読書メモ
・「私の第七艦隊」
(日高 義樹 :著、集英社インターナショナル \1,400) : 2009.02.07
内容と感想:
つい先日(2009年1月末)、第七艦隊の空母「キティホーク」が退役した。
それに代わって最新鋭原子力空母「ジョージ・ワシントン」が就役。
その第七艦隊は横須賀を母港としている。
本書は著者の「第七艦隊番」としての40年に渡る取材記録であり、自伝的でもある。そして同艦隊と日本の将来を考える書である。
著者はかつてNHKの記者時代にワシントン特派員となり、ペンタゴンの記者クラブにも出入りしていた。
そこでTV番組「ワシントン・レポート」でもお馴染みのキッシンジャー博士との出会い、
ニクソン大統領時代に大統領専用機「エアフォース・ワン」にも招待され、アメリカの政治家とも人脈を広げたと言う。
第六章では日本は今、独自の戦略と軍事力によって自らを守らねばならない状況になろうとしていることを指摘している。
つまり日米安保のもと、日本がアメリカによって守られる時代は終わったのだ。
日本は自らを守るためにはアメリカや欧州との協力が基本になる。
そして、それらの国々と対等な立場に立つことが大前提となる。
著者はアメリカとは対等な立場で軍事同盟を結ぶことを考えている。
それはアメリカとイギリスとの関係がモデルになるとも言っている。
「対等な関係」を築くためには一緒に汗をかき、時には血を流さなければならなくなる。
日本にはその覚悟はあるだろうか?また、イラク戦争のようにアメリカの暴走を止める政治力を発揮できるだろうか?
そのためにもアメリカ追随やアメリカ任せでなく独自の戦略を持ち、他国から尊敬され、一目置かれるくらいの強みを
アピールしていかねばならない時が来ている。
最後のほうに改憲について書かれている。憲法第九十九条の「憲法を守るためにあらゆる努力をしなければならない」という記述を
著者は「憲法を守るためには戦うことも許される」と解釈している。少し強引な論理に思える。
憲法がまるで国民の(生命よりも)上位にあり、尊いものであるかのようだ。
憲法を守るために国民の生命が脅かされるのであれば本末転倒で、(戦争を含め)何をしてもいいということにはならないがどうだろうか。
勿論、著者も戦争がやりたいわけではないであろうが、軍事力に頼ろうとする意識が高いという印象をもった。
私は改憲派でも護憲派でもないが、
まずはあらゆる外交手段を講じて、国同士の信頼を高め、戦争を回避し、世界の平和と発展につながる努力をすることが優先されるべきだろう。
軍事力の行使は最後の手段だろうが、著者に好意的に素直に読むのならば、行使しなければならない時がいつ来てもいいように準備をしておけ、
と言っていると読むことができる。
○印象的な言葉
・アメリカ海軍は世界の海を4つに分けて支配。世界に5つの艦隊、空母10隻をもつ
・第七艦隊の担当海域は最も危険な西大西洋から東シナ海、南シナ海、インド洋。横須賀が根拠地、佐世保とグアムを重要な基地とする。
・新タイプの水上攻撃艦艇リトラル:一台三役の戦闘艦艇。
・冷戦型の海軍とは違う、海上輸送路の安全を図るための海軍へ
・中国軍が開発した艦対艦ミサイル。レーダー探知が困難、小型
・中国の軍人は必ずしも北京の政治家たちにコントロールされているわけではない
・現状では中国軍が台湾に地上部隊を送り込む能力はない。爆撃する意図も能力もない
・ペルシャ湾で戦っているのは第五艦隊、これは第七艦隊に属する
・イージスミサイルシステム:精度や攻撃力のレベルが自動的に上がる仕組み
・イージス巡洋艦「カーティス・ウィルバー」はステルス性をもつ。
・電子攻撃艦「ブルーリッジ」は第七艦隊の旗艦。通信能力が格段に向上。
・B2爆撃機:ステルス性。ジェット噴射の光が外から見えにくい。高高度を飛ぶ。
・グアム:北端は空軍の戦略基地、南端には海軍基地
・佐世保重工:大型船舶の建造では日本一の技術。かつては日本帝国海軍の艦艇を建造
・イランは核兵器を持ち、中東への影響力を高めようとしている
・中国にはイランを抱き込み、中東に大きな基盤を築き上げる危険がある。核兵器やウラン濃縮技術をイランへ提供、軍事経済同盟を作り、
石油を独占的に入手しようとしている。
・中国はソマリア西部の石油地帯を押さえる反政府軍を支援
・石油の利権を巡る内戦はスーダン、ガボン、ギニア、ナイジェリアにも広がり、アフリカ全体が混乱
・2020年までに世界中で増える石油消費量のうち、40%は中国の消費の増加分
・アメリカは経済関係では中国とうまくやっていくほうが得で、色々と使い道があると考えている
・中国の軍事力増強の中心は台湾海峡周辺。軍人や軍事技術の質の向上に注力。短期決戦型の高度な新兵器に力を入れる。
アメリカへのネットワーク攻撃にも力を入れる。アメリカ全土で大規模なスパイ活動も。
・中国の年間の軍事費は日本やロシアの2倍、インドの5倍。アメリカの1/3
・アメリカ空軍は電子警戒大隊を創設。サイバー司令部を設立。
・アメリカ陸軍は超高スピードで移動する新しい装甲車や戦車の開発を急ぐ
・「大国」の定義:大きな経済圏、十分な資源、技術力、軍事力、知的水準の高い国民
・日本にはあらゆるものを取り入れ、日本流に変形してしまう能力をもつ
・日本国憲法第99条:「憲法を守るためにあらゆる努力をしなければならない」。憲法を守るためには戦うことも許される。
-目次-
第1章 アメリカのアジア太平洋戦略が変わる
第2章 ミサイル潜水艦が北京を狙う
第3章 すべては佐世保から始まった
第4章 アメリカ第七艦隊とベトナム、そしてワシントンへ
第5章 中国は自滅する
第6章 日米軍事同盟はどうなる
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