読書メモ

・「日本経済を襲う二つの波 ―サブプライム危機とグローバリゼーションの行方
(リチャード・クー:著、徳間書店 \1,700) : 2009.01.12

内容と感想:
 
二つの波とはサブタイトルにあるように、 一つはサブプライム問題。この問題は戦後最悪の不況をもたらしかねない大問題だという。 これは日本がバブル崩壊以降に経験したバランスシート不況と同類の問題であるため、処方箋として参考になると著者は考えている。 第一章と第二章では日本の事例と対比させて述べている。
 サブプライム問題によりアメリカおよび基軸通貨ドルの信用は著しく落ちたが、 第三章の中で著者はアジア諸国の通貨を一斉に15%上げることを提言している。 それによりドルの大暴落が防げると見込んでいる。 世界恐慌を招かないための選択肢の一つになるかも知れない。
 もう一つはグローバリゼーションの波だ。日本も新興国から追われる立場になった。 かつて日本に追い上げられた経験をもつ欧米を分析することがヒントになるという。 中国やインドの台頭はグローバルに展開できる人たちや企業には「歴史的チャンス」であるが、 その波に乗れるのは中国語や英語ができる優秀な人材がいる大手や中堅企業に限られると書いている。 グローバリゼーションの波をまともにかぶっているのが中小・零細・地方の企業であり、 産業の空洞化が進んでいる。
 そうした経済状況で日本が豊かさを維持していくためにどうすべきかについても述べている。 不況に対しては金融政策は有効ではなく、財政出動が欠かせない。日本では何かとバラまきだと批判は大きいが、 必要なところへの資金の投入は内需の下支えになる。
 そこで著者は日本の土地と住宅に対するパラダイムシフトの必要性を説く。 日本の住宅市場には構造的に欠陥があり、そのため住宅環境にはまだ改善の余地があり、良質の住宅に対する需要があると考えている。 それは日本経済にとって貴重な内需を提供することになる、と言っている。 詳細は本に譲るとして、政府がそうした需要を刺激する施策をとることで二つの波を乗り越えることが出来るかも知れない。 住宅および住宅関連市場は大きそうだが、一方でサブプライム問題と同じように 野放図な住宅ローン融資などが起きないように当局の監視も必要であろう。
 本書の最後に、欧州の人々は立派な古い住宅と社会インフラのおかげで、低成長でもリッチな生活を送ることができている、 というように今後ますます少子高齢化で低成長の日本には欧州がモデルになる。 日本は技術力を駆使して何世代にも渡って住み続けられるような住居を建てれば、現在の建て替えを前提とした、資源の無駄使いも、 資産としての価値の減価も抑制され、そこそこには生活していける水準を保てることだろう。

○印象的な言葉
・不況に最終的に同じような対応策が必要なのは不況の基本メカニズムが民間バランスシートの毀損にあるため。 民間が一斉に財務の健全性確保に走ると、金融政策や景気対策が効力を失う
・日本の住宅市場の構造欠陥:日本以外の国は富の上に富を上積みしていくシステムなのに、日本は造っては壊し、という永久にリッチになれないシステム。 住宅がクルマと同じ耐久消費財として扱われているのは日本だけ。欧州では住宅は資本財。欧米の住宅市場のほとんどが中古住宅。
・カウンターパーティ・リスク:取引相手に対するリスクをみんなが取りたくなくなる。疑心暗鬼
・ITバブル崩壊後のアメリカの金利引下げが住宅バブルを生んだ
・2000年代前半のアメリカのGDP成長率の6割以上は住宅と住宅関連によるもの
・2004年のアメリカでは住宅需要は飽和。そこにサブプライムという未開拓のマーケットを作り上げた
・サブプライムより市場規模の大きいプライムローンの延滞も始まっている。
・米国金融当局は預金や決済システムを担う商業銀行の破綻には責任をもつが、投資銀行や証券会社には距離を置く(彼が扱うのはリスク資金であり、全く別の正確の金である)
・実質実効為替レートでみれば2008年の1ドル100円は、プラザ合意の1985年水準で見れば、1ドル210円に相当。今の85円は20年前の190円相当であり、まだまだ日本はやっていける。
・為替が大きく振れるときは15%くらいは3日で動いてしまう。マーケット任せにするのはリスクが大きい。暴落が止まらなくなる危険性。
・日本のバブル崩壊後、倒産の急増とならなかったのは企業の本業はしっかり利益を出していたから。バランスシートは毀損したが、キャッシュフローが充分にあった。
・最近、日本企業が露骨に株の持ち合いを再開しているため外国人投資家が失望している
・中央銀行は「最後の貸し手」、日本政府は「最後の借り手」
・今はバランスシート不況の最終局面。まだ脱却したとは言えない。デフレ脱出の兆しは見えている。
・輸入インフレは海外への所得移転、その分、日本は貧乏になるだけ
・「ゆうちょ銀行」も新銀行東京のように短期に不良債権の山を作りかねない
・日銀がどんなに頑張っても不況を克服して景気を良くすることはできない
・日銀総裁に必要な資質:見識、内外の無知・無責任な連中の言うことに充分反論できる学識と強い意志、骨のある人物
・非主流派への期待。違う風景を見てきた人。変人扱いされている人。奇抜な発想

-目次-
はじめに
第一章 サブプライム問題は戦後最悪の金融危機
第二章 住宅バブル崩壊のアメリカはバランスシート不況
第三章 ドル危機に世界はどう対処すべきか
第四章 日本はバランスシート不況を脱却できたか
第五章 日本に襲いかかるグローバリゼーションの大波