に入る代償として領主に銭を納めた。許可証として札を与えた。過度の伐採により銭の徴収が出来なくなった
・上野国(群馬)では苗木の育成による植林が行なわれていた。杉、サイカチ、コナラ、アスナロ、ケヤキなど。岩槻では栗が植林されていた。
・栗は成長が早い。人為的に育成しやすい
・戦国時代には飢饉状況がしばしば発生

-目次-
序章 合戦の勝敗は軍需物資の確保にあり!
第1章 軍用品の調達に奔走する大名たち
第2章 軍需物質を確保した大名が勝利をおさめた!
第3章 合戦・城攻めに使われた武器武具
第4章 武器・武具の調達方法を検証する
第5章 伐採と植林をくりかえした戦国時代
終章 戦国軍拡と自然環境の変化